取材をする目的は、
ただ知らない世界を知っていくだけではないという話。
ある世界を取材する。
もちろんフィクションの物語のためだ。
知らない世界のほうが面白そうだし、
知ってる世界だけだとネタもすぐに尽きるので、
取材して新しい世界を知ることはたいへんおすすめである。
で、まず記録しておいて欲しいのは、
「へえー、それは知らなかったなあ」
という驚きを、ちゃんと覚えてほしいということ。
あなただけが知らなかっただけならどうでもいいが、
あなたが普通生きてて聞いたことがないなら、
ほとんどの普通の人も聞いたことがないわけ。
あなたのその驚きは、
ほとんどの人の驚きにもなるというわけ。
これは使える。
「へえー、そういうものなんだ!」
という驚きは、知っておくべきポイントだね。
たとえば、
いま取材しているウィンタースポーツの、
国内大会のほとんどは赤字経営らしい。
賞金が出るトーナメントもあるが、
たいていは10万円くらいで、
たまに100万円だってさ。
10万円? 全国から集まって移動して、宿泊して帰ったら、
なくならない?
日帰りじゃないんだぜ。
それ、優勝者だけ無料ツアーになりました、
程度じゃない?
eスポーツのほうが金出るんじゃないか、
ってレベルだと思ったよ。
まあ、
テレビ中継が入るような、
豪華なものでない限り、
ほとんどの国内の弱小スポーツなんて、
手弁当どころか、
損しながらやっているのかもしれない。
その零細さに驚いた。
それでいて、オリンピックで金メダルとか取ったら、
大騒ぎするんだな。
普段は10万円しか賞金出さないくせにね。
へえ。
こんなものを貯めていくと、
作品内で、
「何で驚かせるか」を選ぶことができる。
とくに取材初期のこうした驚きは、
一般人としての驚きが大きいから、
特別メモっておくことをお勧めする。
(他にもたくさんあるんだけど、
ネタ出しになってしまうので今はやらない)
それは、初手驚きのカードとして切れるわけだ。
そしてもうひとつ。
「それは分かるぞ」という要素も調べるわけだ。
取材していくと、
「その世界ってそういうことなの?」と、
「その世界ってそうやって動いているんだ」と、
「その世界で生きることってそういうことなのか」
などが溜まっていく。
その中で、
「それはその世界にいなかったとしても分るぞ」
という、
同じ人間として共感できるところが必ずある。
人間がつくった社会だからだろう。
そこが、感情移入のポイントになるよ、
というのが本題だ。
仮にそれを知らなかったとしても、
それは同じ人間として理解できる、
その悲しみや怒りや絶望や喜びは、
理解できるぞ、というのを見つけたときが、
「題材を見つけた」と思うときじゃないかな。
つまり、
その世界の専門家じゃなくても、
彼らの気持ちを理解できる要素ってことだからね。
分かりやすい例でいえば、
多くの人はボクサーではない。
しかし、
殴られたら痛いということくらい誰でもわかる。
だから、
「痛いことを乗り越えることが勝つことだ」
というボクサーの人生を浮かび上がらせることができる。
でもそれは、ボクサーだけでなく、
一般の人生でも同じだよね。
だから、「分る」となるわけ。
(「ロッキーファイナル」で、
「人生より重いパンチはねえ」
というのは、それを逆手に取った名セリフだ。
どんなチャンピオンのパンチの痛みよりも、
大切な人が死んだり、
うまくいかない人生のほうが痛い)
こうした、誰でも「分る」と思えるものを、
その特殊な世界に見つけたとき、
はじめて感情移入ができると思うわけだ。
もちろん、ボクシングものはとても多いので、
痛いのを越えて頑張る話は、
たくさんあり過ぎる。
いまさら、だろうね。
でも、新しい世界を題材にして、
こうした何かを発見したとき、
それが書けると思うわけだ。
今取材しているウィンタースポーツで、
僕は芯になるそれを発見したんだが、
ストーリーの形になるかはまだわからない。
でも新作としてはそれを書きたいなあ。
そうそう、ウィンタースポーツで思い出したが、
「クールランニング」は面白かったよね。
まさか南の国の黒人たちが、ボブスレーをやるなんて、
無茶ぶりもいいところのコメディだった。
風呂の中でみんなでコーナリングの練習をしているカットが、
特に有名だね。
これは不条理無茶ぶり系のコメディだけど、
新しいスポーツの見え方で、
とても面白かった。
4人そろってコーナリングの練習をするんだ、
という初めての驚きと、
それを風呂で練習するという誰でもわかる要素の、
両方が揃っている名シーンだ。
そんなものを取材している最中に見つけられたら、
それがテーマになってくるだろうね。
2024年03月02日
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