2024年08月14日

映画は汽水域で起こる

汽水域というのは、
河口と海が混ざる領域のことをいう。
大きな川の河口の淡水と、
湾からの海水が混ざり、
多様な生物環境を産むことで知られる。

物語というのは、
こうした「混ざり合うところ」で起きる。


単一で均一な環境下では、
すでに大体決着がついている。

そこに何かを起こそうとしても、
バランスを根こそぎ変えるのは難しい。

権力者は権力の座に居座るし、
それを維持する仕組みをつくっているだろう。
弱者は這い上がれず、
仮に能力があっても下層民だろう。

安定した社会は発展しない。
現状維持する力が強い。
(失われた日本の30年は、
高度成長した姿を維持するために使われて、
その維持力を失いつつある状態、
と捉えることもできる)

海水には海水の、
淡水には淡水の安定した世界がすでにあり、
容易にはひっくり返らない。

ところが汽水域だと変わってくる。

適宜混ざることで、
これまでの常識が通用しなくなるからだ。
これまでの世界とは全く異なる原理の者たちと出会い、
価値観を競ったり、変容する必要が出てくる。

新しい戦い方やあり方を編み出さないと死ぬかもしれない。
偶然活路が発見されたり、
偶然勝利の道が閉ざされたりする。
安定していない世界だからだ。

物語のパターンで、
旅人が村にたどり着くところから始まったり、
転校生の初日だったり、
ある現場に呼ばれるところだったり、
別の世界からの使者がやってきたり、
別の民族との出会いから始まるのは、
こうした汽水域から始めてるわけだ。


物語とは、ごちゃごちゃが起こり、
それらが安定するまでを描くものである。
ということは、
そのごちゃごちゃは、
すでに安定した世界よりも、
汽水域のほうがダイナミックになるわけ。
ということは、
汽水域のほうが面白い話になる可能性が高い。

長年連れ添った夫婦よりも、
初めて出会った中学生のほうが、
恋はドラマチックなのだ。
そして三人目が現れ、三角関係になるほうが、
ドラマチックなのである。

転校生がクラスを変えていく話や、
ある村によそものがやってくる話や、
ある部族とある部族が出会う話や、
クズの寄せ集めが世界を変えていく話や、
コジキが王様になる話や、
異教徒が紛れ込む話や、
関西人が一人混じったり、
黒人や女が混じったり、
異人や宇宙人が混じったりするのは、
汽水域をつくるためである。


ただ異なる者が混じっても、
混じっただけで意味はない。

混じったことで、
コンフリクトが起きて初めてエンジンになる。
関西人が納豆でケンカしたり、
男子校に女子が紛れ込んで女子トイレがないと騒いだり、
とにかく問題が起こらなければコンフリクトではない。
コンフリクトは、
異なるものの間に起こる。

つまり、汽水域とは、
コンフリクトを起こしやすい環境というわけ。



変革の時代とか新しいことへの挑戦とか、
簡単な美名でいうけれど、
実際の現場では、
異なる文化の揉め事だらけというわけさ。

企業の合併とかもそうだろうね。
食い合い、主張のしあいばかりになり、
「あそことはやってられん」になるだろう。

アメリカ映画では、
よく部族と部族の戦争が描かれる。
同じことである。
部族と部族をまるで違うビジュアルに描くことで、
見た目でもどっちがどっちか分かりやすくするのが、
ビジュアルで語る映画というものだ。

インディアンと開拓者の話から、
ベトナム戦争から、
宇宙人との戦争から、
アバターまでそうだよね。


つまり、
物語とは、
淡水50と海水50がぶつかり、まざりあい、
ついには半々の汽水になること、
と考えるとわかりやすくなる。


貴種流離譚が昔から人気なのは、
「停滞した村を、よそものが変えていく」
という汽水域の面白さがあり、
ストーリーをダイナミックにできること、
そしてその人が単なる一般人ではなく、
「実は王族の血を引く能力者」であることで、
活躍の根拠を得られるからだ。

ダイナミックでかつそれを制する根拠があり、
大成功に導ける説得力があるわけだね。

ある新入生が、廃部寸前の部活に入り、
停滞した部活を変えてゆく、
そしてその新入生とは、
とある有名選手の息子であった、
なんて話は、貴種流離譚をスポーツものに翻案した形になるわけだ。

ある転校生が来たことでクラスは変わってゆく、
その彼は自信に満ち溢れ、
反対勢力を説き伏せる。
実は彼は元芸能人で、引退して整形したのだ、
なんてのも貴種流離譚の翻案だね。



さて、
あなたの物語は、
そうした汽水域で起こってるか?
異なる文化背景を持つ者たちが出会い、
最初は揉めるけれど、
最後には硬い絆になってるだろうか?

物語はコントラストの中で描かれる。
文化が異なるほど、揉めがひどいほど、
最後の硬い絆は燃えるよね。
posted by おおおかとしひこ at 07:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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