2024年08月11日

ほんとの瞬間

ほんとの瞬間はいつも死ぬほど怖いものだから、
とブルーハーツも歌っている。
(「終わらない歌」)

その人が、ほんとうに思うことを他の人に言うことは、
自分の秘密の開示でもある。


人生で本気でやっていることは何か。
ずっと誰にも言わなかった、ほんとうの自分。
これをやれたら死んでもいいこと。
辛かったこと。うれしかったこと。
まだできていないこと。

とにかく、その人の根幹に関わる何か。
その人の命、人生の何か。

そんなことを言うことはとてもつらい。
怖い。否定されたら終わりだ。
だからそれを言うには、かなりの勇気がいる。
それを言わせたほうも責任を負う。
それは重たい関係でもあり、信頼関係でもある。


同じ釜の飯を食った関係は、
そういう関係になりやすい。
しゃべることもなくなったら、
ようやく自分の人生のことをしゃべるだろうからね。
長い関係性の中でしか醸せない関係だろう。


物語の中では、
2つのそうした関係性があり得る。
同じ釜の飯を食うほどに、長いこと一緒にいた人たち。
もうひとつは、初めて会ったのに、
そういうことを言わざるを得ない関係になった人たち。

どちらもドラマチックになりえる。
ラブストーリーは後者になるよね。
出会った男女が信頼して付き合うには、
ほんとうのことを言わないと信用ならない。

もちろん、
ほんとうのことの対比には、嘘、欺き、ごまかし、
などがある。
本当のことを言わないやつは、悪だね。


なんであんた生きてるの?
何を目指しているの?
命と引き換えにしてもいいのは何?

ほんとうのことを言うのはとても怖い。
自分をまるごとさらけ出す怖さだ。
でもそれを秘密として共有しあえば、
とても強い絆になるだろう。



「ツイスターズ」が一見ラブストーリーの形をとっていながら、
結局ラブストーリーとしては完成度が低いことも、
このことと関係していると思う。
主人公は自己開示して自分のほんとうの姿を見せたが、
竜巻カウボーイは見せなかった。
だから二人は愛にはたどり着けなかったと思う。


人間というのは、
お互い様なところがある。
相手がやっていることを自分もやれば信用される。

相手がすっぽんぽんなら自分もすっぽんぽんになるべきなのだ。
男女同士ならばそれがラブになるだろうし、
同性ならばそれが信頼関係になる。

なぜあなたはこれをやるのか?
なぜあなたはこの目的を叶えたいのか?
それがその人のほんとうの瞬間だったら、
観客は感情移入する。

それがリアルに本当らしくないと、
嘘くさくて信用できない。

「はい今から私のほんとうの姿をさらします。
見てください」という場面ではない。
ふとしたときに、ほんとうの姿が見えるものだ。
そのときに、もっと踏み込んで真実を話すか、
隠してしまうかで、
信頼関係の結び方が変わって来るだろう。


もちろん、
何を言うかより何をするかが真実であることもある。
あれをする理由は、このほんとうのことがあるからだ、
と観客も分っていると、燃えるよね。
そしてその失敗に、心から同情するようになる。
最終的な成功を見て、我が事のように喜べるだろう。

その人のほんとうの瞬間は、2つの感情移入をさせる。
ひとつは作中の登場人物に、
もうひとつは観客にだ。


ほんとの瞬間はいつも死ぬほど怖いものだから。
だから、人はそれを見たくなる。
崖下を覗き込みたい心理だ。

それが見世物だと思った方が良い。
posted by おおおかとしひこ at 08:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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