取材しよう。
ネットで調べることはもちろん、
現地にいって、経験者の話を聞こう。
「あなたが知らない現実」を知るためだ。
どんなに想像したって、
想像の外の世界のほうが広い。
想像の世界はあり得るかどうかふわふわしているが、
現実にある世界は、
「それがほんとうにある」という意味で、
「成立している」現実だからだ。
想像の世界は、
一応無矛盾で成立しているようにつくるものだが、
色んな角度から見たときに、
突っ込みどころがない保証はない。
しかし現実というのは、
現実で成立しているものだから、
説得力があるように出来ている。
僕はそれまでスキーにはまったく興味がなかったのだが、
スキー競技経験者と話をしていたら、
高梨沙羅がすごい、という話を聞いた。
あの人、
スキージャンプの滑降のときに、
凹んでいる溝の横に一切触らないんですって。
ちょっと横に滑ったらガンってぶつかって、
その分摩擦があって、
それでスピードが落ちるから、
それを嫌って、
絶対板を横滑りさせないように滑っているらしい。
その板のコントロールがうまいから、
初速があってジャンプできるのだそうだ。
そのコントロールが一流だから一流なんですって。
へえ。
そんなところにリアリティが潜むわけさ。
そんなの、想像で思いつくわけがない。
それが現実の強さだ。
高梨沙羅は横に当たらないんだぜ、
なんて思いつきもしないが、
説明されればなるほどすごいってなる。
それが現実のすごみだと思うんだよね。
僕らがストーリーの構成やセリフやキャラクター造形に、
細かく気を配っているのと同様に、
高梨沙羅はコースの溝に気を配っているのだ。
人間の注意力は有限だから、
集中した部分にそれは使われる。
どこにリソースを割いているか、
がその人の在り方なのだろう。
貝の養殖をしている漁師さんと話したときに、
大潮が月二回あって、
その時は引き潮が遠くまで引くので、
そのときに貝を撒くんだ、
という話をした。
大潮や小潮をベースに生きていないよね。おれら。
ひょっとしたら女子は生理で月の何かをベースにしているかもしれないが、
俺らは家賃とか給料くらいしか、
「月」を意識することはない。
異なる人たちで意識は異なるわけだ。
もちろん、
これらの何かをどうやって話に組み込むかは腕だ。
月に二回ある何かをイベントとして入れたり、
スキー板の横にマッチを取り付けて滑らせる、
とかは考えられるが、
それがうまく組み込められるかはなんともいえない。
だけど、知られていないリアルを知っていると、
「新しい嘘がつきやすい」ということは、
覚えておくといいだろうね。
想像ベースで新しい嘘を考えると、
どうしても抜け穴があったりするからね。
取材はしよう。
できるだけ自分と関係ない人々の話を聞くと、
面白いことがみつかる。
おれらは職人畑だから、
事務職の人の話を聞くのもおもしろいんだよな。
自作キーボード界隈だと、
エンジニアのリアルが聞けて、
想像じゃ思いつかないリアルが転がっていることが分かる。
その人たちにはそれが日常リアルなんだけど、
取材しない限りそれは想像では無理、
ということがたくさんある。
まあ、それらが即使えるかは分からない。
でも「へえ」をたくさんためておくと、
いつかそれを使うときが来る。
マタギがどうやって照準を決めて撃つのかとか、
朝早い職人が寝坊したときどうするのかとか、
どうでもいいことがたまに疑問に思うときがある。
ググれば済むのかもしれないが、
もっとリアルは実際の人からしか出てこないよね。
調べられないものは、その人に聞くとよい。
「すいません、ちょっと話を聞きたいんですが」
から始めるしかないよね。
それで聞いた雑多な知識は、
雑多な知識として格納しとけば良い。
大事なのは好奇心かな。
へえ、って思うことだ。
映画ってそもそも好奇心で見るものだよね。
2024年07月24日
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