2024年03月26日

物語は美しくあるべきだ

たとえばラブストーリーを考えよう。
二人がキスするまでの経緯を考えよう。


リアルなところは、
そんなフィクションみたいな美しいストーリーがあるわけではない。
ぶっちゃけ酔っててやっちゃった、という例もあるだろう。
断りきれず流されて、という場合もあろう。

明確な動機と理由があり、
誰もが分かる行動などないものかもしれない。
あるいは、
フィクションのような美しいものではなく、
実際のキスは汚かったりする。
人が飯を食うのが汚いのに似てるかもね。


だけど、
フィクションのラブストーリーは美しい。
それは、
「ラブストーリーは美しくあってほしい」という願望が、
人の心の中にあるからだ。

性欲に負けてやってしまい、
あとでさんざんにもめて捨てる、
なんて汚いものよりも、
美しい風景と美しい言葉と、
そしてなによりも美しい気持ちの末に、
必然的に結ばれて欲しいのだ。

それは願望ともいえる。
あるいは、自分の人生で無しえなかったことの、
代償行為ともいえる。
「こうであってほしい」
「こうあるべき」の代表が、
ラブストーリーじゃないかと思う。

だから、
「リアルだからこれでいいじゃん」とか、
「現実なんてぶっちゃけこんなもんでしょ」とかは、
いらないのだ。
人は夢を見に劇場まで来るのだ。
悲惨でつらく汚い現実が劇中であったとしても、
愛くらいは美しくあって欲しいものではないか。


と、いうことで、
たいていラブストーリーは美しく、
見ごたえのあるものになる。

少女漫画でもそうだし、
ラブロマンスものでもそうだし、
ハーレクインでもそうだし、
ハリウッドアクション映画ですら、
ラブパートはそういうものだ。

つまり、我々には、
「美しい愛でうっとりしたい」という欲望があるわけ。


汚いセックスばかりやってきたから、
そういう場面を書くのがリアルだ、
と思っているなら、
映画とは何かをわかっていない。
美しい何かを見たいときが人にはあるということだ。

女性は、きれいなものやかわいいものだけ見ていたい、
という願望をストレートにいうことがある。
その欲望をフィクションに求めたりする。

「どうだお前らが大事にしている〇〇は、
リアルではこんなもんだぜ、これくらい汚いものだ」
というのを露悪趣味という。
露悪でなくても、事実陳列罪でもいいや。
リアルを見たくないときがある、というわけでもない。
「うっとりするほど美しいものは、
映画にしかない」と、逆に言っていいんじゃない?

だから、映画にふさわしいラブを用意するんだよね。

つまり、映画の「格」を持ってるか、
ということを言おうとしているのかもしれない。


他の名作では、
どういう美しさがあったろうか?
ラブだけに限らなくて、
別の何かでもいい。
美しさはときにロマンといわれることもあるよね。

人は美しい。
人には、世界には、ロマンがある。
そういうものが映画には必要だ。

そして、そういうものは、映画にしかないともいえる。
ビジュアルや音楽やその他の複合芸術としてはね。


「まるで物語みたいな〇〇」なんてことが、
たまーにリアルでもあるけど、
実はそれを求めているんじゃないか。

ということで、女性を口説くときは、
ロマンチックにしすぎてしすぎることはないのかもしれないね。



あなたが今書いているのは、
あなたのリアルを投影した、
まるで現実のような世界ではない。

皆が求める、映画でしか味わえない、
とても美しい世界だ。

ラブパートだけがそうであるとは限らない。
他の何かでもいい。
美しい何かがあると、それはその映画のオリジナルになるだろう。
それが通りいっぺんのものなら平凡な美しさになり、
それが見たこともない新しい美しさならば、
オリジナルな強さを放つだろう。

そして、新しい美しさを追及することを、
美学とか芸術とかいうんだよね。
芸術というと難しいけどさ、
「この美しさ、よくない? 新しくない?」
ってのを共有する会だと思えばいいんだよな。

それがグロテスクだったり、
多くの人が賛同しないマニアックなものから、
誰もが息をのむ、分かりやすい美しさまで、
グラデーションでいろいろあるだけの話さ。

それは大きな美しさでもいいし、
小さな美しさでもいい。
どれだけ心に刺さるかだよね。



おそらく、
物語とは、とある美しいことについて、
作者と観客が共有することをいう。

それが一枚絵なら写真や絵、
それがスタイリングならば衣装、
それが照明ならば照明、
それが音楽ならば音楽、
それがアクションならアクション、
をそれぞれやればいい。
それらではない、人生の凝縮されたものに、
共有できる美しさがあるか、が、
物語ではないかと思う。
posted by おおおかとしひこ at 09:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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