それを把握していないで、なぜ全体の長さが予測できるというのか。
映画の平均シーンは、
統計を取ったわけじゃないが、大体80シーンだと思われる。
1シーンの平均が大体1分半だから、
2時間をそれで割れば80だからだ。
つまり、
あなたのストーリーは、大体80シーンで書かれなければならない。
演劇だと「場」という数え方をする。
美術セットの数だ。
場所が大きく変わるとセットを変更しないといけないので、
予算やストーリーの間に大きく影響する。
だから、3場とか、4場とかが多いんじゃないだろうか。
暗転や照明効果などで時間経過を示せるが、
演劇はシーンが大きくは3とか4という、
実に狭い空間でのお話になる。
もっとも、抽象的なセットを組み、
照明の当て方で違う場所ですよ、というルールにしてしまえば、
もっと多くのシーンを次々に表現できるかもしれない。
映画ははじめ演劇から始まったので、
シーンがなかなか変わらなかった。
同じ場所でずっと話していたり、
誰かがはけて、誰かが入って来る、
などの工夫を凝らしてストーリーを進めていた。
すべてはスタジオ撮影で、
美術セットの数がシーンの数であった。
スタジオは雨降っても関係ないし、
録音がしやすいし、
照明が置きやすいし、
美術道具がすぐそばにあるから、
本来、スタジオ撮影が映画の撮影のようなものだ。
ロケ撮影、つまりスタジオの外で撮影するようになると、
シーン数は格段に増えていく。
「絵替わり」が楽しくなるからだ。
観光旅行を例に出すまでもなく、
「色んな所へ行く」というのは、
それだけで興奮するのである。
ということで、
時代を下るごとに、
シーン数は増え、しかし興行は2時間程度であるから、
シーンの平均時間は短くなっていく。
もちろん、予算の関係でそんなに多くの場所へ行けないし、
細切れになってもストーリーをじっくり描くことが出来なくなるから、
シーンが短くなるほうが必ずしも正義ではない。
ということで、
大体1シーン1分半が、
平均に落ち着いているのが現在だと思う。
1分半というと、大体原稿用紙1枚半の600字。
これで1シーンは長い? 短い?
全てをこの長さにせよ、ということではなく、
長いシーンがあってもいいし、
1行のシーンがあってもいいし、
全部を平均したらそれくらいになるよ、
ということでしかない。
1分半のシーンばかり、というわけでもない。
だから、あくまで感覚的なことである。
さて、ようやく本題である。
あるシークエンスを表現するのに、
大体何シーンいる?
たとえば、
「二人が第三者の介入によって仲直りするまで」
に何シーンかかるか、予測できるか?
ということだ。
もちろん段取りによるだろうから、
この問いに教科書的な答えはない。
だが、
「あなたのストーリーの中で、何シーンかかる?」
という問いには、
大体答えられなくてはならない。
喧嘩した二人は〇〇と〇〇だとわかっているとして、
介入するのも〇〇であると分かっているとして、
そのやり方も大体できているとしようか。
最短で1シーンだけど、
もっと凝ったやり方でやるとしたら、
3シーンとか、10シーンとか、
いろいろあるに違いない。
それはストーリーによる。
だけど、その特定のストーリーが、
大体何シーンかかるのか、予測しようぜ、
という話をしている。
もしこの予測が正確ならば、
頭からケツまで、
全部で何シーン必要かを計算できるはずだ。
それが大体80ならば、
2時間の映画になるが、
40ならば全体が1時間しかないし、
120ならば3時間もあることになるぜ、
という話である。
2時間という枠組みは、
書いたことがなければ、
大体どんな感じか予測もつかない。
全部を丁寧に書いたら120シーンもある話を、
80シーンにカットしたら、
たぶん急ぎ過ぎてつまらない話になるだろう。
40シーンしかない短い話を、
引き伸ばしたら、間延びするつまらない話になるだろう。
別のストーリーラインを足したら、
もともとあった話と二本立てのような、
融合していない話になってしまうかもしれない。
つまり、
「あなたの話は80シーンにふさわしい話か、
予測できるのか?」
という話をしようとしている。
日本映画の伝統的な脚本の書き方に、
「箱書き」というやり方がある。
全体をまず8つの箱に区切る。
1から8までプロットを書けば、全体のプロットになる、
という部分集合に切り分ける方法論だ。
いきなり長いのを書くよりも、
ひとつひとつの箱に集中すれば、
息切れせずに書けるだろう、
という方法論である。
2時間を8分割するから、1箱は15分だ。
15分は、TVでCMが入るまでの大体の長さで、
人間の集中力が持つ限界だと言われている。
なるほど、経験値というのはすごいね。
この15分というのを先に見出していたわけだね。
(もっとも、フィルム時代、1リールが15分で、
8リールで映画一本、
という制約があったことと関係しているかもだ)
まあ由来はどうでもよくて、
じゃあ、
その15分単位は何シーン?
平均10シーンだよね。
10シーンで出来ることって、どれくらい?
3シーンでやれること3つと少し、
2シーンでやれること5つ、
しかないんだぜ?
そうすると、
案外、映画というのはたいしたことができない、
と感じるのではないだろうか?
僕がショートストーリーを沢山書け、
というのは、この「1シーンでできること」の、
車幅感覚をつくっておけ、
ということでもある。
脚本スペシャルが15分に制限しているのも、
その1箱の単位を大体知っておこうぜ、
ということでもある。
その中で、
「1シーンで出来ること」とか、
「それをやるのに何シーンかかるのか」を、
体験しまくって、
大体感覚としてもっておこうぜ、
ということである。
長いストーリーでも、
短いシークエンスに分解できる。
ひとつのシークエンスはまた何シーンかに分解できる。
ということは、
そのストーリーは大体何シーンか?
という問いに、
大体算数でこたえられるはずだ。
その計算が合っているかどうかは、
第一稿で明らかになるだろう。
何回もやっていると、
そのうち慣れてきて、予測精度が上がるだろう。
さて、
これが出来るようになると、
「そもそも2時間にこの話は収まるのか?」とか、
「この話は2時間には足りなすぎない?」とかが、
書く前に分るようになる、ということも、
言おうとしている。
実は、2時間映画でもっとも難しいのは、
「始まってきっちり2時間で終るような、
ちょうどいい問題と解決のペアを見つけること」
だと僕は思っている。
実際書いたことのある初心者ならばわかるだろう。
なかなか足りなかったり、
2時間をオーバーしてもまったく終わらなかったりする。
それは、描写や説明が下手というのもあるかもしれないが、
「そもそも2時間映画にふさわしい題材を、
選んでいない」あるいは、
「2時間映画にふさわしいように、
題材をほどよい大きさに切りそろえていない」
ことがあるわけ。
それを予測できるように、
「その話は何シーンあるの?」
に事前にこたえられる?
という話をふってみたわけだ。
CMの世界では、
15秒と30秒がある。
15秒のほうが電波代が安いので、
15秒がオンエア中心だ。
だけど倍払わなくてもいいから、
少しだけ上乗せすると、30秒も流せる仕組みになっているから、
大企業のCMでは、
同じ素材から15秒と30秒の両方を撮影編集する必要がある。
そのときに、
15秒にするには長い素材で、
30秒にするには短い素材、
というものがまれによくある。
監督は、15秒でも30秒でも成立するようにコンテを書き、撮影し、編集する技能が求められる。
(たいてい15秒用と30秒用のコンテをかく。
そして、同じところがどれだけ共用できるかで、
腕が決まる)
となると、
同じ素材(企画)から、
15秒と30秒と両方成立するように、
ストーリーを書き分けられないと行けないわけ。
たかが15秒と30秒というなかれ。
時間は倍違う。
1時間と2時間を書き分けることと、
本質的には同じ能力が必要なんだよね。
なので、
そもそもの素材が、
帯に短したすきに長し、ということもあるので、
きちんと切り分けて、
問題と解決のペアに、
うまく切りそろえてから調理を始めなければならない。
まあ長年やってると、企画を見ただけで、
「この企画は15秒向きだな(だいぶ足さないとなあ)」
「この企画は30秒向きだな(切り出しても成立するところはどこだろう)」
なんてことが事前に分るようになる。
この感覚を、
脚本でもとうぜ、ということをいっている。
あるストーリーの企画がある。
それが「2時間の映画になりそう」かどうかを、
事前に感覚としてわかるか?
という話だ。
あるいは、
「自分ならこれを書いたら1時間になりそう」とか、
「5時間はかかるから、
ドラマのほうが向いているのでは?」とかを判断できる?という話。
さらにいえば、
「これは足りないから、〇〇くらいを足すと大体2時間になりそう」とか、
「これは〇〇に絞れば2時間になりそう」とかを、
予測できるか、という話。
その基礎の感覚として、
これには何シーンかかるだろう?
を予測できる?という話である。
もちろん、1シーンがごく短いものもあるし、
長いシーンもある。
でも大数の法則で、大体平均化されて数字には出るよ。
80シーン、1分半。
この数字で覚えておくとよい。
あなたのストーリーの中のサブシークエンスは、
書く前から何シーンくらいかかるかを予測するべきだ。
もしそれが予定外に長ければ、
うまく短くしなければならない。
全体の予定より短くなりそうならば、
何かを足さなければならない。
(そのシークエンスには足さずに、
別のシークエンスを足すことになるかも知れない)
それらを、
「書く前から足し引きして考える」
ことが実は重要なんだよね。
一回書いちゃったら、カットしたり伸ばすことは、
結構難しいから、
プロットの状態や、
もっと原始的なスープの状態で、
大体を見積もっておくと、
改定が楽なんよね。
「これは映画になる?」
を予測しよう。
「これには何シーンかかる?」が分れば、
予測できるよ。
2時間に足りないならば、
もっと取材したり、
サブプロットを増やしたりするべきだし、
2時間を大幅にオーバーするならば、
問題の規模を小さくしたり、
展開をはしょったり、
サブプロットを減らしたりするべきなんだよね。
書く前から。
2024年04月03日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック