2024年03月16日

その荷物を最初に下ろしたほうがいいかもしれない

演劇をずっとやってて、
今中学生に教えている人とした話。

中学生に演劇の台本を書かせると、
ほぼ同じストーリーになってしまうらしい。


かなりの確率でいじめなり、疎外なりの状況から始まるそうだ。
そして延々それが続き、
ある日主人公が意を決して、
「私はこういう人間なのだ」と演説するらしい。
それで終わりなんですって。
相手がおののいたり、「そうだったのか」と納得したりして、
いじめなり、疎外なりがなくなるんですって。

なんというメアリースー。
本能的なメアリースーともいえる。

自分の言えない願望を外に出した段階がクライマックスで、
かつ結末なんですって。
そこに至るストーリー展開はないに等しいらしい。

そんなものが面白いと思われるか、
という客観性はない。
あったらそんなことは書かないだろうし。

だから、
主観的に、
「こうなったらいいのにな」という願望が、
そのまま出たものがそれだということになるわけ。



「どうしたらこれじゃあだめだと言えばいいのか」
とその演劇人は嘆いていたが、
もうそれははしかみたいなもので、
ストーリーを書くうえで、
最初にかかる病だと思ったほうがいいかもね、
という話をした。

それじゃだめだ、
別の話を書け、
なるべくフィクションでやったほうがいいな、
などと指導して、
二本目が書けるか、ということだね。


自分のことだけを書こうとしてしまうと、
たぶん一本書いて、
二本目は二度と書けないだろう。

そういうものさ。
願望は架空の物語によって昇華、成仏してしまったのだから。
目的が成仏だとしたら、
もうそれ以上書けなくなるよね。


スタートはそこからだ、
と思ったほうがよい。

自分の話を書くな、
とどれだけこのブログで書いていても、
どうせ書いちゃうんだよ。
だから、
最初にはしかにかかるべきだ。
メアリースーの、
願望丸出しの、
なぜか解決してしまうような、
テーマを演説してしまう、
そういうものを書いておきな。

中二のときに、暗黒微笑とか、エクスカリバーとか、
そういうやつをやっておけ。


そのうえで、
その一本目はとても恥ずかしいものだ、
ということを知っておくべきだ。
いわば、
黒歴史はちゃんとやれ、
ということを言おうとしている。


それを経ずに、
いきなり名作が書けるやつは、
そもそも才能があるので指導に値しない。
それを生かしてどんどん書きなさい。
勝手にうまくなると思うよ。
困ったらここに来ればよいだけだ。

それを経た人間こそ、
凡人であり、
それを経てから、ようやく大人だともいえる。

つまり、通過儀礼だとおもえばいい、ということだ。

メアリースーも、
願望丸出しも、
なぜか愛されて願いが他人によりかなってしまうご都合も、
演説だけで解消してしまい、反対が起こらないことも、
一回やっておけばいい。

それで悦に入ることが、
恥ずかしいことだと理解するまで、
それをやるがいい。


で、
「そうじゃないもの」を書くことが、
ほんとうに書くことなんだとわかるといいと思う。

もしいじめられたり、疎外されていたりして、
書くことでそれを昇華したいなら、
やればいいよ。
その荷物をまず下ろしたほうがいい。

それからだ。
次の場所へ行くのは。


逆に、その荷物を持ったままじゃあ、
次の本格的なフィクションを書く場には行けないと思う。
もっと身軽でないと無理だろう。

なので、それをやるには、
一回抱えた荷物を下ろしたまえ。

短編でいいと思うよ。
そんなもので10万字も書けないだろう。

次に、ちゃんとしたフィクションを書こうぜ。
自分が主人公じゃない、
他人が主人公で、
それが事件を華麗に解決する話さ。

見たことのあるような、見たことのないような、
そういう架空の話を書けばいい。
何本も何本も書いて、
やっとモノになってくるものだから、
どんどん習作はしておいてもいいよ。
発表しなければいいだけのことさ。

人に見せるレベルというのはどういうものか、
他人の脚本を見れば、大体わかる。
ここのブログの脚本添削スペシャルなどを見れば、
どういうものがいいか、悪いかが、
分ると思う。

分ると書けるはまた別なのだが、
分かっていないことを書くことは偶然でしかないため、
技術として必然にするには、
分ることが大事だね。


ということで、
中学生たちよ、まずは中二ストーリーを、
存分に書きな。

第二作からが、やっと土俵にあがれる。
posted by おおおかとしひこ at 10:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック