2023年09月19日

百人一首の謎しらべ

今書いてる作品が百人一首関係なので、
少しそのことで調べている。

とても面白いネタだったので共有しておく。
脚本論ではないが、
ここまで調べ物はするのだ、
という例として見られたい。


百人一首(小倉百人一首)は、
藤原定家選といわれるが、
たくさんの謎がある。

とくに、

・古今東西ベストアルバムと思わせておいて、
 結構駄作が多い
 (当時名作と言われてたやつも入ってないし、
 当時名人と呼ばれた人も入ってない、
 その代わり無名の人、無名の歌も入っている)

・やたらネタ被り、言葉被りが多い

特徴があり、
「なぜこの100なのか?」
について、疑問が昔からあるらしい。


漫画「ちはやふる」では、
「とりあえず過去の名作100選」という扱いで、
この内容からは逃げていて、
競技カルタだけにフォーカスしていたため、
歌意まで踏み込んだエピソードはとても少なかった。

まあ競技フォーカスだしな、と納得していたが、
調べれば調べるほど、
ストーリーのネタに使えるレベルの歌、すくなくね?
と思えてきた。

歌の意味の解説書を数冊読んで比較対照もしたけど、
「ええやん」というのはせいぜい1/3で、
それ以外は「ふむ」レベルでは?
と思ったんだよね。

で、冒頭の疑問符に答えるものを調べ始めたわけ。



おもしろトンデモ説の代表、
織田正吉「絢爛たる暗号〜百人一首の謎を解く」
林直道「百人一首の秘密〜驚異の歌織物」
の二説を詳しく読んだんだけど、
いまひとつピンと来なかったんよね。

両者とも、
「歌同士の言葉繋ぎをしていくと、タテヨコの平面に並べられる」
ことに気づき、
前者は18×18にならべたもの(隙間多数あり)、
後者は10×10に隙間なくならべたものだ。

とくに後者の結論は、
「それが地図になっている」という宝探しミステリーなみで、
なかなか興奮度が高い。
(僕は80年代何かのテレビで見て、この結論は知っていた。
結論からいうと、定家と関わりの深い後鳥羽上皇のかつて住んでいた、
水無瀬宮とその周囲の地図になっているという説)

これらの言葉同士のつながりを詳細に検討したくなり、
両書を取りよせて検討してみた。

うーむ、牽強付会に見える部分があり、
素直に「解けた!」わけではないっぽい気がしたんよね。
つまり、
まだ別解がありえる気がする。
その方向でのベスト結論ではない感じがする。


なので、
さらにそれを批判している、日本かるた文化館館長
(名前がサイト内に明記されていない)の説、

・子孫が才能がなくてもある程度和歌が詠めるように、
 基礎になるテクニックの簡単な100集をつくっておき、
 古今東西のこれを押さえとけばいいよ、
 といういわばチャート式教科書をつくった
 (基礎テクニック集100選)
https://japanplayingcardmuseum.com/002-3-hyakuninisshu-mystery-books1/

が、納得しやすい結論のような気がした。

ただ、具体的にどの歌がどのテクニック集なのか、
つまり空手でいう基本型の使い方として、
きちんと機能してるのかの検討まで踏み入っていないため、
ほんまにそうかどうかはここだけではなんとも言えないのが残念。



百人一首はその成立からいくつもの謎があり、
何がオリジナル原典なのか、いまだ特定されていない。
複数のバージョンから、オリジナルがどれなのか、
あるいは未発見の何かがオリジナルなのかも分かっていない。

かなり厄介な歌集なのね。


とにかく、
「なんでこの100にしたの?」
という選定基準は、「わからん」という結論になってしまった。
いくつかの仮説しか存在せず、
「古今東西ベストアルバム」ではないことだけしか分かっていない。

この解明を待ってから自分の作品に取り掛かっていては、
死ぬまで無理そうなので、
実作を進めることにしたが、
こんな簡単なことも歴史に埋もれると分からなくなるんだなあ、
と、伝えることの大切さを知った次第。


というわけで、
別に百人一首の謎に取り組もうなどと思ったわけではない。
ネタを扱う時に、
ネタのことはよく知っとけよ、という話である。


そうそう、
ドラマ「風魔の小次郎」の9話、
将棋編で、詰めの形が「雪隠詰め」になってたらしい。
「トイレで考える氷川」と引っ掛けた棋譜になってたそう。

これは僕の知らなかったことで、
当時の助監督が用意した棋譜だったのだが、
彼が調べ上げてその仕込みをしたのだとしたら、
いい仕事だと思った。
(偶然かもしれないのでわからない)
ひとこと「そういうギャグ仕込んどきました」
って言ってくれればもっと笑えたのに。


そんな風に、ディテールにも調べ物は影響する。
もちろん、一切使わないという選択をすることもある。
調べる前に精神を戻すことは、
「それを知らない一般人は、そのことを知らなくても特に問題ない」
と決断することだ。
調べて知ってるがゆえに自慢したくなり、
蘊蓄おじさんになることを避けるための、
客観的判断は重要だ。

なので百人一首に対しては、古今東西ベストアルバム説を、
普通に採用すると思う。
posted by おおおかとしひこ at 09:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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