2024年01月19日

言葉はもともと音である

ってことを、文章を書いてるとたまに忘れる。

枕言葉にそんな機能があるとは、
これを見るまで考えたことがなかった。
> 田中 草大 (タナカ ソウタ)@_sotanaka
> 最近、枕詞が好きになってきた。単に「ひかり」だと光を感じられるのは3拍分だけど、「ひさかたのひかり」だとたっぷり8拍分(ポーズ入れると9拍分!)、光を感じられるんやな。

ああ、「それと一緒にいたい時間を引き延ばす」
力があるんだ。


映画でいうと、ハイスピード撮影
(スローモーション)を思い出すといい。

たとえば、
可愛い女の子の髪がふわりとなり、
くるっとターンして、
スカートがひらりとなる様は、
スローモーションでできるだけ引き伸ばしたい、
ドリームな瞬間である。

こんなカットでひとめぼれを表現することも多い。
ぼくらが恋をするとき、
「この人とできるだけ長くいたい」
「この人の全ての瞬間を引き伸ばしたい」
と思うのだ。

それを、
ハイスピード撮影
(映画は1秒24コマで撮影されている。
モーターをハイスピードで回して、
たとえば60コマ回転させると、
60÷24=2.5倍、時間を引き伸ばしたスローモーションが得られる)
で、
表現するわけだね。

ハイスピード撮影の達人といえば、
アクションメインだけどジョンウーだ。
男たちの挽歌からミッションインポッシブル2に至るまで、
スローモーションのてんこ盛りだぜ。


枕詞にもどると、
「ひさかたのひかり」の実質9拍は、
「ひかり」の3拍を3倍のスローモーションで見てるんだな。
言葉に時間軸を導入してるわけ。

まあそれはよくよく考えたら当たり前で、
言葉とは時間軸を持つものである。

(思考も時間軸を持つものだが、
なぜだか本や教えは、
固定化した時間軸を持たないものとして、
とらえられてるね)

枕詞といっても、古典のそれだけを意味しない。
「燃える闘魂アントニオ猪木」の、
「燃える闘魂」は枕詞である。
アントニオ猪木を感じる時間を、
もっと増やしたいわけだ。


キャッチフレーズと枕詞は似ている。
適当にググったら、
大竹ひとみというよく知らないアイドルのキャッチフレーズが、
「みーんなと一緒に全力!(突破!)ありがとうございます。大竹ひとみです。ひとみんって呼んでください!」
と出てきた。
うーん微妙。
ちなみに小泉今日子だと、
「微笑少女。君の微笑みが好きだ。」
だそう。
うん、微妙。「なんてったってアイドル」の方が似合ってる。

「黄色と黒は勇気の印24時間戦えますか」は、
リゲインのキャッチコピーだが、
これくらいが枕詞にふさわしいね。


二つ名もそうだね。
井伊直政は井伊の赤鬼が二つ名であったそうだ。
人の名前を直接呼ぶのが失礼だという文化もあり、
二つ名はそれもあるけれど、
「井伊の赤鬼」井伊直政、のように枕詞的にならべれば、
なるべく長い時間この人のことを考えたい、
となるわけだな。


逆もあるね。
悪口ならなるべく短くするね。
うちの高校の藤林先生はバヤシと呼ばれてた。
なるべく短い時間しか接触したくないんだ。


なるほど、
言葉の長さは、それだけで気持ちを表現できるのだ。

もちろん、「言葉にできない」感情もあり、
ただ相手を見つめ、頬を撫でるだけで、
そのとてつもない感情がわかることもある。

どの道具を使うかはあなた次第だが、
枕詞を使いこなせると、その道具が一つ増えそうだね。


かつて古舘伊知郎は新日本プロレスの実況の天才であった。
今思い出すと、枕詞を創作して、
うまく使っていたと思う。

後年のプライドでは「戦慄の膝小僧」ヴァンダレイシウバなど、
キャッチフレーズ的になってしまい、
枕詞の機能を果たしていなかった気がする。
だからシウバはスターになれなかったし、
「燃える闘魂」アントニオ猪木はスターになれたのかもしれない。


「枕詞に意味はない」と古典では教えるが、
意味のない言葉なんてあるわけねえよな。

 ひさかたの光のどけき春の日に
 しづ心なく花の散るらむ

で感じる光は、スローモーション3倍の、
とても穏やかな光で、
それを「のどかな春の日に」と受けることで、
ほんとに暖かな春の光を詠んでるよね。

だから、静かにしてりゃいいのに、
はらはらと勝手に桜が散りゆくさまを嘆き、
「桜と光のあるこの時間が、永遠に止まればいいのに」
と思ってる様が炙り出されるわけだ。

 朕思ふ 光のどけき春の日に しづ心なく花散るらむ

と仮に「ひさかたの」を抜いてみると、
光が満ちる時間が足りないなあーと思うね。
posted by おおおかとしひこ at 09:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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