2024年03月02日

取材とは、「分るぞ」と「知らなかった」を知ること

取材をする目的は、
ただ知らない世界を知っていくだけではないという話。


ある世界を取材する。
もちろんフィクションの物語のためだ。
知らない世界のほうが面白そうだし、
知ってる世界だけだとネタもすぐに尽きるので、
取材して新しい世界を知ることはたいへんおすすめである。

で、まず記録しておいて欲しいのは、
「へえー、それは知らなかったなあ」
という驚きを、ちゃんと覚えてほしいということ。

あなただけが知らなかっただけならどうでもいいが、
あなたが普通生きてて聞いたことがないなら、
ほとんどの普通の人も聞いたことがないわけ。
あなたのその驚きは、
ほとんどの人の驚きにもなるというわけ。

これは使える。

「へえー、そういうものなんだ!」
という驚きは、知っておくべきポイントだね。

たとえば、
いま取材しているウィンタースポーツの、
国内大会のほとんどは赤字経営らしい。
賞金が出るトーナメントもあるが、
たいていは10万円くらいで、
たまに100万円だってさ。
10万円? 全国から集まって移動して、宿泊して帰ったら、
なくならない?
日帰りじゃないんだぜ。
それ、優勝者だけ無料ツアーになりました、
程度じゃない?

eスポーツのほうが金出るんじゃないか、
ってレベルだと思ったよ。

まあ、
テレビ中継が入るような、
豪華なものでない限り、
ほとんどの国内の弱小スポーツなんて、
手弁当どころか、
損しながらやっているのかもしれない。
その零細さに驚いた。

それでいて、オリンピックで金メダルとか取ったら、
大騒ぎするんだな。
普段は10万円しか賞金出さないくせにね。

へえ。

こんなものを貯めていくと、
作品内で、
「何で驚かせるか」を選ぶことができる。

とくに取材初期のこうした驚きは、
一般人としての驚きが大きいから、
特別メモっておくことをお勧めする。
(他にもたくさんあるんだけど、
ネタ出しになってしまうので今はやらない)
それは、初手驚きのカードとして切れるわけだ。


そしてもうひとつ。
「それは分かるぞ」という要素も調べるわけだ。

取材していくと、
「その世界ってそういうことなの?」と、
「その世界ってそうやって動いているんだ」と、
「その世界で生きることってそういうことなのか」
などが溜まっていく。
その中で、
「それはその世界にいなかったとしても分るぞ」
という、
同じ人間として共感できるところが必ずある。
人間がつくった社会だからだろう。
そこが、感情移入のポイントになるよ、
というのが本題だ。


仮にそれを知らなかったとしても、
それは同じ人間として理解できる、
その悲しみや怒りや絶望や喜びは、
理解できるぞ、というのを見つけたときが、
「題材を見つけた」と思うときじゃないかな。

つまり、
その世界の専門家じゃなくても、
彼らの気持ちを理解できる要素ってことだからね。



分かりやすい例でいえば、
多くの人はボクサーではない。
しかし、
殴られたら痛いということくらい誰でもわかる。
だから、
「痛いことを乗り越えることが勝つことだ」
というボクサーの人生を浮かび上がらせることができる。

でもそれは、ボクサーだけでなく、
一般の人生でも同じだよね。
だから、「分る」となるわけ。
(「ロッキーファイナル」で、
「人生より重いパンチはねえ」
というのは、それを逆手に取った名セリフだ。
どんなチャンピオンのパンチの痛みよりも、
大切な人が死んだり、
うまくいかない人生のほうが痛い)

こうした、誰でも「分る」と思えるものを、
その特殊な世界に見つけたとき、
はじめて感情移入ができると思うわけだ。


もちろん、ボクシングものはとても多いので、
痛いのを越えて頑張る話は、
たくさんあり過ぎる。
いまさら、だろうね。
でも、新しい世界を題材にして、
こうした何かを発見したとき、
それが書けると思うわけだ。


今取材しているウィンタースポーツで、
僕は芯になるそれを発見したんだが、
ストーリーの形になるかはまだわからない。
でも新作としてはそれを書きたいなあ。

そうそう、ウィンタースポーツで思い出したが、
「クールランニング」は面白かったよね。
まさか南の国の黒人たちが、ボブスレーをやるなんて、
無茶ぶりもいいところのコメディだった。
風呂の中でみんなでコーナリングの練習をしているカットが、
特に有名だね。
これは不条理無茶ぶり系のコメディだけど、
新しいスポーツの見え方で、
とても面白かった。

4人そろってコーナリングの練習をするんだ、
という初めての驚きと、
それを風呂で練習するという誰でもわかる要素の、
両方が揃っている名シーンだ。


そんなものを取材している最中に見つけられたら、
それがテーマになってくるだろうね。
posted by おおおかとしひこ at 11:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック