2024年04月09日

セリフの語順

日本語というのは特殊な言語で、
言葉の位置を入れ替えても、
意味が同じになる特徴がある。

だけど全く同じにはならなくて、
ニュアンスが変わってくることもある。
それを利用した例。


https://x.com/onoderasan001/status/1777204940135621065

書き起こしてみるか。

1「ここを出て行く時、痕跡を残したくないからな」
2「残したくないから……痕跡……! ここを出て行く時に……」
3「残したくないじゃんほら! ここを出て行く時、痕跡とか!」

三つとも、
大きな意味は同じなのだが、
感情のニュアンスが異なるわけ。

1から3に至るまでに、
グラデーションで浮き足立っている。

2は冷静ではあるものの、
ドヤ顔で含みたいことがあるため、
感情としてはややみえている。

3はその場での思いつきのような、
焦っているときだ。
語順がひっくり返っていることで、
思いついた順で喋っていて、
最後に大事なことを名詞で言ってしまう感じが、
とても感情を表現している。
バカなんだな、とよくわかるわけだ。

逆に言えば、
同じセリフを与えられても、
異なるニュアンスになるように、
語順をその場で変えられる役者は、
優秀な役者だ。

いわば倒置法というジャンルなのだが、
ふつうの構文からどれだけ離れたかで、
感情の振れ幅をつくれる、ということだね。

役者ならば、
目線や抑揚や仕草も加えて、
より豊かにできるだろう。

舞台で大袈裟にするなら、
3ならドタバタ走り回った上で、
自分の走った足跡を指差しながら、
「痕跡とか!」って言っちゃうだろう。

つまり、
感情が先に走っている時は、
身体的になる。

冷静ということは、
感情による身体的な動きを、
極限まで抑えている、という現象だ。

あたふたする、という動作は、
焦りが肉体まで出てきている、
漏れてきてるときなんだね。

もっと動揺させてみるか。
「残しちゃだめだ……痕跡! ここを出て行く……
痕跡、残しちゃダメだろ!」
と、支離滅裂になっていくだろう。


もちろん、同じセリフでも、
言い方だけでそれを表現することもできる。
ものすごく焦って1のセリフを言うならば、
「こ、ここを出て行く時さ、
痕跡を残したくないからさ!」
などとどもったり、相手に確認を求めたりする芝居になるだろう。



あなたのセリフは何を求めているだろう?
どんな感情が溢れているだろう?

落ち着いているのか?
あたふたしているのか?

僕はセリフは声に出して読むべきだ、
といつも言っている。
それだけで、生きた言葉になりやすいからね。

文字にならない感情まで、
語順やちょっとしたオカズで、
表現できるぞ。
それが日本語のいいところだ。


(逆に、英語のそんなニュアンスは、
言葉だけだとわかりにくいよね。
だから外人のゼスチャーは大袈裟なのかもね)
posted by おおおかとしひこ at 08:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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