相変わらずchat GPTをいじめてテストしている。
「SFのアイデアを出させたり、ストーリーを出させる」
という例についてまとめている人がいたので引用して、
表題について考えよう。
https://note.com/kei_aoto/n/nfbee3998d809
レベル3の空想力というのは知らない語ではあったが、
定義を見ればわかる。
人工知能にとって困難かどうかは置いといて、
これは物書きを志す者ならば、
できて当然の空想だ。
もしこの程度も出来ない人がいるのなら、
その人は物書きに向いてないし、
アイデアを批評することはやめておいた方がよい。
この程度の空想は、
スポーツ選手にとって50mを10秒で走れ、
というのと同じだ。
目瞑ってもできるわ。
なので、
この程度をアイデアとして有り難がるのは、
あまりにも危険だ。
貧弱な書き手にはすごいアイデアに見えるかも知れない。
むしろこの程度をアイデアと認識するのは、
書き手として貧弱であることの自白にすぎない。
ちょっとSFでも書くか、
と思った時に、
1分以内にこのレベルが出てこないなら、
空想家としては失格だろう。
なお、
「すでに見たことのあるものしか作れない」
と嘆いている人には役に立つかも知れない。
何せランダムサイコロを無限に振ってくれるからね。
僕は、
実はこれらのアイデアにほとんど優劣があるとは思っていない。
もちろん、これまであった何かしらに似ているならば、
劣ったアイデアである。
しかし新規性があれば、
どれもアイデアはアイデアである。
より優れているかどうかの評価はないと考えている。
アイデアが素晴らしいアイデアになるのは、
「それがストーリーを産んだ時」だ。
さて、
ストーリーなるものを見よう。
どれもひどい。
ストーリーの体をなしていない。
いや、プロットっぽい形式をしているから、
素人目にはこれがストーリーの原型、
プロットに見えるかも知れない。
だけどよく見てみたまえ。
すべて具体が一つもないことに注意されたい。
すべては抽象的だ。
引用しよう。ストーリー1の場合。
ストーリーの展開案
・縮小化された人間が、植物や動物と対峙する
・微小な生物の視点から見た惑星の景色や風景などを描写する
・人類と微小な生物の交流やコミュニケーションを描く
ストーリーとはなにか?
行動、動機、結果だ。
それを具体的に詰めたものがプロットである。
そしてそれをする人を主人公という。
このエセストーリーには、主人公がいない。
仮に一行目の「人間」を主人公として、
太郎とする。
太郎はなにをする?
「コミュニケーション」しかしないらしい。
動機は? なんだか驚いて、生き残るための情報収集だろう。
結果は?
食われる? 食う? 戦争? 和解?
何もない。
そしてそもそもこの事件の最初の、
「縮小化した」のは誰?
神? 誰か悪者? 動機は?
そこにも言及がない。
つまりこれは、
「ストーリーを作る初心者が、
それがストーリーだと勘違いしているもの」
の形をしている。
設定である。
設定はストーリーではない。
二時間、あるいはそのストーリーの尺によるが、
数ページの時間を過ごす、
その時間がストーリーである。
他方、設定とは、
ある時点での世界を描写したものにすぎず、
時間経過、すなわち変化が含まれていない。
変化させるのは主人公だ。
行動によってだ。
「何者かによって縮小させられた」のだから、
主人公のゴールは、
「諦めてここで生きていく」か、
「元に戻る」の二択である。
「何者か」が人間だとしたら、
その者への復讐もゴールに含まれるだろう。
その目的にむけての、
行動の一連、およびその最終結果が、
ストーリーと呼ばれる全体だ。
だからこのエセストーリーには、
ストーリーを始めるための設定しかなくて、
ストーリー本体が一文字もないのである。
起承転結の起はストーリーの一部である、
という詭弁も成り立つかも知れない。
しかし起だけ書いて、
その後ストーリーが書けなかった人は、
ごまんといるだろう。
それはストーリーの全体をつくったことにはならない。
正しいあらすじとは、
起承転結をすべて含むべきであり、
一部ではない。
さて、
仮にこのストーリーが、
「何者かによって縮小化された男が、
植物や動物たちとコミュニケーションを取り、
なんとかサバイバルしていった結果、
彼らを味方につけて、
拡大装置の場所をつきとめ、
元に戻り、彼らと共に犯人に復讐を遂げる」
という話だとしよう。
それが面白いかどうかはおいといて、
最低限ここまで整っていないと、
ストーリーをつくったとはいえない。
具体で言及されていて、
主人公の行動と動機と結果が書いてあるからだ。
ただこれだけではまだストーリーではない。
何が足りないか?
テーマだ。
つまり、
「この男の受難、および行動、解決に、
何の意味があったのか?」
が欠けているわけ。
仮に「人間は逆境こそ輝く存在である」
だとしよう。
だとしたら、縮小化した悪者は人間ではなく神で、
「ふむ、やる気のなくなった人間を絶滅させようと思ったが、
まだまだ人間には生きる気力のあるやつがいるのう。
しばらく頑張ってみよ」と、
少子化が進み、環境汚染が進んだ未来の地球に戻しておしまい、
でもいいはずだ。
つまり、
「そのテーマを表すのに、
もっとも効果的なストーリーか?」
が、
ストーリー作りに重要なのだ。
「人間は逆境こそ輝く存在である」
のテーマに、
縮小と拡大必要?ってなるわけ。
じゃあ縮小がテーマに絡んでこないといけないよね。
なるほど、そのテーマのために、
最も的確なモチーフを選んでいるぞ、
となったとき、
人は腑に落ちるからである。
縮小世界、意味なかったよな、
ってなったら、
間の大冒険は単なるCG博覧会で終わるわけだ。
もちろん、白組のデモフィルムとしてはいいだろうが、
一般人が見て感銘を受ける、
金になるストーリーではない。
このことで思い出すのは、
ウルトラQの「1/8計画」である。
突如1/8にスケールが縮んでしまう、
奇妙な現象についてのフィルムだ。
で、オチとしては原因が不明のままなんだよね。
「神は、狭くなりすぎた地球を人類で埋め尽くさないために、
1/8に人間を進化させてしまったのかも知れない」
というオチが秀逸だ。
縮小することは神の意志であり、
増え続ける愚かな人類への警告である、
と、テーマと縮小をうまく使ってるわけ。
ここまでやって、
はじめて縮小がテーマと関係してくるわけだ。
もちろんこのオチはすでにやられているため、
縮小と拡大をモチーフとして、
どんなテーマを描くためのストーリーなのか?
について考えなければならない。
そして、それこそが「本当のアイデア」だ。
縮小する人間や世界は、アイデアではない。
まだガワのアイデアにすぎない。
それがストーリーに必要なアイデアになるには、
ストーリーに不可欠なものにならなければならない。
本質的には、
縮小がテーマにもっとも相応しいモチーフになれば、
その必要条件を満たす。
ここまでできて、
はじめてストーリーのアイデアの形になるわけ。
多くの単なるアイデアならば、
20秒で出せる。
しかしそれがストーリーのアイデアにならないのは、
ストーリーの形に整うとは限らない、
そしてストーリーの形になる確率が少ないからだ。
これをもってストーリーだと言う人は、
ストーリーの本質を何もわかっていない。
逆に、
この程度の形を分析することで、
「ストーリーとはなにか?」
「ストーリーになるアイデアとはなにか?」
を、
炙り出せたような気がする。
人工知能の研究を批評して、
「玉ねぎをむく」ことと言われているらしい。
人間の本質を真似しようとして人工知能をつくったが、
それは本質ではないことが、
つくってみてわかった、
ではそれを除外したところが人間の本質に違いない、
と、どんどん玉ねぎを剥いていくことで、
人間の本質に迫ろうとなる、
という意味合いだろう。
むいてもむいても、人間の本質や、
ストーリー作りの本質は見えてこないものだね。
実はこれは、僕が人工知能研究室をやめて、
ストーリー作りの商売をしようとした動機でもある。
研究して本質に漸近するくらいなら、
先に名作作った方がいいよね、
と思って、人工知能研究者に興味がなくなったのだ。
余談が過ぎたが、
ストーリーの本質とはなにか?
これではないものだ、と、
人工知能は提示してくれているね。結果論だが。
なぜあなたの出すアイデアはストーリーまで成長しないのか?
それを用いてテーマを描くための、
もっとも的確なモチーフではないからだ。
つまり、逆に言えば、
あるテーマをそのモチーフで描ける、
斬新なモチーフとテーマの組み合わせを考えることが、
アイデアを出すと言うことだ。
それができないから、
あなたのアイデアはガワで終わるのだ。
(ちなみに僕は、
縮小と拡大をモチーフとした、
斬新なテーマのストーリーは今回思いつかなかった。
なので「1/8計画」を例とした。
思いつくならば、縮小でも名作ができるかもしれない)
2023年11月08日
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