2024年08月20日

縦と横のメソッド

ストーリー全体を図のように俯瞰したい。
昔からずっと思ってきたことだ。

図のように示すことができたら、
色々とリライトの試行錯誤をすることが可能になるのでは?
と考えているからだ。


その新しい方法を編み出したので、メモする。
「縦と横のメソッド」と名付けた。


ストーリーを俯瞰する方法はいくつかある。

【あらすじを書く】

文章であらすじを書く方法。梗概などもそれ。
オチまで書くことで、
大まかには何が本質なのかをあぶりだすのにちょうどよい。
800字、1200字など制限を設けると、
大事なところだけを抽出できるだろう。

ただし、リライトの役に立つとは限らない。
全体を見ることは出来るが、
リライトに使いたいのは、
全体と部分の関係がもっと詳しく見れるものだろう。


【ログラインをつくる】

一行であらすじを書く。
かなり本質に迫らないと難しい。
うまくログラインを書けてないときは、
ストーリーそのものが適当な時か、
ログラインを書くのが下手なときだ。

俯瞰するには役に立つが、
リライトにはあまり役に立たないかもね。
「これをこのようにリライトすると、
こういうログラインだったものが、
このようになる」という予測には役に立つ。
本質を残すのか、改訂するのか、
という大きな構造をみるときには良いかもだ。


【ストーリーラインを色分けする】

言葉を読まなければならないと、
図としてよりも文章として認識してしまい、
眺めるのではなく読んでしまう。
これでは図示にならない。
なので言葉を配して、色の糸だけで考えるやりかた。
のちに述べる縦と横のメソッドは、
これを発展させて、
縦の位置と横の位置だけ見ればストーリーを図示できるため、
色を不要にしたやりかただ。


【シーン名だけを抽出して、分数を横に書く方法】

以前論じた。
僕は基本的にこれをずっと使っている。

シーンの前やあとに「今何分か」という分数を書く。
「〇分で〇が起こる」という書き方だと、
そのシーンの何分かまでを調べないといけないが、
「〇分から〇分のこのシーンでは、〇〇が起こる」
という風にだけ調べておけばよいので、
分数を把握しやすいのがよいところ。

また、シーン(柱)の横に、
大事なエピソードや重大な出来事があるなら、
併記しておくと、全体を俯瞰するときに役に立つだろう。
基本的には、
一幕、二幕前半、二幕後半、三幕、と、
4ブロックにわけて書くのが全体を俯瞰しやすい。

また、これに対して、
起伏のグラフを重ねても、分りやすいのであった。

その起伏のターニングポイントが、
ストーリーのターニングポイントであるか、
チェックしやすくなる。
そして、より劇的にするべきか、
それともマイルドにするべきかも、
計算できるに違いない。


ただ、やっぱり「文字を読む」が発生するため、
図を見て、図をいじってストーリーを考える、
には、まだ遠かった。

そこで、縦と横に役割をさだめて、
その位置とその近辺を眺めれば、
図としてストーリーを理解できるもの、
を編み出した。
それが以下のものである。



【縦と横のメソッド】

縦軸と横軸でストーリーを俯瞰する方法。

今回書いた話の例で。
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縦軸には各キャラクターのストーリーラインを書く。
つまり、
主人公青山、ヒロイン千佳、ライバル火野などから見たこのストーリーである。

重要なポイントを押さえ、
それらの起こる順番は、
ストーリーの起こる順番に、上から下に書く。
そのとき、前につくった表から、
その出来事の分数を書き込むとよい。
分数ごとに縦に並べる。
そのキャラの出番がないところは空白になる。

各キャラクターのぶんだけ、この縦のグラフは存在するだろう。
たとえば、
右端に、名脇役である久我原のストーリーラインがある。
根幹に関わってくるほどではないが、
ちょいちょい重要な場面にいぶし銀のように絡んでくることが、
このグラフからわかるだろう。

また、
主人公には複数のストーリーラインがあったりする。
第一に重要なものはメインプロットのストーリーラインだが、
他にラブストーリーや別のストーリーラインがあることがあるだろう。

主人公青山に関しては、
メインプロットと、妻子のラインの二本がある。
ヒロイン千佳に関しても、
青山とのことと、闇の取材という仕事のことの二本がある。

主人公以外も複数のラインを抱えていることがある。
ライバル火野も、自分のラインと薫のラインを抱えている。
それごと、すべて図示できるのがこのメソッドのポイントだ。

さて、これらを横に並べる。
横軸がキャラクター、縦軸が時間や出来事、
というものができよう。

各キャラクターから見て、
ストーリーが縦に同時進行しているような、
表になっているだろう。


そしてここからがキモだ。
あるエピソードでキャラクターAとBが絡んだとしよう。
そういうときに、ABを横線で結ぶのだ。

つまり、このグラフには、
縦にストーリーライン、
横に「絡み」が図示されることになるわけ。

見た目的にはあみだくじみたいな?

時間軸は同時に進む。
絡んだ時だけ横が関係するみたいな。


また、今登場していないときは、
単なる縦線で描かれる。

この間別のことをしてるかもしれないし、
進捗がないかもしれない。
今登場している人たち(表)と、
登場していない人たち(裏)を、
分別できるのだ。


で、重要なエピソード順に、
なるべく太い囲みで囲む。
序列をつけるべきだ。

各幕のラスト、
第一ターニングポイント「とべた」、
ミッドポイント「落下」(かりそめの敗北)、
第二ターニングポイント「吹雪」が、
最重要なポイント。
これに追加して、
冒頭の事故と、ラストの「まだつづきがある」を、
最重要ポイントと考える。

これが背骨になり、
その他重要なエピソードが散りばめられ、
ぶら下がっているイメージだ。

ここほど重要ではないが、
重要なエピソードも、まあまあ太めの枠で囲んで、
目立つようにしておく。

そしてそれらのたびに、
横糸(各キャラクター同士の絡み)があると。



縦軸をくわしく見てみよう。
バックストーリー、
ACT1、ACT2-1、ACT2-2、ACT3
と、5ブロックに分かれている。

バックストーリー、すなわち、
ストーリーが始まる前にあったこと
(それは回想やセリフの中で語られる)は、
各キャラクターの時系列順に並んでいる。
それはそのキャラクターの生きる動機や、
行動する動機になっていることが多い。

ACT1からが三幕構成理論に従って、
ブロックわけしたものだ。
つまりACT1の終わりには第一ターニングポイントが、
ACT2-1の終わりにはミッドポイント(この場合、かりそめの敗北)が、
ACT2-2の終わりには第二ターニングポイントが、
置いてある。


もちろん、真ん中の青山のメインプロットが重要なストーリーラインで、
エピソード数も多く、重要なものばかりなのだが、
それ以外にも、
他のキャラクターのストーリーラインで、
重要な出来事があることがわかる。
(丸で濃く囲んでいるところ)

一枚目でいえば、
W杯チャンピオンに、とか、崖っぷちとか、
ハッとか、つづきがしたいとかは、
メインのラインで起こっていないエピソードだ。
だが、これはストーリーを駆動するうえで、
とても重要なエピソードなのだ。
(詳しくは脚本を見せられないのであれだけど)

逆に、重要なことはどこで起こっているか?
誰絡みのエピソードなのか?をチェックするために、
これはあるわけ。

主人公で起こっているか、
他のキャラで起こり過ぎていて、主人公が退行していないか、
主人公は立っているが、ほかのキャラがご都合の人形になっていないか、
などのバランスを見ることができるわけだね。
もちろん、主人公以外の、
どの重要なエピソードがそのキャラクターの変化の原因になるかもチェックできる。

主人公だけが変化をするのではない。
重要なストーリーであればあるほど、
他の関わった人物も変化するだろう。

それらを各キャラクターのストーリーラインを縦に見ることで、
チェックできるわけだ。



横に走らせたラインが、
各キャラクターの関わりを示している。
主人公青山は、妻の薫を挟んで火野と三角関係に陥っている。
とくに浮気と離婚のポイントで大きく絡むことになる。
複雑な感情があろう。

千佳は前半、青山と関わりまくる。
久我原の登場で、三人のチームになる。

火野との関りが途切れたころ、
51分のパスワード事件で糸が再び結ばれるようになっている。


これらを俯瞰したり、
それぞれのシーンの分数をチェックすることで、
これをこっちに移動したらどうなるか、
これらの順番を入れ替えられないか、
何をどう書き直したら、あとにどういう影響がありそうか、
などを事前にチェックしやすくなるわけ。

たとえば1枚目の右下、45分の「草原」のエピソードは、
第一稿ではここの場所にあったが、
第二稿で37分の場所にあがり、
この第三稿でもとの45分の位置に戻ってきた。

第一稿では別のプロットラインになかなか話が変らず、
飽きるんじゃないかと思って、
第二稿ではそれをインサート扱いで上げたんだけど、
それが集中や感情移入を途切れさせ、
邪魔なインサートに見えたので、
もとの位置に戻した格好だ。

それも、
この表をみれば、
絡みと時間との関係性が可視化できているので、
考えやすいのである。


全体を眺めると、
横の糸は最初限られたところだけを編んでいるが、
後半になるにつれて、
左右全体を渡るようになることが見て取れる。

これは、
全体が混ざったようになり、
バラバラな孤立的複数の人格だったものが、
関係を繰り返すことで、
ひとつの社会になってゆく過程を図示できていると思う。


これらを俯瞰することで、
各エピソードの重要度を整理することができる。


もっとも重要なものは、
メインプロットの、
事故、とべた、長野で落ちる、吹雪、まだつづきがある、
という5つだ。

前半では、
千佳に会う、W杯チャンピオンに、滑り台、崖っぷち、ハッ、つづきがしたい、
などが二番手に重要なエピソードで、
後半では、
黒猫、谷口の死、じゃ触るな、がとても重要なエピソードで、
三幕の、落ちねえかな、言うね、長く続く情熱と言ってくれ、
なんかも相当重要なものだとわかる。

逆に、
「このストーリーは、
これらの要素で構成されたストーリーである」
という風に見れるわけ。

全体を、
縦に尺、横に関係する人物として見れて、
しかもどのキャラクターのエピソードかを視覚化できて、
そのキャラクターから見たストーリーも、
視覚化されているわけ。

なかなか優れた道具ではないだろうか。



各キャラクターのストーリーラインをさばく、
ということを考える時、
順番や因果関係がごちゃごちゃになることがまれによくある。

もちろん、頭の中ではある程度整理されているのだが、
リライトでいろいろ動かすことを考えると、
その「つもり」がぶちぶち切れてしまい、
色んな不都合が起きることが多い。

それらを事前にシミュレーションできる道具として、
この縦と横のメソッドを開発した、
という感じかな。



サブキャラの久我原は、
ストーリーに大きくは関わってきていないが、
「つづきがしたい」と、「男としては叶えて欲しい」
というのが、
結構重要なエピソードであることが分る。

たしかにここは久我原にグッと来るところで、
それがここにいるんだなあ、
と俯瞰できる。
前後に移動した場合、前提や感情の流れが変わるから、
やっぱここだなと確認できる。


これをつくるコツは、
主人公を真ん中に置くことかな。
左右で人物関係をわけて、
右側と左側はあまり関係ない区分にすると、
図がすっきりすると思う。


映画というのは、メインキャラクターは、
多くて5〜6人、というのが僕の経験則だ。
だから、最大でもこの図は横に6人並ぶ程度になるだろう。
(全員にストーリーラインが複数あることもないだろう。
ややこしすぎるからね)

映画よりも長いドラマや小説などでは、
横はかなり広がるかもしれない。
その代わり、
各キャラの縦はそんなに複雑にならないかも。

映画という特別な尺のストーリーが、
この表を要求しているのかもしれない。


エピソードは短く書けるのがよい。
名詞ひとつや、短いセリフがよい。
象徴的でないシーンが重要になることはあまりないだろう。
重要なのに短く書けないならば、
それはうまく書けていない可能性が高い。

また、ちょいちょい小道具を使っているのがポイントだね。
そのシーンを象徴するのを、小道具でやっている。
「ああ、ウンコのシーンね」とか、
「クラッカーのシーンか」とかあると、
覚えやすく象徴的になるからだ。
そういうのもチェックできるよ。


ということで、参考にされたい。
これで俯瞰して、
「うん、これでいい」と確認するのにも使える。

大体15分おきに重要な出来事が起こっているので、
あまり退屈せずに見れるだろうなあ、
というのも計算に入っている。

また、先にこの縦横の曼荼羅を書き、
現状の原稿がこうなっていない、
と理想と現実のギャップを埋めるのにも使える。

活用されたい。
posted by おおおかとしひこ at 07:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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