2023年06月23日

「おもしろそう〜」の粒度

何を人は面白そうと思うか、
粒度ごとに見ていくかな。


まず一番粗いのがジャンルだろうか。

「恋愛もの」→ええー、恋愛ものー?!
 おもしろそうー! イケメンと可愛い子が出るんでしょー!

「ホラーもの」→怖い話だいすき!
 暗くて怖いの最高!

「冒険もの」→やっぱスリルとヒーロー!
 お宝とかめぐって戦うんでしょ?!見たい!

「アクションもの」→どかーん!ぼーん!
 そういうスカッとしたやつが見たいよな!


こんなぐらいの粒度で、
「今夜見る映画」を決めるのだ。
そんなものでまずふるいにかけられてない?

「○○と**を掛け合わせた新ジャンル!」
なんてなったら、
この粒度で映画を楽しみにしてる人から、
敬遠されることだけは覚悟しなさい。

結局、粒度の粗い状態で、
楽しみにさせられない段階で、
ダメなものは切り捨てられるのだ。

どんでん返しがウリだとしても、
「猿の惑星」は、
「不時着した惑星は、言葉を話す猿の支配する異常な星。
ワイルドなやつら相手に生き延びることができるか?」
という、「サバイバルもの」として、
ジャンル分けされなければならない。

おなじく「いけちゃんとぼく」は、
いけちゃんの正体がウリであるものの、
「子供たちのワイルドな日々!」
を最も粒度粗く売るべきだった。
しかし方針は二転三転し、
よくわからない粒度の売り方をされている。

だから食いつきが悪いのは火を見るよりあきらかだ。



次の粒度へすすむ。

ジャンルの粒度のつぎは、主演俳優かな。
「○○が出てる」だけで粒度の粗い人は食いつくものね。

だから、
映画というのは基本、
「○○が出てる**もので、今一番おもしろいやつ」
くらいの受け入れられ方しかしないのだよ。

自分のシナリオが、
まずそこに該当してないと、
ラインナップに乗せてくれないわけ。

東宝には悪名高き「調整部」というのがあって、
年間の上映スケジュールを決める部署があるんだけど、
「この時期に恋愛ものが多いから、
これは作らなくて良いです」といって、
企画を跳ねるくらいだぜ。
その恋愛ものとこの恋愛ものは全然違うやろ、
と思ってもダメなんだよ。(一度ありました)
「青春モノに書き換えるなら、
枠が空いてるけど」みたいな返事すらあった。

その程度で興行ってやるんだ、
と中身をつくってる我々は驚いた記憶があるな。

もちろん、それが最高によいやり方かは議論の余地があるが、
その他のやり方で東宝より儲けてるところがないので、
ぐうの音も出ねえよな。


粒度はそんなもんだ。
そんなもんで、人は映画ポスターを見る。
そしたらブロッコリーと写真のトーンで、
大体区別がつけばOKになっちゃうよね。

まあ、だから映画はつまらないのだ、
と言われればそれまでで、
我々はそれを突破する必要がある。

つまり、
これらの粒度に対して、
対抗しうるだけの、
「新しいジャンル」を作ればいいだけの話だ。

たとえば「CUBE」や「ソウ」で、
「密閉された空間でスリラー的なやつ」
が流行った。
ソリッドシチュエーションスリラーなんて名前をつけられてたけど、
「そういうやつ」という感じを新しく提出したわけだ。

あるいは「ゆる系コメディ」なんてのも、
ここ20年くらいに定着してきたジャンルだよね。

そんな風にして、
「新しいジャンル」を、
既成ジャンルの隣に置いたとしても、
わかりやすい、区別しやすいやつに整えることは、
とても大事なことだ。


これは新しいストーリーをつくることとは、
全く別の判断や創作力が求められている。

全く新しいものに、人は手を出さない。

仮にポテトチップわさビーフ味が、
新商品として出たとしよう。
全然想像できないときに、
ステーキをわさび醤油で食ってる写真を見せれば、
「ああ、それはありかも」ってなるよね。
そのような、
「こう楽しむんです」がわかると、
人は手を出したくなる。

それを提供できれば、
「ああいうやつね」と、イメージをつくることができるわけ。

もしあなたの作るものが、
全く新しいジャンルにするならば、
それを提供できたら勝ちだ。




次の粒度はなんだろう?
プロットとヒキだ。

つまり、
「恐竜の遺伝子を復活させて、
生の恐竜を見せる動物園ができた。
だが嵐の夜、その制御マシンが壊れ、
そこに取り残された人たちがいた…」
という、4行ぐらいで書ける、
「センタークエスチョンへの誘導」だ。

最近の宣伝部はこれを書くことがとても下手だ。

文章を書き慣れてないし、
脚本も書いたことがないのだろう。

だから高尚なことを言いがちになるか、
「大ヒットNo.1」しか言わなくなる。
それじゃあ中の粒度を細かく見ていけない。

コミュニケーションとは、
誰もがわかる表現のことをいう。
そこに、粒度の異なる情報を、
次々に与えられるかが勝負だ。

そしてもちろん、その出来不出来には大小があるため、
できている部分を多めに宣伝するのはわかる。



あなたのシナリオは、
どのように宣伝されるかな?

粒度の粗い順からならべてみなさい。

まだどんでん返しやプロットやテーマや構成にたどり着いてないよね。
でもそのレベルで宣伝されるぜ。

せいぜい、「驚愕のラスト15分!」とか、
「誰も見たことのない展開」とか、
「愛と平和をテーマに」とか、
わかってないやつの文言になっておしまいだ。

だとすると、
センタークエスチョンへの興味の誘導4行こそが、
肝になってくるよな。


「RRR」がどれだけ素晴らしい物語だとしても、
「虎を素手で捕らえる、最強の男ビーム。
二千人の暴徒を一人で鎮める、最強の警官ラーマ。
列車の暴走事故から子供を救い、二人はお互いを知らぬまま意気投合。
しかしラーマの追う賊とは、ビームのことであった…!」
ぐらいしか4行で書けないってことさ。

でもこれを「歌と踊りの絢爛豪華!」とか、
「ロード、エイム、シュート」とか、
「肩車最強!」「馬とバイク!」とかいうよりも、
全然導入の意図があるってことだ。


所詮他人の書いたものだ。
自分のものもその粒度で観察しよう。
鏡を見るとはそういうことだ。
posted by おおおかとしひこ at 00:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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