2024年09月14日

盛り上がりとは何か

成功しそうなパートのこと、
だと思うとよい。


主人公には目的がある。
それを達成するとストーリーはおしまいだ。
それらを幕の終わりで示すと、
ストーリーは進行していると思える。
それが第一ターニングポイント、
第二ターニングポイントだ。
(明示してもよいし、暗示してもよい)

色んな状況で、
それが成功しそうになったり、
失敗しそうになったりする。
完全な成功はラストだけであり、
他は部分的な成功だ。

小成功、小成功、小成功、
と成功だけが続いてもあきてくるので、
失敗というスパイスをはさんで、
揺さぶるとよい。
これによって、
「次も成功するとは限らない。
失敗するかもしれない。
どうしよう。やるしかない」みたいな、
ハラハラを生むことが出来るわけ。

で、「行けそう」「行けるぞ」「このまま上昇気流に乗れ」
という上向きの部分が、
「盛り上がっているところ」と思うとよい。

映画には盛り上がるポイントがいくつかあって、
それらは、派手な絵だったり、
盛り上がる音楽がかかったり、
芝居が大きくなったり明るくなったりする。
テンポも上がったり、
逆にスローでじっくり見せる絵になったりもする。
劇的な絵が多く、気持ちもハイになるものだ。

だが、シナリオは、その根底を捉えなければならない。
ガワを見るのではなく中身を見る。
何が起こっているか、だ。


派手な絵や派手な音楽がかかるのは、
「成功しかかっている」からだ。
「成功が見えてきた」からだ。
「いけそう」だからだ。

「盛り上がってまいりました」という状況は、
センタークエスチョンの答えが見れるのでは?
ということだ。

三幕のクライマックスが、
なぜ盛り上がるかというと、
「大成功して終わるのか?それとも失敗して死ぬのか?」
というセンタークエスチョンに、
答えが出るからである。
ハッピーエンドの作品ならば、
これ以上ない成功によって終わるからだ。

つまり盛り上がりとは、
「答えへの肉薄」の具合ということである。


それをコントロールするのも脚本家だ。
近づいているぞ、近づいているぞ、
という風にあおったり、
近づいたと思ったら残念でしたー、と離してしまったり、
などをやるということだ。

観客を2時間それで翻弄するのが、
脚本家の仕事なのだ。


で、ただ近づいているだけ、ただ遠ざかっているだけだと、
そんな2時間も興味が持つわけがない。

よっぽどそれに興味があるなら別だけど、
(たとえば自分がやっている仕事と同じ仕事の話とか)
その数は少ないと思ったほうがよいだろう。

じゃあ、なぜ観客は2時間の、
近づいたり遠ざかったりを楽しめるのか?
感情移入によるものである。


主人公や、脇の人物や、
ヒロインや、主要登場人物に、
肩入れをしているからである。

彼らの一挙一動に興味があり、
彼らに成功してほしいと思っているからだ。

そうでなければ、2時間の行ったり来たりの振り子には興味が持てない、
つまり、「つまらない」と感じてしまうに違いない。

登場人物たちが、
わが事のようになっていなければ、
どんな盛り上がりも滑るだろう。


つまり、
目的に近づくぞ、残念でしたー遠ざかるぞー、
という揺さぶりは、
感情移入が前提でなければつまらないということだ。
滑っているならば、滑り続けるぞ、ということだ。

だから、
「盛り上げなければ」と焦って、
目的や成功との距離感を測るのは、
悪いことではないが、
それ以前の問題をクリアしているか、
のほうが重要なんだよね。

もし感情移入が微妙であるならば、
それ以前のどこかのそういうシーンを強力にするか、
あるいは途中どこかにインサートシーンをつくり、
そのワンシーンで登場人物に感情移入させるものをつくるべきだ。

ワンシーンで感情移入させるのは、
最初からそれが出来るならやってるわ、
という難易度のレベルだけど、
何もしていないよりマシだと思うよ。


どうやって感情移入させるのかは、
以前にもさんざん書いた。
好きにならせてもよいし、感情移入させてもよい。
感情移入は、
「私はこの人とは違うのだが、
この人と同じ立場に置かれたら、
同じような気持ちになるだろう」
という観客の想像によって働くのである。

あるいは、セーブザキャットテクニックを使ってもよい。
「案外いいやつ」というエピソードをつくるのだ。
(save the catは、子猫を助けるような場面、という意味だ。
不良が空地の捨て猫を拾う場面と似たような意味だね。
別に猫を出さなくても、
この人は思ったよりいい人かもしれない、
という場面であればなんでもよい)

考えていることで示してもよいし、
行為で示してもよい。

その人がいい人かどうか、試すものをぶつけてもよい。

そうすることによって、
「その人のことが少しわかる」
というシーンにするといいだろう。

理想はストーリーの進行と同時にやるのがいいが、
それが出来ないのなら、
せめて感情移入に至るようなエピソードを優先させるのがいいだろう。


もし、その人に興味がわき、
その人の行く末が気になってきたら、
やっとその人の成功や失敗に興味がわき、
いつの間にか夢中になっていて、
盛り上がるところで盛り上がってくれるのだ。
posted by おおおかとしひこ at 08:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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