悪意を考えることは、悪役を考えることだけではなく、
人間について深く考えることである。
悪意には二つある。
純粋な悪意と、ルールを使う悪意だ。
純粋なものはノールールである。
無邪気な悪意と言ってよい。
むき出しだから、分りやすい。
でもむき出しだから、反省もしやすいのかもしれない。
厄介なのは、後者だ。
ルールを使って悪意を隠蔽するやり方だ。
狡猾な悪意と言ってもよいか。
いじめはこれを利用する。
ルールは悲劇を避けるためにあるのだが、
悪用していじめをするために使う。
ルールギリギリであればOKとして、
範囲内だから何も悪いことをしていない、
という風に悪用するわけだ。
ルールは最低限のマナー、という言い方がある。
これ以上は非人間的だからやめようぜ、
と決めた、ということだ。
だから、ルールを守ればOKなのではなく、
どういう運用をするか、が人としてのありかただ。
ルールに抵触しないからといって、
何をしても良いわけではない。
ルールとの付き合い方で、その人の高潔さがわかる、
といってもよい。
悪意は、ルールを悪用してくる。
なぜならば、
「自分は悪くない」と言いたいからだ。
「自分は安全地帯にいたまま、悪意を実行する」のが、
悪意の正体であると言ってもよい。
純粋な悪意ならば、正面切って突撃するかもしれない。
しかし狡猾な悪意は、矢面に立たず、
正面から逃げて、隠れて撃つ。
スナイパーが嫌われるわけだ。
狡猾な悪意とは、
隠れて見つからないところから撃つやつ、
と考えることもできる。
だから、「わるいやつ」を描くときは、
その狡猾さについても考えるべきである。
どのように見つかっていないと思っているのかとか、
どのような理由で言い逃れするのかとか、
ルールをどこまで(わざと)曲解していて、
逃れようとしているかとか、
なぜバレないと思っていたか、とか。
天地公平に誓って何も悪いことをしていない、と思い込んでいるとか。
人間は善か、悪か、という哲学的問いはとりあえずおいておこう。
善と悪がいると話がおもしろくなる、
というのはたしかで、
両極端な人たちの間でこそ、
ストーリーは面白くなるのであった。
だから、善の光を描くには、
悪の闇は深く興味深いほうがいいに決まっている。
だから、おもしろい悪を描くために、
悪意を研究しておくことは、
物語作家としては当然ともいえる立場なのよね。
にもかかわらず、
あんまり悪について、とか、
悪意について、とか、
シナリオ論で議論されることはあまりなかったかも知れないね。
悪はオリジナリティが出るところだからかも。
これまで人生で出会ってきた悪意は、
たくさんあったことだろう。
それを煮詰めて最強の悪にしてもよいし、
なんかイラっとする小悪に仕立て上げてもよい。
リアルな小悪はそれはそれでおもしろいし、
最強の悪党は最強の魅力が出るのではないか。
そのためだけに悪党と繋がる必要はないが、
人には善の面もあれば悪の面もある、
と考えれば、
その人の中のバランス感覚を考えるのに役に立つものだ。
悪100%の人はいなくて、
マフィアのボスでも孫娘を可愛がったりするわけで、
どんな人にもある時は悪で、ある時は善、
というものがあるわけだ。
そのリアルを観察するのも、悪くない。
もちろん、善100%の人もいないので、
その観察も怠ってはいけない。
コンプライアンスがかまびすしく言われて、
少しの瑕疵もゆるさぬ、みたいになっているが、
元来キリストは、罪人に石を投げる者に対して、
「罪のないものだけが石を投げよ」と、
全ての人には原罪がある、と説いた。
そんな混ざった感覚でいいと思うがね。
悪は罪か、というややこしい問題もあるが、
物語で扱うのは、
悪そのものではなく、
具体的な人の悪意、行為であることに注意せよ。
裁くのは作者ではなく、
あくまで別人であるところの主人公である。
正義感や法律ではなくて、
自分の都合で、結果的に裁くことになるだけだと思うんだよな。
原理的な悪と善の戦いではなくて、
悪意のある者が、
別の動機を持つ主人公が目的を果たした結果、
結果的に排除される、
ということだと思う。
だから、あくまで人間対人間の話になるわけだ。
もちろん殺しあって決着をつけてもいいが、
殺しあわないような結末を求める場合、
どのような着地点を用意するかが難しい。
その点、喧嘩両成敗、
というオールマイティを切っていた大岡裁きは思考停止だなあ、
と時々思うわけだ。
その結末すらも、
作者の哲学が出がちだ。
あくまで主人公の人生の結果、
ということに過ぎないことを考えることだ。
思想とは関係なく、
状況による結論に過ぎないだけだぞ。
悪意について考えよう。
それは、主人公が克服するべき障害になる。
敵の悪意、そして自分の中の悪意。
2024年09月10日
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