2023年10月12日

タイトルは遠投

広告の世界に遠投と言われるテクニックがある。

商品の広告をするときに、
その近くの世界を描いて広告するのはふつうだから、
全然違う世界を描いて、
「それの広告だったのか!」と驚かせるやり方。
ベタを近投とすれば、
遠投はベタから最も遠いやり方だ。


とはいえ、
遠投にテクニックがあるわけではない。

ボールを投げる物理的遠投において、
重要なことは、
肩が強いこと、狙いが正確なこと、
最初は近い所からはじめて、
徐々にその距離を伸ばすこと、
という、
基本を忠実に繰り返すことでしか、
遠投する能力はつくれまい。

遠くから投げてみて正確な所にいかないから、
どこまでなら正確な所に投げられるかを知り、
肩を鍛えたりフォームを工夫して、
その距離を徐々に離していくしかないよね。


で、
タイトルである。

タイトルは遠投であるべき、
ということである。

投げるべきゴールはテーマだ。

なるべくゴールから遠ざかったタイトルでありながら、
実はそのテーマの本質を射抜いているタイトルが、
一番気持ちいいということだ。

なぜなら、結論がモロテーマになっていたら、
ネタバレもいい所だからだ。

そして結論こそが作品の本質であるため、
作品のアイデンティティとはテーマである。

しかしそこから遠投しなければ事前ネタバレになってしまう。

こうしたジレンマがあるわけだね。


だからなるべく遠投できるとよい。
一見まるで関係ないもののように見えて、
実は本質を描いているようなタイトルが理想で、
見終えたあとに、
ああこの本質はこのようにタイトルで表現されてたのかー、
なんてものがとても良い。

サントリーOLDの名コピー、
「恋は遠い日の花火ではない。OLD is NEW」は、
OLDを逆手に取って、
熟成とは良いことでそれが新しいことである、
という風にOLDの価値を再発見させたことに意義がある。

これも遠投の例である。

ウィスキーの広告なんだから、
花火関係ないやろ、なんていう人は、
近投しか考えてないわけだ。

近投だとたとえば、
深みのある味わい、ふくよかな香り、
酔いという体験、
ストレートでもハイボールでも美味しい、
みたいな近い場所でしか考えない。

それはベタでつまらんよね、ということさ。

中年の恋という(当時としては)斬新なモチーフを用いて、
花火が絵にないのにそれを花火と例える遠投、
そしてそれがウイスキーという商品に落ちる遠投、
二つの遠投が行われている、
遠投の教科書のような作品である。


広告の場合は、
商品の価値を、日常の遠い何か別のもので置き換えると、
遠投はうまくいくことが多い。

映画のタイトルはどうするべきか。


まず映画のコンセプトからスタートすると良い。
つまり二幕前半、非日常世界における、
「この映画のお楽しみポイント」を書き出すと良い。
それらが、
遠投的にテーマになっているように、
うまく忍ばせるとよいだろう。


自分の例では、
「弾切りの一座」がそれのつもり。

キャッチーでお楽しみポイントである、
鉄砲の弾を日本刀で切る芸が象徴する、
いわば偽物チンドン芸を表の意味にしながら、
武士の象徴の刀と、
近代明治政府の鉄砲を対比して、
その対立を示し、
刀が敗北していく運命を暗示しているわけ。

そこまで読み込む必要はないんだけど、
見終えたときに、ああそこまでタイトルに象徴してあったわ、
となるように仕込んでいるつもりだ。


タイトルで本質をネタバレしてはいけない。
だから、
キャッチーなお楽しみポイントをタイトルにしつつ、
それが実はテーマをうまく暗示しているように、
うまく整えられたとき、
遠投が完成するように思う。

もちろんこれは、
唯一の遠投方法ではない。
他にもやり方は色々あろう。

「一見関係ないタイトルなのだが、
最後にタイトルの意味がわかる」
タイプはみんな好きだよね。
ただ、最初の一見が暗号みたいになってたらあんまり意味がなくて、
タイトルは「人目を引く誘蛾灯」であるべきだと僕は思う。

こうして、誘惑でありつつ実は本質、
という遠投が出来上がると考えている。


世の中のタイトルは、
ヒキそうな派手なやつ、
本質だけの地味なやつ、
遠投に成功したやつ、
遠投に失敗したやつ、
何かをパクったやつ、
つまんなそうなやつ、
などに分類されると思う。

TSUTAYAにでも出かけて、
棚を巡るとそれらを一覧できる。
これがアナログ店舗のいいところ。
(最近どんどん減ってるが)
本屋、古本屋なんかへ出かけて、
ひたすら背表紙のタイトルだけを見るのも、
勉強になる。

これは人目を引いてるか?
地味だけどなんか惹かれる、も含んで良い。
そしてそれはテーマをうまく表現した遠投に成功しているか?
(知ってるものに限るが…)
をチェックして、
どういうものにヒキがあり、
どういう遠投がありえるかをチェックしよう。

昔のものほどストレートすぎるタイトルが多い
(罪と罰とか)から、
近年のやつがいいかもしれない。


遠投はなかなか難しい。
だけど決まった時の快感は、
「香り高いウイスキー」なんて三流近投コピーより、
遥かに時代を超えて人の心を捉えるわけだ。
posted by おおおかとしひこ at 07:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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