2023年09月23日

最近すごいバカと話してびっくりしている

技術体系を知らない人は、
技術をそういう風に考えてるんだな、
ということがわかったので整理しておく。


僕は技術畑の理系である。
プラモやプログラムをつくってきた。
絵を描き、脚本を書き、映像を作る。

すべてに共通するのは、
「ある技術体系を学び、
それらを組み合わせて応用して、
なにかをつくる」
というものだ。

分かりやすいのでプラモにたとえるか。

たとえば筆塗りひとつとっても、
技術が必要だ。

手先が器用であることはもちろんだけど、
左手でパーツを固定する技術も必要だし、
塗料をダマにしない技術も必要だし、
ためらい傷をつくらないように、
一気に塗るために動線を見極める技術もいる。
なんなら失敗のごまかし技術もいろいろある。

そういう細かいものを積み上げて、
都度組み合わせての総合力が、
技術がある、
ということだよね。

また、技術は新しくなるから、
新しいものをキャッチアップする必要もある。
そして技術にはかならず欠点がある。
あることができるということは、
別のことができないということ。
だから、新しい技術だからといって、
完全上位互換などなく、
前の技術のいいところを捨てている可能性がある。
だからそれが使える間は昔の技術だろうと使うし、
それを捨てたら失伝だ。
二度と同じことはできなくなるわけ。
最新の技術をもってしてもね。


こんなことは、
技術を使う人には当たり前なのだが、
どうもそれを知らない人が、
世の中にいることが最近わかってきた。

いや、弊社はプロダクションだから、
誰もがみんな技術者だろうと思っていたが、
どうやらそうではないらしい、
技術でなく人柄だけで渡ってきてる、
技術がないやつがいるぞ、
ということがわかってきたのだ。


彼らは技術を、細かいパーツ分けではなく、
もっとざっくりした便利なものだと思っているようだ。
だから、それを得たら魔法をひとつ覚えて、
何かすごいことができるかのように思ってるみたい。

「使ったことない技術」に対して、
そういう幻想を見ることはよくある。
だけど技術を学べば学ぶほど、
そんな銀の弾丸はないことが分かってくる。

相対性理論ですら、その画期的な理論にも関わらず、
現実社会ではGPSの補正値くらいにしか使われていない。
(もちろん、粒子レベルの物理学やブラックホールなどの巨視的物理では大活躍するが、
所詮人間-地球レベルでは影響が少ない)

銀の弾丸はないからこそ、
一つ一つの技術を学んで、
一つ一つ身につけて、その階段を上がっていくしかない。

ところがそれを経験したことのない人は、
技術をもっと三段跳びとか五段跳びのイメージで見ていて、
しかも、
「組み合わせて積み上げるパーツ」とは思ってなくて、
「それを装備した瞬間なんでも戦える魔法」
と思ってるっぽい。



ここ最近、若いやつに教えるための塾のカリキュラムを作っている。
阿呆な上の人間は、
「それを学ぶことでどんなメリットがあるか、
表にしてくれ」
と言って僕はびっくりした。

おまえ、対角線論法を学ぶことでどんなメリットがあるか、
説明できるのか?
と言おうとして、
そうか、世の中の9割の人間は、
数学を挫折した人たちだなと思い出す。

この技術をひとつ学べば、
最終的にこれが出来るようになるよ!
というのは、
「数学なんて何になるの?」
という単純な問いに答えることになるだろう。
CGをやりたきゃベクトルと行列は絶対だ。
イラレを使いたきゃスプライン曲線のために微分がいる。

ゴールを先に設定しないと技術が必要とわからない人たちは、
「その技術は応用範囲が広く、
100万の用途に使える」
ということを信じられないのだろう。

プラモの筆塗りの技術は、
ちなみに絵を描いたり、書道をするのにも使えるし、
ハサミの工作も同じことだし、
なんなら女を愛撫することにも応用できる。

技術は結果と一対一対応ではない。
それは技術をマスターしてないと、
分からないことなのか。



なるほど、
世の中のバカの原理を少し理解した。
俺はバカが上にいる会社に所属しているのだな。


まあこういうわけだから、
「この映画をつくると、
この観客にひびきます!」
ってバカな企画書が通りやすいんだな。
「この脚本はこういう宣伝をしたらよい」
とわかる技術者がいないわけだ。
posted by おおおかとしひこ at 11:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック