年末なので、
ずっと考えていた立体キーボードが、
頓挫しているという話をまとめてみたい。
自キディスコでちょっとまとめたら、
やはり完全版をまとめたくなってしまったので。
立体キーボードの根拠は、
「手や指が立体的に動くのだから、
その一番あり得る位置に、立体的にキーキャップがあるべきだ」
というものだ。
たとえば平面に関しては、80年代に測定された、
TRONキーボードがあり、
多くの物理配列は、この設計法を使っているといえよう。
それはサドルプロファイル3Dキーキャップで、
ある程度実現していた。
しかし、課題があった。
平面PCBに斜めについている以上、
斜めの力を垂直にしなければならず、
無理がある部分が出てくるということだ。
だから、本来的に、「立体に並んだキースイッチと、同じ形のキーキャップ」
という立体キーボードをつくるべきだと思っていた。
作り方が分らないので、
以下のような手順を踏むことにした。
1 粘土でプロトタイプをつくる
2 それを3Dスキャンして、モデリングする
3 その形の簡易版(骨組み版)をつくって、
空中配線して打鍵テスト
4 ケースも込みで設計して、完成
1 粘土でプロトタイプをつくる
スイッチはchoc v1を採用。
当時Gatgeron LPは存在していなかったので、
ロープロといえばchocしかメジャーじゃなかったので。
なぜロープロにしたかというと、
機能面での要求だ。
「親指を、人差し指下にもぐらせたい」というのが、
その主な理由。
手をつかむ形にすると、
親指が押すべき場所は人差し指の下のあたりにくる。
それはつまり、人差し指下段キーの下にもぐった形で、
キースイッチが存在するということ。
高さのあるMX系では、もぐった部分にスイッチ部分が干渉するため、
薄いchocを使うことにした。
大きな曲面は、
サドルプロファイルでいろいろと実験していたものに近い。
いわく、
1 横方向は凸型
2 縦方向は凹型(つまり鞍点を描く。これがサドルの命名のもと)
3 親指は横、斜め(しかもめり込むくらいに)
4 薬指、小指は放射状に広がる系
な感じだ。
左右をつくるとそのあとの計測が困難になると思ったので、
右手分だけ油粘土をこねこねしてつくってみた。
打ってみると、四角いキーキャップの端に、
指が当たりやすいことに気付く。
三次元曲面を指が移動するとき、
これが邪魔になる。
ということで、choc用の丸いへこんだキーキャップをつくってみて、
これを基準とすることにした。
2 それを3Dスキャンして、モデリングする
3Dスキャナなる高価なものは持っていない。
今でこそ沢山のアプリがiPhoneで使えるが、
当時は数個しかなくて、それを使った覚えがある。
部屋をモデリングするタイプではなく、
スニーカーをモデリングしていたので、
キーボードのスケールにあうと思ったので。
注意するべきことは、
「そのスケールが、一体何センチか分らない」事であった。
stlファイルは作ってくれるのだが、
Blenderにインポートしてみると、
だいぶ小さくて、信用ならない大きさであった。
じゃあ、スケールが分るものごとスキャンするかー、
と思って、
1センチ角のブロックを3Dプリントして、
それを四角に並べてスキャンし、
インポートされたモデルのスケールを調整してもとの大きさに近づける。
mm単位までは正確だが、それ以下は正確ではない。
なんせモデリングされたデータはこんなものなので。
(このころはまだ既成の四角いキーキャップでやっていた)
これをもとに、
透明度を調整してハーフにして、
「目合わせでモデリングするクリンナップ作業」
をやってみたのがこちら。
3 その形の簡易版(骨組み版)をつくって、
空中配線して打鍵テスト
トッププレートのみのスケルトン的なモデルをつくり、
空中配線すれば第一回の試作は出来る。
(ソケット対応したのでややこしくなってしまった…)
それをやったのがこちら。
打鍵テストもしたので、それで打ってみた動画がこれ。
配列はカナ配列薙刀式。
https://youtu.be/l-PEuoXOZhg
重さやゴム足の面積が足りず、
たまに横に動いているのは試作品だから許してね。
親指のオーバーハングも狙い通りで、
一見「理想の曲面」が完成した、と思えた。
しかし、なんか違和感があったんよね。
4 ケースも込みで設計して、完成…するはずだったが…
あとはケース込みでプリントすれば、
出来上がる。
試算するとDMMで出して6万円程度。
試作三回回して18万円。
その程度で手に入るなら、と意気込んでいたが、
先の違和感の言語化が間に合ってしまった。
いわく、
「同じ姿勢に押し込められている、窮屈さ」
があると感じたのだ。
エルゴノミクスは、
「一番楽な姿勢にキープする」ことを目的としている。
これは一番楽を保証しないのでは?
と感じたのだ。
一番楽な姿勢とはいえ、
自然な姿勢(ジャングルで暮らしていたもの)ではないため、
どこかが無理をしている。
つまり、打鍵に一番楽な姿勢を続けると、無理が出ると思った。
理想は、
「いくつかの楽な姿勢をいろいろ経由できて、
全体に負荷が分散すること」なんじゃない?
つまり、
「姿勢的な寝返りを都度起こすこと」
なんじゃないか?
って思ったのだ。
凹型のキーキャップの真ん中に、
指が吸い込まれていく姿勢は、
一見確率的統計的に正しいように思えるが、
「ひとつを強制し続ける」という意味では、
「その姿勢で疲れる」を引き起こすのではないかと。
ということで、
ここから僕は別の観点に移ることになった。
「姿勢的な寝返りを起こすには、
キーの同じところを押さずに、
どこでも自由に打てるべきでは?」
という発想だ。
でつくったのが、
オールコンベックスキーキャップ。
凹んでいるところに指を誘導されるのではなく、
凸型の部分のどこを押してもよいという形。
指を突き刺すような打ち方には適さないが、
僕は撫で打ち派なので、
これは撫で打ちしやすいぞ、って思ったのだ。
まずは全キー同じ形(DSAのように)にして、
親指キーだけ斜めにして使っていた。
これでエンドゲームだと思ったのだが、
途中で「全体に半球状でよいのでは?」
と思い、
全体で半球状、ひとつひとつもコンベックス型、
という「ドームキーキャップ」の発想に至り、
現在使用している。
平らなオールコンベックスだと、
親指だけ高くなってしまう。
ドームだと、JKより親指のほうが低くなるので、
より自然な形でつかいやすい。
今の所、これがエンドゲームだ。
ひとつの形に手の形を強制されるよりも、
自由にいろいろ撫でられるほうが、
運指が自由になる。
たとえば、JKと打つときと、NJと打つときのJの打ち方は異なる。
撫で、滑る打ち方だと全然違う場所に触れて、撫でることになるからだ。
もちろん、平面PCBを脱却して、
半球型のPCBをつくり、
半球型キーボード+コンベックスキーキャップとしてもいいんだけど、
そこまでするよりキーキャップ側で球形でよいのでは、
というのが現在地。
この撫で打ちスタイルだと、
連接を重視する打ち方が出来るので、
連接を重視するカナ配列薙刀式と非常に相性がよい。
ということで、
薙刀式を使う以上は、
3Dキーボードよりも、
幾何学的なドーム型がいいんじゃない?
などと考えている。
同じ姿勢を続けることこそが、
エルゴノミクス的によくないことだ。
ここまでエルゴノミクスを追求している結論は、
実はあまり見たことがない。
おそらく、
ベストの統計的姿勢を見出した時点で、
ゴールしたと錯覚しているんじゃないかと思う。
実際にそのエルゴノミクスを使い続けて、
不具合を感じる所までまだ来ていないのだろう。
ということで、
ものものしくスタートした3Dキーボードプロジェクト
「静36」は中断したままだ。
そもそもchocの打鍵感がそんなに好きじゃなかったことも大きいかな。
しかしロープロ界隈が最近にわかに熱くなってて、
Gateron LP互換のNuphyや、
Lofree Ghostや、
Cherry ULPなんかが出始めているので、
それで作りなおしてみるのも悪くないなあ、
などと考えてはいる。
せっかくだからこの純白ボディで打鍵してみたかったが、
所詮有線なのがなあ……。
大西さんは「おさかなキーボード」で相当無線に苦労したらしいから、
無線をやる気はしないなあ。
QMKにしなければよい説もあるが、
そこまで突っ込む気が、
ドームキーキャップを使うとなくなるんよね……。
もしドームキーキャップに不満があったときは、
静36が再起動することもあるかもだが、
今のところそうでもないみたい。
3Dキーボードに対する夢は、
これで一気にしぼんでしまったので、
もはやモチベがない……
もしすげえ3Dキーボードがあるなら、
ぜひ触らせてほしい。
僕は、Lime40も、
Dactyle Manuformも、
D-Moteも、
Kynesis Advantageも、
いいと思わなかった。
3Dの指の形が違うのかなあ、などと無邪気に思っていたのだが、
たぶんもっと深いところで、
違うのかもしれない。
2023年12月25日
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