令和の世にポーの一族だと?
どうかしてるよ。
あれは終わった話じゃないか。
ところがこの続編、前作より面白いまである。
すげえな萩尾望都。
以下ネタバレで。
萩尾望都は、どこかで頭を打った人なんじゃないかと思う。
時間軸を交錯させながら永遠の命の一族の話を書くなんて、
普通考えない。
正編は僕はBL的な所が肌に合わないが、
その構成力だけは舌を巻いた記憶がある。
でもさ、
普通頭を打って書いたような話は一度きりで、
歳を取ったら書けなくなるものだよ。
若さゆえの暴走みたいなものだ。
それを70超えてもやるのかよ。
しかもおもしろい。化け物か。
生ける伝説、まだ現役かよ。
で、
なんでポーの一族が魅力的なのかを考えると、
「取り返しのつかないもの」を、
モチーフとして使ってるからじゃないか、
と思う。
人間の命はもちろん、
人間関係とか、
芸術とか、
戦争とか、
城を焼くとか、
友達になる/ならないとか、
恋する思いとか。
取り返しのつかなかったことがあり、
それを取り返すために悪魔と契約する。
その本質的な部分がぞくりと面白い。
ブランカの絶望感というか、
この先が何もない感じとかがすごく良い。
スミレの刺繍のブラを、ああいう風に使う発想はなかったよ。
「俺は全てを捨てるぞジョジョー!」
と共通の、対極的な、
人の欲と絶望と。
しかしバンパネラになったあとのブランカは、
かつての快活さを失い、
エドガーも特に彼女が好きという感情も失い、
生ける屍のようになっているのが興味深い。
それはバリーとその兄の関係にも現れている。
なんだあの変な塔。
それでアランと友達になれるという感覚の、
ズレた異常さよ。
兄はまだ地下で眠っている。
「壁にかけた斧は使われる」
というチェーホフの名言通り、
彼はいずれ目覚めるのだろう。
その力を使ってアランを復活させるのかね。
まあその辺は楽しみに待つとしよう。
人数を捌くのが特に上手い。
ベネチアの音楽会を小道具として、
緊張する娘を狂言回しとしての、
色んな物語の交錯が素晴らしい。
あと女性漫画家特有の、
「オバサンが悪役」ってのが凄いのよね。
男にはない発想があってさ。
今回の悪役バリーが不細工というのも、
女性漫画家特有のキャラ作りよね。
美形異性は絶対正義の感じね。
もちろん男性作家は、
美形女性を完全な悪役にはつくれないよね。
醜いオヤジを悪役にはできるんだけど。
その感じがとても新鮮。
正編でのBL風味も、
俺が歳を取ったせいか慣れてきたのはデカいな。
アランの無邪気な少年性に聖性を見るのも、
俺たちオッサンが幼女に聖性を見るのと、
同じだと思えばとくに問題もなさそうだ。
というわけで、
キャラクターたちのラインの並行の走らせ方が、
異常に上手いと感じた。
バンパネラになったオッサン(父は死んだと息子役を演じていた人)と、
再会する場面の差し込み加減がすごかったね。
たった2コマをメインラインの中にぶっこむ胆力よ。
ベテランの技術、盗むべきと思った。
ストーリーは根っこにある感情が、
原始的であればあるほど面白い。
そして技巧的に組み立てられてるほど面白い。
「取り返しのつかないこと」
という感情の強さは、
歳を取ってさらに理解があがったのかもしれない。
2024年09月04日
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