2024年05月20日

【脚本添削SP2024】10: 構成と解説

これまでと同様に、
リライト版の尺、柱、出来事をチェックします。



ボクシングのリング上
  川田、負ける

川田の控室
  飯でも行かね?●

町の中華料理屋
  左ストレートに左ストレート返し

回想、8年前、リングの上
  風間を左ストレートで葬る●

回想、8年前、風間の家、門前〜リビング
  座敷牢●

(元に戻り)中華料理屋
  まだ俺は、廃人になっていないぜ●
その外、シャッター商店街、夜
  再戦の約束●

風間の墓
  タイムカプセルを思い出す●

リニューアル工事中の中学校
  タイムカプセルに、手紙を入れた
  相手へのアドバイスを封入
  友情のダブルパンチ●
10
リングの上
  ダブルパンチを返される●
12
回想、8年前、風間の家、リビング
  座敷牢は風間が息子を守るため
  ダブルの返し方を教えていた●
13
(元に戻って)リングの上
  川田、死ぬ●
  まだ、テンカウントは聞いてねえ
  川田の息子とユウトが視線をかわす●
15


ストーリーの動くポイントだけを列挙します。



1 飯でも行かね?●

3 風間を左ストレートで葬る●
4 座敷牢●
5 まだ俺は、廃人になっていないぜ●
  再戦の約束●
6 タイムカプセルを思い出す●


9 友情のダブルパンチ●
10 ダブルパンチを返される●
11
12 ダブルの返し方を教えていた●
13 川田、死ぬ●
14 川田の息子とユウトが視線をかわす●


一幕、二幕、三幕に線を入れ、
第一ターニングポイント、第二ターニングポイントを◎で示しましょう。


ーーー 一幕 ーーー


1 飯でも行かね?●

3 風間を左ストレートで葬る●
4 座敷牢●
5 まだ俺は、廃人になっていないぜ●◎

ーーー 二幕 ーーー

5 再戦の約束●
6 タイムカプセルを思い出す●


9 友情のダブルパンチ●◎

ーーー 三幕 ーーー

10 ダブルパンチを返される●
11
12 ダブルの返し方を教えていた●
13 川田、死ぬ●
14 川田の息子とユウトが視線をかわす●


さらに簡便化していきます。

一幕
 基本設定、再戦の意思
二幕
 風間との友情、ダブルパンチ
三幕
 決戦、どんでん返し

という構造です。
これらが5:5:5にほぼなっています。
長編の場合、
1:2:1くらいがいいですが、
短編は設定と解決を描くために、
相対的に中盤が少なくなる傾向にありますね。

第一ターニングポイント、
第二ターニングポイントとも、
ストーリーの流れが大きく変わるポイントです。


一幕 敗北
 第一ターニングポイント 再戦の意志
二幕 再戦への手がかり
 第二ターニングポイント 必殺技
三幕 それは通用するのか?
(通用しなかった)

という大きな流れのもとに、
ストーリーが動いていることを確認してください。

もとの原稿よりも、
「流れ」というものがはっきりできています。
なんででしょう?

「なんとなく過ごしている時間」がないからです。


「各シーンの終わり」をチェックします。
特筆すべきところを書いておきます。


ボクシングのリング上
川田の控室
  飯でも行かね?
町の中華料理屋
回想、8年前、リングの上
回想、8年前、風間の家、門前〜リビング
町の中華料理屋
  まだ俺は、廃人になっていないぜ
その外、シャッター商店街、夜
  再戦の約束
風間の墓
  タイムカプセルを思い出す
リニューアル工事中の中学校
(回想内)
  手紙を埋める
  友情のダブルパンチ
リングの上
  ダブルパンチを返される
回想、8年前、風間の部屋
(元に戻って)リングの上
  川田の息子とユウトが視線をかわす

かなりのシーンで、
「次のシーンへの橋渡し」で終っていることがわかります。
そうなっているものだけ列挙しました。

つまり、
「このシーンおしまい」ではなくて、
「このシーンは終わるが、
その直後へのフリで終っている」ということです。
列挙します。

  飯でも行かね?
  まだ俺は、廃人になっていないぜ
  再戦の約束
  タイムカプセルを思い出す
  手紙を埋める
  友情のダブルパンチ
  ダブルパンチを返される
  川田の息子とユウトが視線をかわす

そのことで、「次どうなるんだろう?」
と、観客に思わせている、
ということです。
8か所あるので、15分のうち2分に1回程度ある、
ということになります。


「飯でも行かね?」っていうことは、
二人は面識がある仲であることは分かるし、
試合が終わったあとに何の話をするんだろう?
と次へのヒキがあるということです。

「まだ俺は廃人になっていないぜ」
というのは、
もう一回試合をしたいことの意思表明です。
(あしたのジョー的に、真っ白になるまで燃え尽きたいという願望や、
親友と同じ最後を遂げることの破滅願望も、
裏には意味を込めてありますが、
初見で解読できなくてもよいとしてあります)

再戦の約束では、
リベンジが興行的にも成立することを確認したうえで、
お互いの意思を確認したわけです。
大きくストーリーが動き、
クライマックスは再戦だと期待できるわけです。
(ここまで含めて第一ターニングポイント、
としてもいいかもです)

タイムカプセルを思い出すということは、
それを掘りに行くわけです。

手紙を埋めたということは、
それが読まれるわけです。

ダブルパンチの伝授では、
これが必殺技となり、
相手を倒すであろうことを期待させます。

ダブルパンチを返されるのは、
試合の行方へのヒキと、
練習してきたかのようなユウトの動きを、
ヒキにしています。

そしてラストは因縁はまだ続く、
というヒキで、
テンカウントはまだ聞いてない、
という修羅がテーマとして定着します。


このように、
「次への展開」を仕込んでいるので、
ストーリーがブツ切れにならなくて済みます。

脚本の下手な人は、
ここが下手なのです。

シーンを書いて、
シーンが終わったらおしまい。
次にまた別のシーンを書いて、
シーンが終わったらおしまい。
次のシーンをはじめて……
となるから、
話が繋がってなくて、書くほうも疲れるし、
見ているほうもブツ切れでつまらないなあ、
と思うわけです。
次何をするべきか、ベストの選択肢をしているのか、
不安になってくるわけです。


漫画では、
左のページの最後のコマに、
ページをめくって次を見たくなるような何かを入れろ、
というアドバイスがあります。
これを専門用語で「ページターナー」と呼びます。

脚本ではページがなく、
時間軸が進んでいるだけなので、
ページを意識することなく、だらだらしがち、
ということです。
だらだら、ということは話が進んでいる感じがしなくて、
流れが弱く、
ブツ切れである、ということですね。

つまり、ページターナーに相当するものがあれば、
話が繋がり、勢いがあり、だらだらなものがシャキッとする、
ということです。
それが、
「シーン終わりのつづくヒキ」です。

ハリウッドの脚本論では、
もともと小説で使われていた言葉の援用で、
ページターナーと呼ぶこともありますが、
分かりにくいので僕は使っていません。
日本語で分かるように、「ヒキ」を使います。


「飯でも行かね?」ってなったら、
次は飯屋が期待されます。
そして、飯を食うのが本題ではなく、
何かしらの話をしたい、のが本題なはずです。
それを期待させるわけです。

「まだ俺は廃人になっていないぜ」は、
強力なページターナーでしょう。
負け惜しみではなく、
この人は死に急いでいるのか、
などと少し怖くなるような、
そういうヒキになっています。
それとともに、
カンのいい人ならば、
「この人は廃人になって終わるのだろう」
と予感するはずです。
壁にかけた斧は、使われるのですから。


僕が、
元原稿の「テンカウント」でよくないと思ったのは、
シーン終わりのヒキ、
ページターナーがあまりないことでした。

シーンで終わり、シーンで終わり、
が続くので、
「時間が流れている」だけに見えて、
「ストーリーが進んでいる」ように見えないんですよ。

そうじゃなくて、
「その人がそのつもりでやろうとしていること
(動機を持つ行動)」が見えて、
なおかつ、その結果が期待できることが、
ストーリーというものです。
もちろん、動機が100%見えなくて、
不可解な行動があってもよいです。

「その結果を知りたい」となってれば、
それはストーリーが流れている、
ということです。


元原稿では、
「なぜ川田はユウトと試合したいのか」
「なぜ風間は川田と試合したいのか」
「なぜユウトと川田は再戦したいのか」
がいまいちわかりません。

アマチュアの試合だからそれが組まれただけ、
ではストーリーではなくて、
ただの時間軸の流れ、カレンダーにすぎません。

ストーリーとは、
意思を持った人間が、
流れに逆らって、カレンダーを破ってまで、
何かをしようとすること、
とも定義できると思います。

「その結果はどうなるんだろう?」
と思わせないといけない、
ということです。


ページターナーとはつまり、
小さなターニングポイントであるわけです。
流れを変え、次の流れを呼び込むものです。
それはセリフでも、アクションでも構いません。

たとえば。

「フフフ…それはどうかな?」
「よし、いくぞ!」
「あれを見ろ!」
銃弾で打たれる
「やっべ!思い出した!」「なになに?」
吊り橋が切られ、宙吊りになる
第二次大戦、開戦
大量のUFOが上空に
死にそうな人が「あいつを…呼んでくれ…」

などなど、
いくらでも「次のシーンで起こることの期待」
をヒキにすることはできますよね。

これらがあることで、
少なくともこのシーンと次のシーンは繋がるという流れがあります。
次のシーンでも同様にヒキがあれば、
3シーンがつながり、シークエンスになります。

つまり、流れがなく、ただダラダラと流れる話は、
シークエンスがなく、シーンだけにブツ切れになってるってことです。




ストーリーの大まかな構造は、
設定とオチで決まります。
オチ方で、テーマが決まります。
展開は、オチへの前振りです。

さらにその下部構造に入ったとき、
シーン単位で、
きちんとストーリーが前進して、
意思による行動があり、
その結果に不安や期待が持てるか、
その結果が気になる、があるか、ということです。

もちろん、ページターナーは、
シーン終わりだけでなく、
色んなところに散りばめられてもよいです。
たとえば「これ伏線だろうなー」という予感でもいいですよね。

でも強力なのは、
シーン終わりの「つづく。次どうなる?」
だと思いますね。


このことを理解して、
元原稿と比較すると、
ブツ切れと、流れのある脚本の違いがわかります。



さて、さらに細かいところを解説しましょう。
次回。
posted by おおおかとしひこ at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
リライトお疲れ様でした、そしてありがとうございます!!

セリフ、ストーリー進行、ト書き、登場人物などが自分の3倍も5倍も濃密で圧倒されてしまいました……!
己の取材の甘さや複眼的な視点の足りなさが身に染みて感じられます。
また、リライト後のストーリーの壮絶さが凄まじく、心が揺さぶられました。
こんな格好いいストーリーや登場人物を自分も作り出したい!!! でもまだまだ全然数稽古が足りていない!!!と、改めて気合いが入りました!

本業があり(と書くと言い訳がましくなるのですが)時間がなかなか取れないのですが、年始に書かせていただいたように、今年は100本プロットチャレンジを完走するのが目標なので、脚本添削スペシャルの記事を書き写しながら挑戦していきます!!

続きの記事も楽しみにしております!
本当にありがとうございます!
Posted by 自称弟子のれお at 2024年05月20日 18:02
>自称弟子のれおさん

ヒントになるか分からないですが、
手塚治虫のこんなエピソードがあります。
> 『来るべき世界』は前後編合わせても400ページのはずなのに、そこで二人が手にした生原稿は全部で1000ページもありました。手塚先生は、400ページの作品のために1000ページも原稿を描いて、600ページをバッサリと削っていたのです。
https://koikesan.hatenablog.com/entry/20161108

極限まで削ると、重層的に重ね合わせるスペースができるかも。
Posted by おおおかとしひこ at 2024年05月20日 20:42
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