ほんとの瞬間はいつも死ぬほど怖いものだから、
とブルーハーツも歌っている。
(「終わらない歌」)
その人が、ほんとうに思うことを他の人に言うことは、
自分の秘密の開示でもある。
人生で本気でやっていることは何か。
ずっと誰にも言わなかった、ほんとうの自分。
これをやれたら死んでもいいこと。
辛かったこと。うれしかったこと。
まだできていないこと。
とにかく、その人の根幹に関わる何か。
その人の命、人生の何か。
そんなことを言うことはとてもつらい。
怖い。否定されたら終わりだ。
だからそれを言うには、かなりの勇気がいる。
それを言わせたほうも責任を負う。
それは重たい関係でもあり、信頼関係でもある。
同じ釜の飯を食った関係は、
そういう関係になりやすい。
しゃべることもなくなったら、
ようやく自分の人生のことをしゃべるだろうからね。
長い関係性の中でしか醸せない関係だろう。
物語の中では、
2つのそうした関係性があり得る。
同じ釜の飯を食うほどに、長いこと一緒にいた人たち。
もうひとつは、初めて会ったのに、
そういうことを言わざるを得ない関係になった人たち。
どちらもドラマチックになりえる。
ラブストーリーは後者になるよね。
出会った男女が信頼して付き合うには、
ほんとうのことを言わないと信用ならない。
もちろん、
ほんとうのことの対比には、嘘、欺き、ごまかし、
などがある。
本当のことを言わないやつは、悪だね。
なんであんた生きてるの?
何を目指しているの?
命と引き換えにしてもいいのは何?
ほんとうのことを言うのはとても怖い。
自分をまるごとさらけ出す怖さだ。
でもそれを秘密として共有しあえば、
とても強い絆になるだろう。
「ツイスターズ」が一見ラブストーリーの形をとっていながら、
結局ラブストーリーとしては完成度が低いことも、
このことと関係していると思う。
主人公は自己開示して自分のほんとうの姿を見せたが、
竜巻カウボーイは見せなかった。
だから二人は愛にはたどり着けなかったと思う。
人間というのは、
お互い様なところがある。
相手がやっていることを自分もやれば信用される。
相手がすっぽんぽんなら自分もすっぽんぽんになるべきなのだ。
男女同士ならばそれがラブになるだろうし、
同性ならばそれが信頼関係になる。
なぜあなたはこれをやるのか?
なぜあなたはこの目的を叶えたいのか?
それがその人のほんとうの瞬間だったら、
観客は感情移入する。
それがリアルに本当らしくないと、
嘘くさくて信用できない。
「はい今から私のほんとうの姿をさらします。
見てください」という場面ではない。
ふとしたときに、ほんとうの姿が見えるものだ。
そのときに、もっと踏み込んで真実を話すか、
隠してしまうかで、
信頼関係の結び方が変わって来るだろう。
もちろん、
何を言うかより何をするかが真実であることもある。
あれをする理由は、このほんとうのことがあるからだ、
と観客も分っていると、燃えるよね。
そしてその失敗に、心から同情するようになる。
最終的な成功を見て、我が事のように喜べるだろう。
その人のほんとうの瞬間は、2つの感情移入をさせる。
ひとつは作中の登場人物に、
もうひとつは観客にだ。
ほんとの瞬間はいつも死ぬほど怖いものだから。
だから、人はそれを見たくなる。
崖下を覗き込みたい心理だ。
それが見世物だと思った方が良い。
2024年08月11日
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