2024年05月09日

観客は、個人的楽しみを見出すことがある

僕らは基本大きなストーリーの流れや、
感情の流れを矛盾なく丁寧に描くことを考えている。

だけど受け手は、実はそれ以上の情報の探索をすることがある。


たとえば固有名詞。
いい名前だなー、ダサい名前だなー、
なんて見ていたりする。

あるいは、あの人が同じ名前だったから、
このキャラ好き、とか、
知ってる地名が出てくるだけで好反応だったりする。

神はディテールに宿るというが、
それは逆の話で、
観客は、
ディテールから総合的に情報を集めている、
ということなのだ。

スクリーンに現れる、
あらゆる視覚情報、音情報、
意味情報を集めて、
いるもの、いらないものに選別して、
ストーリー上重要なもの、
そうでもないもの、
ゴミ、
そして自分のお気に入りBOXを、
作りながら見ているのだ。

そこには、
(脚本にはないが)
あの衣装はかわいかったぞ、とか、
あの飯はうまそうだった、とか、
景色がきれいだな、とか、
家の近くじゃん、とか、
このクルマ使ってるんだ、センスあるーとか、
この音楽どこかで聞いたことあるなとか、
そういうものも含まれる。

脚本でそうしたディテールをつくることはないが、
そのようなディテールを観客は浴びながら、
「ストーリーの奥を探っていってる」
わけだ。

あらゆる情報を探索して、
「ここで何が起こっているのか」を、
全力で把握しようとするわけだね。


固有名詞の場合でも、
たとえば主人公が会社員だとして、
その会社名がビルの看板にあるだろうし、
名刺にも刷られているし、
首からIDカードをかけてる場合もあろう。
こうした情報から、
この人は会社員で、どういう仕事で、
どういう方向性の会社か、
を読み取ろうとしてるわけ。

たとえば、
にこにこ保険だったら、
親しみやすい会社だろうし、
サイバーセキュリティ社だったら、
先進的な会社だろう。
昭和商事なら、昔ながらの会社だろうね。

こんな風に、ディテールひとつから、
雰囲気をよみとろうとするわけ。

だから、
脚本に本来そのようなディテールはいらないのだけど、
重要だぞ、という話をしている。


よくあるのだが、
身長、体格、学歴、自分をなんと呼ぶか、
を、とても気にする人がいる。
その情報でラベリングするのだろう。

身長や学歴は、特にこだわりの強い人
(コンプレックスも含めて)が多いね。

東京だと、
住んでる街で、階級や嗜好が分かれる。
恵比寿や広尾に住む人と、
足立区の人は会話が成立しないかも知れない。
港区や世田谷区という括りよりも、
もっと色濃く出やすいだろうね。


ただ気をつけたいのは、
それでディテール情報を語ったつもりになってしまうこと。

恵比寿に住んでる設定を出したからとて、
年収高め、オシャレ、ハイソ、
なんてことを読み取れる人の方が少ないわけ。
だから、
あくまでそうした登場人物の言動や考え方を示したうえで、
恵比寿在住とするべきだろう。
(あるいは、恵比寿に住んでるのに庶民的とか、
ディテールを利用する)

あくまで、
登場人物の中身が先にあり、
ディテールはあとづけであるべき。

だけど、知ってる人はディテールでも楽しめるように、
するべきだということだ。

恵比寿3丁目に住んでる、とかすれば、
知ってる人ほど「あのへんだな」となって、
二重に楽しめる。
その時に矛盾がないように、かつ楽しめて、
かつ知らない人は無視しても大丈夫に、
しておくべきなのだ。

この、全方位の配慮が足りないと、
ディテールがつまらなかったり、
ディテールに終始して内容がスカスカだったり、
ディテール前提でおいてけぼりになったり、
するわけだね。


ディテールに楽しみを見出すのは、
あくまで個人的な感覚だ。

店にラグビーのポスターが貼ってあるだけで興奮するラグビー好きもいる。
それはあくまで個人的によかった、
というだけのことでしかない。

我々は、そうしたことを制御しながら書いてゆく。
自分の個人的な楽しみを込めてもよいが、
それに溺れないことだ。
posted by おおおかとしひこ at 06:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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