タイピングは両手剣か二刀流か、という話は、
抱球をひとつと考えるか、ふたつと考えるか、
の違いだと考えられる。
これを考えるには、中国武術の深いところの話が必要だろう。
天キー6で大岡俊彦さん、Murasaki_minさんと話した、キーボードと「球」のこと
https://note.com/catfist/n/n480f37861066
たしかにLotus配列、バチクソテンティングは、
太極拳の抱球姿勢に似ている。
その仮想の球体に沿って手を滑らせて、
打鍵するイメージはまさに撫で打ちだ。
あえて書くと、
((((( )))))
か。
これに対して、
僕はふたつの抱球を左右分割で使っているみたいだ。
ざっくりいえば二つのおっぱいを触っているわけだ。
あえて書くと、
((|)) ((|))
な感じ。
これらは、身体操作的には異なる概念かも知れない。
以下、中国武術オタクが身体操作論をまとめます。
武術史的にいうと、
抱球ひとつが伝統的で、
抱球ふたつが現代格闘技的なものである。
それを身体操作原理の進化としてまとめておく。
かつて武器は一つ持ちであった。
槍一本、長刀一本をもち、
両手で操作する、重たい、威力の高いものが使われた。
遠心力に負けないように足腰を使い、
一方の手を引いて、一方の手を押して、
武器を打ち出すやり方だ。
この、引き手(陰)と突き手(陽)の関係を、
太極図に見立てたのが太極拳だ。
中立からはじまって、
一方が徐々に陰になり、陰が極まる。
同時に他方が徐々に陽になり、陽が極まる。
そして徐々に元に戻り、中立へ至る。
これが一つの武器の打撃であり、
これを両手の攻防に理論的に応用したのが太極拳だ。
つまり、一方の手で受けて、相手の手をつかみ、
引いて体勢を崩す。
肩を引くから、もう片方の肩は前にでる。
その勢いを使って突く。
引く力が突く力を増幅する。
これが陰陽の原理とか、夫婦手といわれる、
引きと突きを同時にやるやり方だ。
空手の正拳突き(セイ!セイ!)とやるやつも、
肩をまっすぐにしてはならない。
左肩を引いて左手を引き手にして、
右肩を前に出して右手で突き込み、
また逆にする。
これを、陰陽、陽陰、陰陽…と、
太極図が回転する様にたとえたのが、
太極拳だ。
太極拳の場合、空手のような単純な直線ではなく、
もう少し複雑な軌道が多い。
なのでそれを象徴するために、
立体的な太極円、つまり球体で陰陽をしめす。
それが抱球勢だ。
球を抱く体勢のまま、
その球を回転させるようにすれば、
片方の手で受け、もう一方の手で攻撃することが、
自分の中心を崩さずに可能、というわけ。
自分から見て球を反時計回転すれば、
左手で受けて右手で上段を掌打で攻撃する意味だ。
あるいは右手で受けて左手で下段掌打でもよい。
どちらも使えるようにしておく。
二つの手を、ひとつの球で繋げて運用する。
これは、もともと槍や両手剣のような、
大きな武器の時代の身体操作を使った、
徒手武術だ。
だから体を半身にして(受攻面積を少なくして)、
前手で受けて逆手で攻撃する、ないし、
後ろ手で受けて前手で攻撃、という陰陽をする。
その時に直線的だと力負けするので、
球形を保つとRがあって、回転で弾きやすいよ、
というのが太極拳なわけである。
これが時代を経るにつれて、
徐々に二刀流の身体原理に変わっていった。
南拳、香港へ至るにつれ、
短い二本持ちの武器が増えていった。
ナイフ二刀、トンファー二つ、鎌二つ、サイ二つ、
あたりはマンガやファンタジー系でもよく見る。
三節棍もこの類で、
三節棍は実は両端の短い棒を二刀流のように使う武器だ。
(たまに長いムチみたいにも使うけど)
カリスティックなどのマニアックな武器も同じ。
こうなると、半身だったものが、
体の向きが正面系になってくる。
両手を活用するためだね。
南拳に属する詠春拳なんかが代表的か。
足は半身だけど(金的をカバーするため)、
上半身はほぼ正面向きだ。
これは、両手を攻防色々に使うためだ。
これと似た拳法に白鶴拳があり、
これが沖縄に流伝して空手となった。
なのでこれらの流派は体を正面気味に使う。
そして空手にも、トンファー二つ、サイ二つ、鎌二つが、
伝承されている。
手をバラバラに使うために、
ひとつの抱球は二つの抱球に進化した、
と考えるとわかりやすい。
ただ、一発の強さは、肩と骨盤を同時に使う、
太極拳や八極拳には負ける。
拳児やバーチャファイターで有名になった八極拳は、
その威力の強大さで知られるが、
それは左足前左手前の半身から、
一気に右足前右手前の半身になる力を使うからだ。
普通そこまで思い切った体勢転換はしないが、
八極拳は思い切る。
それを拳でやれば沖錘、肘でやれば頂肘、
肩でやれば鉄山靠になるだけ。
身体操作的にはまったく同じなのよね。
太極拳はもっとマイルドにして、
自分の体勢を崩さぬように抱球をキープする。
つまり、抱球がひとつの系列とふたつの系列があり、
ひとつの系列は、抱球の半径が長いので、
遅いが一発の威力がある。
ふたつの系列は、抱球の半径が短いので、
素早いが威力に欠ける。
さて、「なぜ中国武術は総合格闘技で負けるのか?」
という議論がある。
太極拳は強いのか?
バーチャほど八極拳は戦えるのか?
なんて話だ。
実は、この「ひとつの抱球スタイル」は、
現代格闘技の、「ふたつの抱球スタイル」に、
素早さで負ける傾向にある。
回転が速い連打に対応できないからね。
槍対槍、両手剣対両手剣の速度感と、
ナイフ二本のスピード感が違うのである。
ナイフ二本だと、
左手で受けて右手で攻撃する、
左手で受けて左手で攻撃する、
右手で受けて左手で攻撃する、
右手で受けて右手で攻撃する、
という4つの選択肢があり得る。
これを、両手に抱球があり、
それぞれに陰陽が回転している、
と考えるとわかりやすい。
この回転の速さに、ひとつの抱球では対応できない。
だから太極拳や八極拳は、
そのままだと現代格闘技、キックボクシングや総合に、
遅れを取るのだ。
ということは、南拳ならいける?
詠春拳から発展したジークンドーが、
最近来ているのは、そうした実験の流れなんだよね。
さらに近代の進化を見よう。
ムエタイやキックボクシングでは足ごと正面を向く。
金的が蹴られないルールだからだ。
足も手みたいにダブル抱球にしたれ、
つまり計4つの抱球にしたれ、
という考えが、近代打撃格闘技である。
だから、ふたつの抱球、ひとつの抱球では、
そこに対応しきれずに近代格闘技に負けやすい。
もちろん、対応してればいけるかも。
ジークンドーの石井東吾は対応してそうだね。
朝倉海とスパーした時は、
金的ありルールでやってたので、
その辺を分かって、二つの抱球まで絞ってから仕掛けたんだと思う。
一旦まとめよう。
太極拳や八極拳のほうが古い。
ひとつの抱球で、一つの長い武器を使う前提。
威力が高いが、回転が遅い。
詠春拳、ジークンドー、空手のほうが新しい。
ふたつの抱球で、二つの短い武器を使う。
回転が速いが、威力は旧式に負ける。
さて、
ようやくタイピングと合流させる。
つまり僕は二刀流、ふたつの抱球で、
タイピングしている。
それは、薙刀式が片手アルペジオを多用するからだ。
左手で受けたときに、必ず右手で返すのは、
左右交互打鍵に見立てられる。
左手で受けてそのまま左手で返すのが、
アルペジオ打鍵に見立てられる。
僕は左手アルペジオはそんなに速くないが、
一部の連接に関しては左右交互より高速だ。
右手アルペジオは多くの組み合わせで、
左右交互より速い。
そしてその連接を活用して、
よく使う日本語のフレーズにあててあるのが、
薙刀式というカナ配列だ。
ここまで来て、
薙刀は長い武器やんけ、しまった、
などと思っている。笑
ノリでネーミングするんじゃなかった。
薙刀式は、ナイフ二刀流式とか、
トンファー式などと名乗るべきだったね。
(それがキャッチーかどうかは置いておく)
おそらくだが、
ひとつの抱球スタイルであるところの、
Lotus配列や、バチクソテンティングスタイルは、
左右交互打鍵が多めの、
qwertyローマ字だから成立してるのでは?
という話をする。
しかしqwertyの左右交互打鍵率はそこまで高くなく、
案外片手アルペジオが多い。
左手だとsa、da、ta、te、ra、re、
右手だとni、mi、no、mo、hi、ho、you
などである。
ここが高速性能を担保してる部分だと言われている。
単なる左右交互打鍵より速い理由だと。
これも推測だが、
こうした部分が、
Lotusやテンティングではそこまで快適ではないのでは、
と予測する。
さらに推測すると、
Lotusやテンティングで使い勝手のいいものは、
左右交互打鍵率の高い配列、
つまり左に子音、右に母音を分けた、
いわゆる行段系ローマ字配列こそが
(SKY、DvorakJPなどが嚆矢、
きゅうり、いぬふぐり、和ならべなど多数、
けいならべ、カタナ式あたりが最近、
tomisuke、大西あたりがごく最近)
使いやすいのかも知れない。
左右交互率高めのカナでいえば、
月配列、新JISだね。
…ほんとかな?
身体操作の使い方、抱球の考え方と、
打鍵の生理が繋がってるとすれば、
これは正しい推論であるが、
全然関係ない可能性もある。
左右分割型キーボードは、
左右交互打鍵よりもアルペジオに向く。
これもまだ仮説だ。
ただ経験的にわかってることがあり、
左右の距離を離しすぎると、
左右の連動性能が失われることだ。
左右独立に打つアルペジオはそんなに変わらないが、
左右交互の連動が遅くなる感覚がある。
なので僕は肩幅より狭めで使っている。
薙刀式だってアルペジオオンリーではなく、
左右交互打鍵も半分以上あるので。
だから、
仮に薙刀式使用者でなくとも、
左右分割を使う人は、
たとえばレイヤーキーは同手のほうが逆手より使いやすいはず、
と仮説を出しておこう。
まとめておくと、
ひとつの抱球/太極拳-が/一体型/Lotus/テント/左右交互/qwerty、行段系
ふたつの抱球/詠春拳/分割/ドーム/水平/アルペジオ/薙刀式
という、
中国拳法系の身体操作と打鍵スタイルと、
物理キーボードと論理配列の、
つながる線がありそうな気がする。
いや、私はこうではないです、なぜなら、
という反論を待っています。
さらに、
現代的格闘技スタイル、
両足をふくめた4つの抱球のタイピング、
つくれないかな?
右足のアルペジオとか、ヒールアンドトゥくらいしか無理かw
なお中国拳法は幅広く、
発達した地方によって北拳と南拳にわかれるが、
すべての北拳と南拳が、太極拳と詠春拳のように、
両極にわかれた身体操作を使ってるわけではない。
たとえば北拳に属する八卦掌は、
ふたつの抱球を使った戦闘法が多い。
二刀流の短い武器(日月陰陽鉞とか)をよく使う。
そして打撃力を捨てて投げに走ってるし。
一方、
南拳に属する酔拳なんかは体全体を使った打撃だから、
抱球とかないし。
バラエティがたくさんあるので、
ひとつの原理で貫かれてるわけではないことに注意されたし。
僕は南拳→空手から別れて、北拳の中国拳法と混ざった、
日本の少林寺拳法の身体操作がベースだと思う。
快速連打系で、右手二連打の燕返しなんてのもある。
なので、抱球スタイルは二つだな。
二つの流派を見分ける方法は簡単で、
最大打撃をするときの足の位置だね。
一直線になるのがひとつの抱球、
ならないのがふたつの抱球だ。
ジークンドーは変わった武術で、
ストレートリードだけ一直線で、あとは二つの抱球を使うんだよな。
そういうハイブリッド型もある。
2024年05月06日
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