2024年06月12日

オフでオンが台無しになる例

オンというのを、
「今目の前で起こっているドラマに感情移入すること」、
オフというのを、
「今目の前のことに集中せず、もっと大きな文脈で捉えること」、
と定義しよう。

オンビート、オフビートみたいなこともこれでいえる。


映画というのは、
オン100%が前提である。

オフのものを持ち込まれたら負けだ。

たとえば、
「主人公はヒーローだから、
敵の弾は絶対当たらない」とか、
「どうせヒロインは主人公とくっつくんでしょ」とか、
オンからオフに心が離れてるということは、
話に夢中になってなくて、
オンが弱い証拠である。

「この芸能人たしか○○と付き合ってたよな」とか、
「○○は麻薬やってたんだっけ」とか、
「今日の晩飯何食おうかな」とかも、
オフに気を取られてるってことだ。

スマホで動画を見てる時、
黒に落ちた瞬間、
変なおじさんが写ってるのは、
究極にオフだよな。


さて、
オフでオンが台無しになる例を見つけたので、
貼っておく。

7分もあるCM、フォーティネットの企業CM。
https://m.youtube.com/watch?time_continue=1&v=TzFHYcVA_Cg&embeds_referring_euri=https%3A%2F%2Fwww.google.co.jp%2F&source_ve_path=MzY4NDIsMzY4NDIsMjg2NjY&feature=emb_logo

1カットでどうやって作ったんだろう?
なんて疑問は明らかにオフのものだよね。

もしオンに夢中になるならば、
主人公二人の会社物語に、
夢中にならなければならない。

ところが、
この二人の物語は陳腐で全然つまらない。
その先が気になるわけでもなく、
最後まで行ってもなんら感動することがない。

ところがラスト、
カメラが引いていくと、
そこに舞台裏というオフが出現する。

これらのことは全部、
フォーティネットという裏方がビジネスを支えていたからですよ、
という企業メッセージである。

僕はこれを見て、
オフでオンを台無しにした、
オンの映像を舐めてるのか、とかなり怒っている。


オンで面白いことができないから、
オフに逃げてる、
という批判をもしよう。

もちろん、テーマは舞台裏だ。
だからオフ、ビハインドザシーンを持ってきたんだよね。

じゃあ、舞台裏の大工の、
感情移入できるオンの話をつくればいいじゃないか。
むしろこのフィルムを作る上での、
壁や小道具をジャストタイミングで動かしてる、
美術部の話をオンで作ればいいのに、
とすら思ってしまった。

つまり、
オンでそれを作れる実力がないからこうなる。

会社を立ち上げようぜ、
成功していくがもめて辞めていく、
またやろうぜ、
という流れを、
ハラハラドキドキする物語に書く実力のない人間が、
オフという「仕掛け」に逃げたんだな。

だってオンだけだと全然つまらん話だものね。
7分かかってちんけなストーリーだった。


僕は技術的な興味があって最後まで見たけど、
別にこの二人の男に感情移入もしないから、
最後まで見ることはふつうないと思う。
だってこの男たちの結末なんてどうでもいいもの。



お口直しに、
出来のいいものも貼っておこう。
これはオンで勝負したものだ。

リオパラリンピック、Yes I can。
何回見ても涙が出るわ。
https://m.youtube.com/watch?time_continue=1&v=vzjuQoNM534&embeds_referring_euri=https%3A%2F%2Fwww.google.co.jp%2F&source_ve_path=Mjg2NjY&feature=emb_logo
オフで色々苦労してるだろうことを想像させながらも、
それを振り切らんばかりに色々見せてくれる。
「No, you can't」からの激しくぶつかる「Yes, I can!」の切り返しが、
あまりにもすばらしい。
ちょいちょい静かにしてねとかを挟んだり、
配慮に遊びが入ってるところが大人なんだよなあ。

オフなんかどうでもいいだろ、
俺たちはオンのために生きてるんだ、
というオフからのメッセージが強烈だ。
そして俺たちは劣ってる者ではない、
superhumanなんだぞ、
という突き抜けたオンの、
斜め上のキャッチコピーが最高だ。

この駆け上がりこそが物語である。


それをオフに逃げている、
フォーティネットを作ったスタッフは、
物語をつくる資格がないどころか、
真逆に全否定されるべきだ。
二度と映像を作らぬように。
posted by おおおかとしひこ at 00:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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