2023年08月14日

リアリティとクソリアル

「武士が人を切る音」は、
実際どんな音なん?


多分誰も聞いたことがないよね。
「あー、そうそう、
時代劇でついてるあの音さー、
全然リアルじゃないよね。
人を切った時にあんな音しねえよ」
っていう人はまあいないだろう。

でもそれは了解事項としてみんな理解している。

勝新太郎は「座頭市」のときに、
それを覆そうとして、
割とリアルな肉切りの音を入れたそうだ。
でも「わかりにくい」「爽快感がない」
として不評だった記憶がある。

つまり。

リアルを見ることでがっかりすることがある。

「きっとこうなんだろうな」という、
「知らない人の期待」がある、
ということだ。

刀で人を切ることは、
分かりやすく、爽快でなければならないと、
リアルを見れば分かるわけ。


これは、
嘘をつく時の基本である。

まずリアルを知らない時に、
期待をする。

そしてリアルを知った時に、
がっかりする。

そしてリアルを表現してみる。
リアルだけどがっかりする。

そして、
それを知った上で嘘をつく。
リアルを知らない人が期待しつつ、
リアルを知ってる人も納得するものをだ。


刀で人を切る音は、
白菜を包丁で切る音に、
肉を叩く音を混ぜて作るらしい。
白菜は派手なバサッとかスザッ、
肉はリアルなグチュッとかブチャッて音が鳴り、
適度に混ざると、
「期待するもの」と「リアル」の間になるのだろう。

で、
恐らくだけど、
日本刀で人斬っても音しないよね。
カッターで指切った時に音しないもんな。

ブシュッとかザクって言わないと思うんだ。
刀を振る音、ブンッくらい言って、
骨にゴンって当たる音くらいはするだろうけど、
肉の切れる音なんてほぼないだろう。

チャンバラのブシュッとかは、
かなり嘘だよね。
でも気持ちいい。



リアルだけだと、
がっかりするクソリアルにしかならない。

「それがリアルなのだ、
現実とはいかに厳しいものか」
というテーマならばそれもいいだろう。

セックスは期待したほど良くなかったよね。
そのがっかりを描くことはよくモチーフに出てくる。
だけどその先そのがっかりを描いて、
何をしたいかなんだよね。

女は幻想ほど良くないのはわかったが、
じゃあ「がっかり」がテーマなのかい?
日本がっかり三大観光地、
高知のはりまや橋や女や人を切る音を並べて、
「現実はつまらない」と言いたいのかい?
そのテーマになるほどそうだと感心して、
2000円払う人いるのかな?



30年前に比べて、
たとえばハリウッド映画の銃の音は、
とてもリアルになっていると思う。

バキューン!って漫画みたいな音じゃなくて、
ぱんって乾いた、あまりにも呆気ない音に、
どんどん近づいている。
僕が初めてカリフォルニアの射撃場で銃を撃った時、
そのあまりの呆気なさにびっくりした記憶がある。
火薬のロケットのおもちゃがあったけど、
あれと変わらんやんと、リアル火薬の音で思った。

だからこそ、銃は怖いと感じた。

威力があるから怖いのではなくて、
あっけなく人を殺せる、殺意の軽さが怖いと思った。

だからハリウッド映画は、
「恨みをためて人を遂に殺す、必殺の一撃」ではなくて、
「死ねと思った瞬間瞬きで殺せる」という方向に、
銃を扱うようになっている。

「だからこそ厳重に管理すべき」ということから、
「殺意は管理するべき」ということにもなっていると思う。

リアルが表現や思想をも変えていると思うわけ。

だから逆に、バキューンなんて漫画みたいな音がすると、
「ああ、昔ながらの、角を矯めて牛を殺すような、
恨みの恨みの果ての物語だと思ってくださいってことね」
と人は理解して、その感情のみを楽しむようになる。

リアルが表現を成熟させた例である。



さて、
あなたの物語はどうなんだ?

武士が人を切る音なのかい?
座頭市のようなヘボ音なのかい?
ハリウッドの銃の音かい?
バキューンって感じかい?

リアリティのないヘボ世界ではなく、
クソリアルに堕すことなく、
表現としての立ち位置を決めてるかい?

気づかずにいることだけが恥ずかしい。
自覚していれば、
そこにそうやって立つことに、
誇りを持つだろうからね。


「安心してください、履いてますよ」は、
とても馬鹿馬鹿しい。
しかしそれを自覚してやっている安村は、
尊敬すべき表現者である。
「あのリアリティライン」を創作したのだから。
posted by おおおかとしひこ at 00:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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