2023年12月14日

【薙刀式】カナ配列薙刀式はいいぞという話【キーボードAdvent Calender 2023】

この記事はキーボードAdvent Calender 2023の記事です。
昨日はsatromiさんのエルゴノミクスキーボードの話でした。
物理のエルゴノミクスでも語りたいことが沢山あるけど、
今日は動線のエルゴノミクス、文字配列の話。


カナ配列を使おう。
それもデフォルトのカナ配列(JISカナ配列)ではなくて、
もっと効率よくつくられた、カナ系新配列をだ。
そのカナ系新配列には、
古くは親指シフト、新JIS配列、TRONカナ配列などから、
飛鳥配列、新下駄配列、月配列など名作がたくさんある。

今回は、
とても合理的なカナ配列「薙刀式(なぎなたしき)」はいいぞ、
というストレートな普及記事でも書いてみたい。

大きく二つの話をする。

1 合理的なカナ配列はいいぞ
2 薙刀式はいいぞ


ちなみに有名なやつでもこれくらいカナ系新配列がある。
この図は天キーで見た!という人もいるだろう。
major_kana_layouts.jpg



さて最初の話。

1 合理的なカナ系新配列はいいぞ

カナのほうがローマ字に比べて、
毎回2打打たなくていい、という話はよく聞くよね。
そんなにいいの? という話から入ろう。
「単打率」という指標の話だ。

50音のカナには、統計的な出現率というのがある。
その出現率を、カナの級数の二乗に比例させたもの、
つまり面積=出現率の50音表がこれだ。
50on_freq.jpg

良く出るカナベスト3は「い」「う」「ん」だ。
「あ」なんて結構低い。「ぬ」はほとんど見えない。

また、「か」「し」「た」「て」「と」が一軍、
「こ」「な」「に」「の」「は」「ま」「も」「よ」「、」「。」「っ」
あたりが二軍で、
メインプレイヤーになっていることもわかる。

これらを1打で出せると効率がいいよね。
ローマ字だとこれらのほとんどが2打になってしまう。


単打率=1打で打てるカナの出現率の総和
で定義して、計算しよう。

まずローマ字の場合。
単打のカナは「あいうえおー、。」の8文字のみ。
となると簡単で、この8文字の出現率を足すとよい。
計算すると、19・7%。

ローマ字は20%しか1打で打ってなくて、
残り80%は2打打つ配列だ。
(仮に「ん」の4%を全部足しても単打率は24%で、
劇的に変わるわけではない)
ここが無駄と言われる部分だ。

じゃあカナ配列の単打率はどうか?

それぞれの単打率を求めたいところだが、
面倒なので3つだけ結果を。

 JISカナ 74%
 新下駄 66%
 薙刀式 55%

 ローマ字 20%

JISカナは数字段を含めた46キーのJISフルキー使うくせに、
単打率100%じゃないんだよね。
 ぁぃぅぇぉゃゅょっを、。
はシフトキーを押さないといけないため2打で数える。
「、」「。」「っ」は出現率が高い二軍。
JISカナはシフトキーを26%の確率で押さないといけない配列だ。
思ったより面倒くさいね。

一方合理的なカナ配列のうち、
三段半、三段の配列、
新下駄、薙刀式は、単打率が高い配列だ。
6割7割がた1打で1カナ出る、
って所がすごいのだ。

たとえば「られる」とか「しかし」とか、
よく使う日本語のパーツがある。
これに6打も使うのは合理的ではない。
3打で打てる方が早く、気持ちよく、
結果、
思考を言葉に反映しやすくなるよね。


合理的なカナ配列の特徴は、
統計的によく出る一軍二軍のカナを単打面に、
三軍のカナをシフト面(レイヤー面)に置き、
単打カナとシフトカナ(2打以上)を打ち分けることで、
30キー範囲にカナをレイヤーに積む、という基本方針にある。

たとえば薙刀式では、

 ヴきてし    るすへ
 ろけとかっ くあいうー
 ほひはこそ たなんられ

が単打面にあり、これが出現率6割。
スペースキーを押しながらだとシフト面に移行して、

  ぬりね   さよえゆ
 せめにまち やのもつふ
   を、み お。むわ

のマイナーカナ(出現率4割)を打つことになっている。

単打率は単打レイヤー(単打面ともいう)を使う確率、
ということだ。


薙刀式の場合、
一軍と二軍のカナすべては1打になっていない。
その代わり、すべて人差し指か中指担当になっている。
単打率を多少落としても、
強い指で使えば長文を書いても疲れない、
という設計思想になっている。

あるいは他と連接しやすいからそのハブとしてのカナは、
人差し指中指で打った方がやりやすいと考える。
速度だけが指標じゃないんだよね。
「きもちよさ」「快適さ」の指標は他にもある。

どういう感じで薙刀式が打っているのか、
は一見に如かず、次の動画を見られたい。
https://youtu.be/chHqjYsK73w
qwertyローマ字と比較しているので、
単打率が良く分かるだろう。
運指がつながっているのも光を見ているとわかりやすい。



そもそもローマ字を使う理由には、
「英字と共用させたい」という合理性があると思う。

だが日本語の観点から見たら、
qwertyローマ字はとても効率が悪い。
合理的なカナ配列を使う事は、
「日本語は日本語、英語は英語の専門道具を、
都度使い分ける」
という合理性、といえようか。

(英語はqwerty以外、たとえばColemakやDvorakや、
WorkmanやAstarteやArensitoのような、
専門特化配列があるがここでは深掘りしない)

問題は日英の切り替えだ。
Windowsの全角半角キーはあまりに遠いし、
トグル方式というのも今どっちかわからず、狂ってるとすら思う。

Macのスペース横の英数/かなの切り替えはとても合理的だよね。
(Windowsは10の途中あたりから、これをパクった切替法に移行した。
レガシーの無変換キー/変換キー=XFER/NFERの歴史はここで地味に途切れた。
なお、「以前のバージョンのIMEを使う」を選ぶと、
レガシーの状態に戻せるよ)

薙刀式では、
USキーボードでも日英切り替えがすぐできるように、
F+G同時で英語(IMEオフ)、
H+J同時で日本語(IMEオン)、
とバインドしてある。
普段同時押しすることがない組み合わせなので、
とても使いやすいぞ。
(もちろんこの部分だけパクってもOK。
QMKではLang1と2が使えるので、
comboで実装できます。
QMK薙刀式でもそうしています)




ここまではカナ系新配列共通の話だったけど、
本題に入ろう。


2 薙刀式はいいぞ

薙刀式のいいところは、
「日本語でよく使うパーツが、
きもちのいいアルペジオ打鍵になっている」
というところだ。

「アルペジオ打鍵」とは、
「片手で連続して打鍵する2〜3連打で、
隣の指でタランと押せる組み合わせの流れ」
と定義されている。

薙刀式の代表的なアルペジオは、
「ある」「ない」「する」の右手部だ。
arpegio1.jpg

右手単打の最も打ちやすい部分が、
言語の根幹であるところの、
存在、非存在、行動の3つの軸にまとめてある。
つまり、
「意味と打ちやすさの一致」がここにあるわけ。

左手を見ると、
arpegio2.jpg

あたりが特徴的で、
てき、して、こと、ところ
なんかがアルペジオで打てるようになっている。
(ほかに「ころ」「とき」「として」もアルペジオ)

これらの、
「重要な言葉が単打アルペジオ連接になっている」ことが、
薙刀式の最大の特徴だ。


他のカナ配列、たとえば新下駄配列は、
薙刀式とは違い、
「統計的によく出る連接が、単打アルペジオになっている」
という特徴があり、
統計的に平均的に速く書けることを特徴としている。

これは設計思想の違いだ。

統計的に早く打てるのが新下駄で、
重要な言葉を早く打てるのが薙刀式だ。

重要な言葉とはなんぞ、という難しい定義がある。
それは作者の選んだセンスとしか言いようがない。
たとえば飛鳥配列では、「です」「ます」を重要な語にしている。
また、重要と統計的出現率は必ずしも一致しない。
たとえば最頻出2連続文字は「ょう」で、
しょう、きょうなどの一部で、
漢字熟語によく出る連接。
しかし意味的な最重要パーツではないだろう。

どっちが気持ちいいか、
どっちが効率がよいかは、
使い手や文章によって異なると思う。
(ぶっちゃけ効率性は大きくは変わらず、
好みだとも言われている)


ほかにも薙刀式には、
多くのアルペジオがある。
 右手: ょう ょく いう もの おも られ れる られる
 左手: って っと は、 ひと きて けど
などが代表的。
arpegio3.jpg

具体的な例をさらに出すと、
 られる られた られて られない
 られている られていた られていない
 してられる してられた
など、「られ」前後のつながりも単打でつなげる。
arpegio4.jpg


以下の配列図を眺めていると、
よく使うパーツのつながりを見つけられるかもね。
naginata15_jpg.jpg

こんな風な「よく使うパーツほど加速する」
という薙刀式の特徴を知った上で、
先の動画を見ると、見方が変わってくるかもだ。



薙刀式はいいぞ。

単打率が高く、
日本語で良く使う言葉が打ちやすい手の流れになっている。
つまり、所々で、
ドゥルン、ドゥルンと加速していく。

あと、30キー範囲にBSやカーソルが入ってて、
修正や候補選択(縦書き)がシームレスでつながっていることや、
「編集モード」といって、
3キー同時でショートカットや記号が一発で出る面もある。
コピペや選択や、日本語文章でよく使う記号、
「」()『』【】?!……なんかがぱっと出るようになっている。
これらは自作キーボードのキーマップでも良く使われる概念だから、
ここでは省略する。



配列を変えると速くなるの?
という問いはもはやナンセンスだ。
速くなることは多くの例でわかっているからだ。
(もちろん合わない人もいる。やってみないと分からない)

それよりもむしろ、
「指の動きが思考の動きに一致して、きもちいいこと」
という「動線」こそが、
合理的なカナ配列の良さだぜ、
と「次の価値」を提示して、
この記事を終わります。



華麗なる新配列の世界は、
今年の5月色んな配列使いが集まったイベントKIH2023で、
僕が記録した動画もあるので見られたい。

カナ配列では、
薙刀式、新下駄配列、飛鳥配列、月配列、月光、ブリ中トロ、親指シフトの、
ふつうに文章を書く様が見られる。
ほかに、なんと漢直T-Codeの実戦打鍵動画もあるし、
トップタイパーのqwerty、JISカナの実戦文動画もあるよ!
ローマ字配列では、AZIK、大西配列、Uruzumisuke、6ppngを収録。
https://youtu.be/2kMpgCmSatQ
総尺2時間くらいある史料価値の高い動画群なので、お暇なときに見られたい。
一本目のオープニングにダイジェストと薙刀式が収録。
そこに各配列動画へのリンクが張ってあります。

さらに配列沼を漁りたい方向けに、
僕がネットで収集した打鍵動画リンク集を貼っときます。
親指シフトや新下駄のさらなる動画、
いろは坂、蜂蜜小梅、カタナ式などの名作配列もあるよ。
http://oookaworks.seesaa.net/article/475004852.html



この記事は、
MiniAxe+Tecsee Blue Sky Linear(Sprit Designs MX 30s spring)
+キースイッチデッドナー+ドームキーキャップと、
薙刀式v15で書かれました。
(このキーボードの写真は、自作キーボードカレンダー2024に採用されました!)

薙刀式を使ってみたいぞという方は、
http://oookaworks.seesaa.net/article/456099128.html
に詳しくあり、練習メニューを含めた薙刀式マニュアルがあるので、
それをゲットしてください。
(実装はWin, Mac, QMKなど多数あります)
posted by おおおかとしひこ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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