2023年10月01日

どうやってその世界に巻き込むか

多くの実写化が失敗している原因は、
「その世界への巻き込み方」なんじゃないか。


人気漫画の実写化を考える。

その漫画に「ひきこまれた」ときはいつだろう。
どこで、
その世界にグッと入るのだろう。

そのタイミングで映画版は入ってるか?
それで入れてれば、
あとは原作と似たような世界を、
楽しめる。

入れてないと、
「なんでこんなことにみなさん必死なんだっけ」
と、
滑ることになる。


つまり、心と噛み合ってるのか、
噛み合ってないのかが重要だ。

映画の場合、
save the catというテクニックがある。
主人公を、かなりの序盤で「いいやつだ」と思えるエピソードをつくり、
感情移入の糸口とするものだ。

そんな主人公に事件が起き、
人間の反応として、
当然のように逃避的に対応するのだが、
進退極まり、
どうしても自分で解決に乗り出さなくてはならなくなる。

それまでには主人公の事情も大体わかり、
その窮状から抜け出そうとする意思に、
ほほう面白そうじゃないか、
と身を乗り出す程度には、
映画の冒頭25〜30分を使う。

これが典型的な、
二時間映画の「世界に入らせる」ための方法論である。

一方、
原作ものでの「世界に入らせる」方法は、
これと異なることが多い。

大体一話でグッと入らせる必要があるため、
何かしらの解決的カタルシスが第一話で行われていて、
そこで主人公を好きにならせる方法論だ。

これが映画の冒頭30分の典型的構造と相性が悪い。

映画冒頭30分で第一話を使い切ると、
「映画化」のくせに残り90分で、
2〜最新話(100話くらいとしようか)を、
混ぜて消化しないといけない。
それは端折りすぎたものになろう。

で、そういうわけにいかないので、
第一話の「世界にグッと入る入り方」が、
とても縮められてしまい、
入りにくくなったものが出来上がる。

こうして、
漫画の実写化は失敗する。

どこにもグッと入るポイントがなくなってしまうからだ。


ただ漫画の設定を借りてきただけの、
コスプレ学芸会になってしまうのは、
ただでさえ実写にしては陳腐で漫画チックな設定に、
グッと入らせることもなく、
滑ったままスタートしてしまっているからだ。


ドラマ「風魔の小次郎」では、
第一話のクライマックスを経たことで、
実写なりの「暴れん坊小次郎」を見せたことで、
「悪くないじゃん」となるようになっている。
壬生との殺陣で、信用に足るものだと分かるようになっている。
ここで「ふむ」と世界に入ったはずだ。
ここに来るまで30分かかるわけだね。
これは、
漫画の一般的な第一話と同じ構造だ。
原作風魔の第一話と同じではないが、
一般的な漫画第一話構造で、
世界に入らせるようになっているわけ。

これは30分連続ドラマならではの手法である。


映画はさらに短い。
これをやったら残り90分しかないからだ。

ドラマ「風魔の小次郎」を、
再編集映画版にできないか?
と相談を受けた時に、
この第一話を30分から15分に切ることは無理だと感じた。
ダイジェストでサクサク進めることは可能だけど、
それで世界にグッと入れるか?
と思った時に、無理だなと思ったのだ。

世界に心が入る瞬間がないものは、
ダイジェストで滑り続けるものになる。

映画は、主人公の喜怒哀楽と共に、
心がシンクロして進行しなければならない。
そうじゃないと滑るからである。

グッと世界と噛み合った、
濃密な二時間を作るためには、
なるべく最初の方で世界に入る必要があり、
それには典型的な方法論がある。


それと、原作の入り方が異なることが、
初手原作の映画化が困難であることの理由だ。

解決法はふたつある。

映画独自の世界に入る方法を発明して、
原作的なものへつなぐ。
これは原作者と同等のシナリオ力があって、
はじめてできることである。

二つ目は、
原作の世界の入り方を映画的にアレンジする。
うまくアレンジできればいいが、
大抵構造的に異なるために成功率は少ない。

で、
一つ目を思い切って選択できず、
選択したとしても原作以上のシナリオ力がないため、
二つ目の一見無難な選択肢を取り、
実は難易度が高いのでうまくいかず、
膨大な爆死シナリオが生まれている。


成功するシナリオになるかならないかの境目は、
世界にグッと入れるかどうかだ。

それは冒頭7分、15分、25分あたりだと言われている。
オッ、フム、ググッ、
くらいのリアクションだろうか。

そういう風に書き直せれば、
成功パターンに乗っかるのだが、
原作構造をそのように再構築できるか?
だろう。


この初手で失敗すれば、
あとはボタンの掛け違いで、
ずるずると滑っていくのみだ。
頭15分で決着がついてしまっている、
ハズレシナリオにならないためには、
この構造の再構築に勝つ必要がある。


さて、どうやってこの世界に巻き込むか?

それができるチャンスは、
冒頭15枚以内。

15分で再生を一端止めたとして、
「この先気になる?」を観客としての自分に問うこと。

「うん、まあ、もうちょっとこのあと見てもいいかな」
と思えれば勝ち。
「いや、まあどうでもいいや」なら負け。
期待させたり、グッと入らせていれば勝ち。
posted by おおおかとしひこ at 00:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック