2024年12月09日

命がかかっているようにする

我々がつくっているものは見世物である。
ぬるいやつよりも、必死でテンションが高いほうがおもしろい。
簡単にそれを実現させるのは、
命がかかっているようにすることだ。


これに失敗したら死ぬ。
相手はこっちを殺そうとしている。
死なないためには、相手を無力化ないし殺す必要がある。
殺すつもりはなかったんだ。
事故とはいえ殺意があった。
負けたほうが追放。
二度と表に顔を出せなくなる。
一族郎党皆殺し。村ごと焼き払う。
集落が全滅した。
何人死んだと思ってるんだ。
泣きながらスイッチを押す。
心臓がバクバクいいながら落ち着けと自分に言い聞かせる。
これで終わりなんだ。終わりにするんだ。
やっと……終わった……これで帰れる……

こんな風な感情が、
命がかかっている場合にはあるだろう。
それは、
ぬるい日常であることよりも、
緊急で、危険で、重大なことだろう。
だから、見世物になるのだ。

脚本には危険が重要であると言われる。
危険が迫らないと人は何も行動しないし、
(締め切りがないと人は仕事をしない)
危険がないとドキドキしないからだ。
どうせやるなら危険があるものにしたほうが、
危険のないものより面白くなるのだ。

その究極が、命がかかるということだ。


あなたの物語の主人公が、
ある目的のために行動したとする。
そして次の具体的な目的、
たとえばこのドアを開ければ、
鍵になる人物が待っているとしよう。
そこで単にドアを開けるのではなく、
急にロシアンルーレットで勝たないとだめ、
と設定したとする。
そこで急にハラハラドキドキするわけだ。
心拍数は上がり、テンションがあがるだろう。

なんでロシアンルーレットやねん、
というのは置いといて、
そういうことである。
失敗した死ぬ、
しかしどうしても俺はこのドアを開けなければならない。
やるしかない、
という流れになると、
話は面白くなるのだ。
究極の自分事になるわけだからね。

逆に、自分事にしろ、ということは、
リスクを負え、ということかもしれないね。

もちろん、急にロシアンルーレットが出てきたら、
なんでやねんとなるから、
ロシアンルーレットではない、
別の命のかかった何かを用意しろ、
ということを言っている。

それがロシアンルーレットより自然で、
面白ければよい、というだけのことだ。
思いついたそれが、
ロシアンルーレットよりつまらないなら、
多分ロシアンルーレットを採用したほうが、
話がおもしろくなるに違いない。



落ちたら死ぬ。
銃を向けられている。
銃が乱射されている中行くしかない。
転んだら大怪我。
3、2、1で二人が飛び出せば、相手は的を絞れないだろう。
これは訓練ではない。

こんな場面はハリウッドでは、
沢山あるに違いない。
命の価値は安い。
だから面白いのだ。
命を簡単に懸けて、
命が簡単に死んでいくから、
面白いのだ。
死ぬから、生きることに価値がある、
ように見えるわけだね。

逆にいうと、命を懸ける行為は、
安易に盛り上げる力になるということだ。
もしあなたのストーリーが、
ロシアンルーレットを導入することで急に面白くなるなら、
命を懸ける行為なみに、
命を懸けずに面白くできていない、
という証拠でもあるわけ。

安易に死ぬ生きるのほうが盛り上がるなら、
あなたはストーリーを練りこんでいない、
というチェックになるわけ。

だからといって、死ぬ生きるを禁じ手にする必要はない。
劇薬だと分って、適量使えばいいだけのこと。


一時期、難病ものが流行ったのは、
簡単に死ぬ生きるを出来て、
アクションとかの金のかかることをしなくてよかったからだ。
別に死の宣告を受けたから、
今からF1レーサーになる、という話でもいいんだけど、
金をかけないという前提と逆だから、
なかっただけのこと。

僕はクライマックスがじゃんけんでも面白くなるように、
その前のつくりを作ってこい、
ということをよく言う。
そのじゃんけんで負けたら死ぬ、
ハイ三本勝負ね、
となったら、急に面白くなるだろうね。
(カイジは大体そういう話だけど)

つまり死と生はスパイスである。
何にもないときに味をつけられるし、
良く煮込んだうまいものの、エッジを立てることができる。

うまいこと使うことだね。


僕が格闘技や武術が好きなのも、
命がかかっているからかもしれない。

負けたら死、というのは人にものすごいアイデアを降らせることがある。
どんな姑息なことをやろうが、
生きたほうが勝ちだから、
難易度が高かろうが、誰もやっていないことだろうが、
思いつくことがあるわけだ。
人類はそうやって変な方向の進化を見つけたのかもしれないね。

それが娯楽になるわけ。
posted by おおおかとしひこ at 09:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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