今書いてる作品が百人一首関係なので、
少しそのことで調べている。
とても面白いネタだったので共有しておく。
脚本論ではないが、
ここまで調べ物はするのだ、
という例として見られたい。
百人一首(小倉百人一首)は、
藤原定家選といわれるが、
たくさんの謎がある。
とくに、
・古今東西ベストアルバムと思わせておいて、
結構駄作が多い
(当時名作と言われてたやつも入ってないし、
当時名人と呼ばれた人も入ってない、
その代わり無名の人、無名の歌も入っている)
・やたらネタ被り、言葉被りが多い
特徴があり、
「なぜこの100なのか?」
について、疑問が昔からあるらしい。
漫画「ちはやふる」では、
「とりあえず過去の名作100選」という扱いで、
この内容からは逃げていて、
競技カルタだけにフォーカスしていたため、
歌意まで踏み込んだエピソードはとても少なかった。
まあ競技フォーカスだしな、と納得していたが、
調べれば調べるほど、
ストーリーのネタに使えるレベルの歌、すくなくね?
と思えてきた。
歌の意味の解説書を数冊読んで比較対照もしたけど、
「ええやん」というのはせいぜい1/3で、
それ以外は「ふむ」レベルでは?
と思ったんだよね。
で、冒頭の疑問符に答えるものを調べ始めたわけ。
おもしろトンデモ説の代表、
織田正吉「絢爛たる暗号〜百人一首の謎を解く」
林直道「百人一首の秘密〜驚異の歌織物」
の二説を詳しく読んだんだけど、
いまひとつピンと来なかったんよね。
両者とも、
「歌同士の言葉繋ぎをしていくと、タテヨコの平面に並べられる」
ことに気づき、
前者は18×18にならべたもの(隙間多数あり)、
後者は10×10に隙間なくならべたものだ。
とくに後者の結論は、
「それが地図になっている」という宝探しミステリーなみで、
なかなか興奮度が高い。
(僕は80年代何かのテレビで見て、この結論は知っていた。
結論からいうと、定家と関わりの深い後鳥羽上皇のかつて住んでいた、
水無瀬宮とその周囲の地図になっているという説)
これらの言葉同士のつながりを詳細に検討したくなり、
両書を取りよせて検討してみた。
うーむ、牽強付会に見える部分があり、
素直に「解けた!」わけではないっぽい気がしたんよね。
つまり、
まだ別解がありえる気がする。
その方向でのベスト結論ではない感じがする。
なので、
さらにそれを批判している、日本かるた文化館館長
(名前がサイト内に明記されていない)の説、
・子孫が才能がなくてもある程度和歌が詠めるように、
基礎になるテクニックの簡単な100集をつくっておき、
古今東西のこれを押さえとけばいいよ、
といういわばチャート式教科書をつくった
(基礎テクニック集100選)
https://japanplayingcardmuseum.com/002-3-hyakuninisshu-mystery-books1/
が、納得しやすい結論のような気がした。
ただ、具体的にどの歌がどのテクニック集なのか、
つまり空手でいう基本型の使い方として、
きちんと機能してるのかの検討まで踏み入っていないため、
ほんまにそうかどうかはここだけではなんとも言えないのが残念。
百人一首はその成立からいくつもの謎があり、
何がオリジナル原典なのか、いまだ特定されていない。
複数のバージョンから、オリジナルがどれなのか、
あるいは未発見の何かがオリジナルなのかも分かっていない。
かなり厄介な歌集なのね。
とにかく、
「なんでこの100にしたの?」
という選定基準は、「わからん」という結論になってしまった。
いくつかの仮説しか存在せず、
「古今東西ベストアルバム」ではないことだけしか分かっていない。
この解明を待ってから自分の作品に取り掛かっていては、
死ぬまで無理そうなので、
実作を進めることにしたが、
こんな簡単なことも歴史に埋もれると分からなくなるんだなあ、
と、伝えることの大切さを知った次第。
というわけで、
別に百人一首の謎に取り組もうなどと思ったわけではない。
ネタを扱う時に、
ネタのことはよく知っとけよ、という話である。
そうそう、
ドラマ「風魔の小次郎」の9話、
将棋編で、詰めの形が「雪隠詰め」になってたらしい。
「トイレで考える氷川」と引っ掛けた棋譜になってたそう。
これは僕の知らなかったことで、
当時の助監督が用意した棋譜だったのだが、
彼が調べ上げてその仕込みをしたのだとしたら、
いい仕事だと思った。
(偶然かもしれないのでわからない)
ひとこと「そういうギャグ仕込んどきました」
って言ってくれればもっと笑えたのに。
そんな風に、ディテールにも調べ物は影響する。
もちろん、一切使わないという選択をすることもある。
調べる前に精神を戻すことは、
「それを知らない一般人は、そのことを知らなくても特に問題ない」
と決断することだ。
調べて知ってるがゆえに自慢したくなり、
蘊蓄おじさんになることを避けるための、
客観的判断は重要だ。
なので百人一首に対しては、古今東西ベストアルバム説を、
普通に採用すると思う。
2023年09月19日
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