全体を俯瞰する方法。
「ママのかわり」からやってみます。
シーンだけを抜き出して、分数と対応させます。
重要な出来事をメモります。
ストーリーの動くポイントに●をつけます。
0
恵美の家、リビング(朝)
愛理の4歳の誕生日
恵美のマンション、共用廊下(朝)
隆、事故死
1
ホテルニューオータニ、宴会場
インフルエンサー表彰式
2
恵美のマンション(朝)
恵美の家、リビング〜玄関(朝)
穂香、やってくる●
4
同、リビング
愛理はなつかない
同、夜
初日終わり
5
恵美のマンション、エントランス(朝)
恵美の家、玄関(朝)
穂香2日目。愛理、助けを求める?
6
同、リビング
カエルのヒュー
7
同、リビング(夜)
「いいこと考えた!」●
8
恵美の事務所、会議室前〜会議室
アンバサダーになる●
回想、スノードーム
10
恵美の家、リビング(夜)
写真が切り取られている●←ようやく本題
11
同、リビング〜玄関(朝)
愛理じゃないもん、萌だもん!●
穂香をキャンセルする●
13
穂香、入ってくる●
穂香、「萌が生まれ変わった」と真相を●
14
恵美のマンション、共用廊下(朝)
対決、穂香死ぬ●
15
長いので縮めましょう。
0
1
2 穂香、やってくる
3
4
5
6 (カエルのヒュー)
7 いいこと考えた!
8
9
10 写真が切り取られている←ようやく本題
11 萌だもん!
12
13 萌が生まれ変わった
14 対決、死ぬ
この話の印象は、
「設定ばかりやってて、なかなか始まらないのに、
始まったと思ったらネタバレしてすぐに終わった」
です。
それが、このようにページと重要部を並べるとわかります。
「ようやく本題」とした、
写真が切り取られている事件。
(三人の家族写真から恵美だけハサミで切り取られた、
という解釈としました。
何が起こってるか文章では判別がつかない)
これですでに2/3を消費してしまっています。
「萌が生まれ変わった」のネタバレからクライマックスとして、
それがたった2P。
つまり、この物語の三幕構成はこうです。
設定 10
展開 3
解決 2
一幕が長い。長すぎる。
この物語の面白いところは、
異常ベビーシッターという事件です。
愛理は萌だと思い込ませるところが、
オリジナリティで、強い部分です。
ということは、これが「事件」になるべきでしょう。
つまりそれが少なくとも1/3、5ページ目までに来るはずです。
なんなら1ページ目でもいい。
娘「あのね、萌はね」
母「愛理、どうして違う名前をいうの?」
娘「わたし愛理じゃない、萌なの」
母「ちがうわよ、あなたは愛理」
娘「萌だもん」
母「あなたは愛理でしょ!何を言ってるの?」
ピンポーン
母「あ、穂香さん来たじゃない、変なこと言わないで。
(インターホンに)おはようございます」
穂香「おはようございます。本日も7時までで」
インターホン越しに笑う穂香。笑顔なのに不気味。
で、話を始めることができます。
「最初からはじめなくてよい、
途中の面白いところからはじめることができる」
というやつです。
穂香が新しいベビーシッターであること、
恵美が忙しい母親であること、
副業?インフルエンサーであること、
夫が階段で死んだことなどは、
このあと設定することも可能です。
「萌」がどうやら穂香の「遊び」なのだが、
その真相が5ページ目くらいでバレてもよいです。
「萌は死んだけど、あなたが萌なの」と、
穂香の異常性を早めにバラすか、
恵美の虐待の証拠を見せるかして、
愛理が萌になる理由を見せても良い。
となると、
中盤は、異常ベビーシッターvs心に闇を抱える母親
という対決ものになるでしょう。
そこでもめて、階段でまず恵美が落とされて怪我をして、
穂香は一旦首になり、
しかし穂香は執拗に家にやってきて…
というホラー展開、対決展開をつくることも可能です。
階段突き落としをラストに取っておくとすれば、
ハサミで(間違ったフリで)刺すとか、
異常な対決の仕方でも構わない。
火傷させたり、お風呂にお湯と称して氷水を張ってたり、
作り置きの電子レンジの料理の中にGが入れられてて、
なども可能です。
「萌と穂香で、お母さんをひどい目に遭わせよう?」
と約束してれば、
エスカレートはどんどん恐怖を帯びるでしょう。
異常女vs異常女の構図は、
ときどき現実でも見ますが、
なかなか病んでますよね。
その現実をうまく反映させることが可能です。
おそらくこの作者が書こうとしたのは、
こうした異常対決というエンターテイメントだったのでは?
派手にやらずとも、わかりにくい静かな対決でもいいかもです。
いずれにせよ、
最後は揉めあいになるようなところへつながればよし。
この脚本の、「話が面白くなるところ」は、
「萌」からです。
それが11P。残り4分。おそすぎる。
15分をおもしろさでみっちりにするには、
それを初手で使うべきです。
そしたらあと14分くらい、
面白さを詰められる。
ストーリーを書くのは、
料理と同じです。
美味しくなるのが後半1/3の料理はうまい?
不味いよね。
最初にこれはうまいよ、と見せておくべきでしょう。
初めて出すお客に、
最初の一皿で「だいたいこういう感じの料理ですよ」
ってわかってもらうべきでしょう。
客は一皿目でわからなくても、
ふた皿目でこれはおいしい料理かどうかを判断するでしょう。
P数で言えば2Pか3Pくらいかなー。
自分が他人のものを読むとしたら、
と想像すればわかります。
「1P目で詰まらなかったら読まない」人もいるでしょう。
もとだと、3Pは穂香の登場くらい。
ここで再生を止めたとして、
「この先見る?」って思っても、
「まだ味がわからない」としか言いようがない。
僕なら食べないですね。
せっかく面白い設定なのだから、
この異常ベビーシッターvs闇母親を、
もっともっと膨らませられたろうに。
で、
ここまで構成を暴くと、
見えてくるものがあります。
「で?」です。
異常ベビーシッターvs闇母親はわかった。
異常ベビーシッターも死ぬ。
で?
それが何?
たとえばこの異常母は、夫を同じ手段で「殺した」
として、またバレないように可哀そうな母親を演じて…
というバッドエンド、愛理にとってはループオチ、
でもいいかもしれません。
そこまでやれば「闇は続き、晴れないのだ」
という意味の話になります。
だとしても、スノードームってなんだっけ?
何にも使われてないですよね。
母親と愛理の心が通じてないことは、
最後まで解決しません。
前振ったものが解決しないことは、
バッドエンドにならざるを得ないです。
もっとも、
異常ベビーシッターの出現によって、
母親と娘の関係が、
もとの愛らしい関係に戻る、
というハッピーエンドもあり得ます。
スノードームが伏線になるでしょう。
あるいは、
インフルエンサーを辞めて、ただの母子家庭になる、
というだけの話かもしれません。
そこは、
「何が描きたいのか」「何がテーマなのか」
で全然変わってくる部分です。
つまり、
この話はゴールとテーマが決まってないのです。
「母親の闇はそのままで、
異常ベビーシッターが死ぬ」で、
どんなテーマが表せるというのでしょう?
「よくわからん」でしかないです。
「闇はつづく」というバッドなテーマなのか、
「承認欲求のためには人はどんなことでもする」なのか
(たとえば穂香は隠しカメラをつけてて、
一部始終が公開されて、穂香も承認欲求の塊であった、
としてもよい)、
なんらかのハッピーなテーマ、
たとえば「ささいな日常が一番」なのかが、
よくわからんのです。
愛理がどうなるのが、この話のゴール?
母親と元に戻ること?
闇が続くこと?
萌になってしまうこと?
争っているのは愛理のためのはずですが、
それがどうなればゴールなのかが見えてこないんですよ。
だから、
「異常ベビーシッターが現れて死んだ」という、
「嵐が来て、去った」しかないわけです。
嵐が来て去ったのなら、
「雨降って地固まる」ように、
雨の前よりもっとよくなるのが、
ストーリーというものです。
愛理は萌になることによって、
夫が死ぬ前の愛理に戻るべきでしょう。
それには尺が足りない?
設定に2/3も使ってるからですね。
ここを3〜5Pに縮められれば、
12〜10Pは「本編」を書く余裕が生まれます。
この話は何回書き直されたでしょう?
数回書き直した跡が見受けられます。
「家」「マンション」と、
表記揺れがあるからです。
どっちだよ、と普通はなるので、
実はこの脚本は、
一度も通し読みされていないことが分かります。
全体が見えていない脚本家が、
全体で何をするべきか熟考しているとは思えません。
設定、事件、キャラクターはできてます。
展開とオチがないです。
出来てるから7〜8割点数をあげるか、
最重要なものが出来てないから1〜2割の部分点をあげるかでいうと、
後者です。
設定やキャラクターは、
ちょっと才能があれば誰にでもできます。
展開とオチ(=テーマ)をつくれるのが作家です。
なんなら、若いやつに設定や事件をつくらせればいい。
作家の仕事はそのあとです。
それが0に等しかった作品でした。
つまり、この作品は、
作品の入り口に立っただけで、
まだ中に入ってないです。
「門前の小僧、習わぬ経を読む」かのように、
脚本の体裁は上手に整っています。
シナリオ教室で指導されたのかも知れず、
体裁は非常にきれいです。
しかし内装だけ綺麗にした手抜き建築みたいに、
骨格がスカスカなのです。
僕は骨格こそが建築だと考えます。
この話の骨格は、4分くらいしかなかった。
じゃ、全部で5分の話にできます。
残念ながら、
この人の周囲には骨格のまずさを指摘して、
批判できる人間がいなかったのでしょう。
シナリオ教室は生徒を失うのが怖いので、
生徒を批判しないことが増えています。
だからこそここに応募してきたのかも知れません。
根本的に軸足を払われた経験がなさそうです。
今転ばされた痛みを知ってください。
ここから立ち直る練習をしなければなりません。
痛みとは、自分が詰まらないものを書いたと真実を自覚することです。
立ち直るとは、より面白いものを書くことです。
さて、同様に「テンカウント」を分解してみます。
次回。
2024年05月12日
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