2024年08月10日

役者のアドリブ

Twitterで見た話。
僕はこれを、セットにあったものを利用した、
役者のアドリブだと思うな。


---引用ここから

『ゴッドファーザー PART II』で、ネバダ州に本拠を移したマイケル・コルレオーネの邸宅の書斎で、地元選出のパット・ギアリー上院議員が賄賂を要求する名シーンがある。ギアリーは笑顔で、机に置かれた飾りの大砲の砲身をゆっくりマイケルに向ける。貴様など潰すのは赤子の手をひねるようなものだと言うように。
僕のお気に入りのギアリーを演じた俳優・G・D・スプラドリンのアドリブだと本で読んだことがあるが、この逸話は眉唾だと思っている。これほどの傑作になると神話が勝手に増えていくので。もしかしたらコッポラが撮影現場で思いつき、スプラドリンと相談したのかもしれない。言えることは、美術の飾り付けが優れていれば、現場で奇蹟が生まれる可能性が高いということだ。

---引用ここまで


役者は常に「芝居の手がかり」を探している。
役作りをしてきてそこに立つんだけど、
そこにあるものと、
ずっと仲良くしてきたのか、
初めて会うのか、などまで考えてその場に立つ。

また、
この場面は座り合って向かい合ったポジションだ。
役者にとっては、何万回もあったシチュエーションで、
飽き飽きしてる撮影のやり方だ。

板付き(ずっと座りっぱ)だと詰まらないから、
途中で立ったり歩いたりしたくなる。
窓の外を見て振り向いて決め台詞、
なんてことも試しただろう。
どこで足を組み替えるか、
どこで飲み物を取るか、
どこで前のめりになり、後ろにふんぞりかえるか、
なども試すだろう。

絵が動かないと退屈だし、
役者は言外の意味をセリフに込めるため、
色んなその場にあるものを利用しようとする。

ファイルや手帳、電話、タバコ、コーヒーカップ、
ウィスキーの氷などは、
よく使われる小道具だ。
手でいじりやすいので、
ニコニコしててもタバコの空き箱を握り潰す、
みたいなことは簡単にやりやすい。

そしておそらく、
そんなことも役者は何回もやってきたはずだ。


新鮮な芝居をするためには、
よくある段取りになるべきではない。

そうしたことを考えた時、
砲台の置物を見つければ、
「使える」と思うだろう。

モノとしてはブックスタンドなのか、
書類が飛ばないための文鎮か。
まあなんでもいい。
砲台の置物を使った芝居なんて滅多になさそうだから、
面白い絵になるぞ、
面白い脅し方になるぞ、
と思ったに違いない。


もちろん、
監督が計画する場合もある。
座り芝居で向かい合ってるだけじゃつまらんなあ、
と思って、
カメラを動きっぱにするとか、
照明を途中で変える、
たとえばブラインドを閉める、開ける、スモークを焚く、
なども考えて、現場にある何かを利用としたのかも知れない。

事務所にありそうで使えるものは…と現場で見つけたか。
あるいは文鎮みたいなもので殴ろうとして、
「もっといいものはないのか」と考えたかだ。
斧型の文鎮、ハンマー型の文鎮、ピストル型の文鎮、
などと考えて美術倉庫にいき、
砲台を見つけたかも知れない。


いずれにせよ、
「その文脈を座り芝居だけでやるのは詰まらん」
が共通の前提だったと思われる。



脚本段階でそこまで考える必要はない。

その代わり、
なぜ脅すのか、脅されてどうなるのか、
それに屈するとどうなるのかが明らかになっていて、
主人公がそれを呑まない選択をすれば、
話は盛り上がるだろう、
などまで考えられている必要がある。

その話を考えるのが脚本家の仕事であり、
細かいディテールは現場で補強していく、
というわけだ。
芝居や演出というのは、文脈の増幅、
欠点の補填をやってるに過ぎないからね。


もちろん、
ダメな監督、ダメな俳優、ダメな美術ならば、
座り芝居でそのまま撮っただろう。
「それじゃあ済まさないぞ」という、
安易に屈しない心が、
現場で火花を散らすのだね。


昔ある俳優とやったときは、
常に芝居のきっかけに使える小道具を探していた。
「台本にあることを守りさえすれば、
あとはどう表現してもいい」
という自由度を十二分に使っていた。

そんなこともある。


幸福な脚本と芝居と演出の関係を知りたかったら、
「詰まらない台本を工夫している現場」
にお邪魔するのが一番良い。
少なくともこれくらいは現場で足し引きできる、
を知ると、
シナリオの役割をその補集合で想像できる。

僕は、シナリオの役割は9割だと思っている。
posted by おおおかとしひこ at 09:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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