2024年02月20日

ぶっ飛んだものをつくりたいなら

常識人を出すことだ。


ぶっ飛んだ、尖った、圧倒的なものをつくりたい。
創作を目指す人間ならば、誰もがそう思うことだろう。
若者はとくにそうだし、年をとってもその欲望はどんどんと増していくものだ。

で、短いやつならば、
その圧倒的なぶっ飛びさをぶつけるだけでよい。
それそのものの質量で殴れるだろう。

だけど、映画のような長丁場では、
それではもたないことがある。
なので、
常識的な人と、ぶっ飛びを対比させるといいよ、
という話をする。

なぜ長丁場では、
ぶっ飛んだものオンリーで勝負できないのか、
というと、人は慣れてしまう生き物だからだ。

たしかにファーストシーン、セカンドシーンくらいで、
ぶっとんだものがあり、
すげえなあ、圧倒的だぜ、
ってなったとしても、人間慣れてしまう。
サードシーンくらいでそれをやっても、
「それはそういうもの」として慣れてしまうため、
そんなにぶっ飛んだ感じがなくなるんだよね。
単独ではぶっ飛んでいても、
ぶっ飛び、ぶっ飛び、ぶっ飛びとなると、
それが普通になってしまう。

音量がデカいものがあっても、
それが繰り返していたら、
デカいのが普通になってしまう感じ。
とくにそれだけでは驚かなくなるんだね。
そういう時は、音の小さいものを挟むとよい。
つまり感覚をリセットするといいわけだ。
一回音の小さいものに慣れさせて、感覚を戻したときに、
改めて大音量のものを鳴らしたら、
デカいなあ、って思うのさ。

巨乳もそういうことかな。
巨乳をドーンといきなり出したら、
デカいなあと思うかもしれないが、
そればかり見ていたら、
巨乳慣れをしてしまい、
その刺激じゃ満足できなくなる。
それでエロゲーみたいな、
奇形の巨乳じゃないと刺激が足りなくなってしまうんだろうね。
一回Aカップを挟めば、Dでも巨乳に見えるのにね。

で、
もっと一般化するとしたら、
常識的な人を挟むといいよ、
というのがこの記事の趣旨だ。


ひらたく言うとツッコミ役をつくれ、
ということだ。

それがどれくらいレアなものか、
それがどれくらいヘンテコなのか、
それがどれくらいぶっちぎっているか、
常識から見たらこれくらいだ、
という測定する感覚がないと、
それがどれくらい突出しているか、
分らなくなるわけだ。

「なんでやねん、そんなアホな」
というのは、平常の感覚から見て、
はずれている、ということのリアクションである。

文字通りのツッコミを入れる必要はないが、
それと同じ役割をする人が必要だということだ。
これは一人でもいいし、複数いてもいいし、
モブであってもいいよ。

とにかく、
「それが普通から見たらぶっ飛んでいるぞ」
ということを常に確認する役がいれば、
ぶっ飛びは認識され続けるということだ。
まあその人もある種慣れてしまうかもしれない。

たとえば、
「怪獣が出現する」という異常は、
映画の中ではよく起こる。
最初は異常事態発生であったものが、
三日連続したら、
「もう怪獣にも慣れてきましたよ」ってその人は言うかもしれない。
「異常事態に慣れ過ぎて、こっちが日常になってきました」
なんてセリフすらいうかもね。

そんな風にして、異常世界と観客の気持ちがシンクロしていくわけだね。

でも、そうなったら、もはやそれはぶっ飛んだ、
尖ったものではなくて、
ただの平坦な平凡なものになる。
それを超えるぶっ飛びを用意しないと、
さらには飛べないだろう。


短編ならば、
ひとつのぶっ飛びをつくるだけで、
ぶっ飛んだものをつくったなあ、
なんてなるんだけど、
長編はそうはいかない。
一個ぶっ飛んでもな、という感じになるわけだ。

今どこで見れるかはわからないが、
「survive style 5 +」
という浅野忠信主演の映画を見る機会があれば、
観察するとよい。
当時CMでぶっ飛んでいたトップクリエイター、
多田拓と関口現のコンビがつくったものだけど、
最初はぶっ飛んですごいなー、
なんて思っていても、
同じ味の金太郎飴に慣れてしまい、
全然ぶっ飛んでいる感覚じゃなくなるんだよね。

そのことに彼らが気づいていたとは思えない。
単に「ぶっ飛んでいるおれたちすげえ」ってなっていただけだと思う。
逆にいうと、
最初一発ぶっ飛んだはいいが、
その後鳴かず飛ばずに、最終的になっている、
とても不幸な映画だ。

ぶっ飛び方を、知らなかったんだね。


ということで、
ぶっ飛んだ映画をつくりたければ、
アイスクリームの中のウエハースのような、
常識人とペアにすることだ。
その人がつねに平準位置を示すことで、
ぶっ飛びが相対化されるだろう。

ぶっ飛びは、今立っている位置からの相対位置で決まる。
慣れさせてはならない、ということさ。
posted by おおおかとしひこ at 06:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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