2025年01月02日

ヒット率

失敗を恐れる社会になった、
と昔を生きていた人は良く言う。
原因は分からないが、
僕はデジタルの浸透とアンドゥのせいだと思っている。

かつてのヒット率の考え方と、
今のヒット率の考え方の違いを比較したい。


今、作ったものがヒットする確率は、
どれくらいを期待されているだろうか?
100%ヒットするわけではないのはみんな分かっていて、
それを願うのは当たり前だが、
冷静に考えてどれくらいだと思ってるだろう?

製作委員会方式
(=出資者が複数いて資金を出し合い、
儲けを分配する方式)が普及してから、
その要求ヒット率が上がったように思う。

肌感だけど、70%くらいかな。
映画というのは、
制作費の他にPA(宣伝費など)が必要で、
PAは制作費の2倍かかるため、
制作費の3倍儲けてからやっと回収ラインだ。
原価率33%ってことだ。
ここから黒字ラインだから、
儲けを考えれば、
原価率はもっと下がるわけ。
20%?10%?

で、回収ラインに至ったのをヒットと低めに見たとしても、
せめて70%の確率でそこに至りたい、
と投資家は考えるのでは?と思ったわけ。
投資に詳しくない人ほどそう思いがち、
という話をしている。

10本の映画に出資する。
7本は回収して3本は損して、
トータルで得したい、
などのように考えがちでは、という話。

なんなら10本のようなグロスで考えずに、
1本だけ投資するみたいなこともあり、
余計に「損したくない」という気持ちはあるだろう。
製作委員会方式はその都度作って解散だから、
単発投資の人たちが多くなり、
だから「回収スキームは?」なんて、
ヒット前提で話が進んでいることがよくある。

仮にヒット率50%ですよ、ってなったら、
かなりの人がビビって手を引くのではないか。
だから、
かなりの人がビビって手を引いてるのが、
現在地点だと思う。

50%で当たる投資があります、
1億貸して、という博打に手を出さないわけさ。
(玄人なら、かなり分のある博打だと思うかもね)


さて、ところが。

僕がかつて聞いたヒット率の目標は、
2割だった。
3割出せる人はエース、
という話だった。

10本作って2本当てれば会社は回り、
3本当てたら借金返せる、
みたいな感覚だったように思う。


昔の漫画やアニメやTV番組も、
そんな感覚だったように思う。
ハズレを沢山引いて(勿論良さげな弾を用意するのだが)、
その山からヒットを生み出す感覚だったように思う。

僕が長年いるCM業界の空気感も、
ヒット率3割はエースでもいかない、
みたいな認識だった。
だけどいつのまにか、
10割バッターを要求され、
今度はヒットはいらないから10割出塁してくれ、
みたいな感じになりかかっている。

多産多死の世界だったものが、
少産無死になってるわけだ。


少子化も同じことかな。
僕の子供の頃は、
3人兄弟はちょいちょいいて、
親の世代では5〜6人兄弟とか、7〜8人兄弟はいたものだ。
沢山死ぬのが前提だったように思う。

今や2人兄弟や一人っ子や0もいる。
失敗できないプレッシャーが、
全然違うように思う。



「失敗できない」のと、
「成功を目指す」は、似て非なるものだ。

成功するには道をはみ出さなければならない。
失敗しないためには、道からはみ出してはいけない。

道の中で成功するには、過去に道が整備されすぎてて、
新しい組み合わせはもう殆どない。


多産多死を今してるのは、
漫画雑誌と小説かな。
自社投資でなんとかなる業界だけだろう。
あ、YouTubeもそうだね。
オウンリスクでみんなやってるね。

だから多分、成功するには他人の金でやっちゃダメなのよね。
失敗したら死ぬ状況しか、
成功を産まないんじゃないかなー。

すでに成功した人たちが死なないために少産無死をやって、
それでコンテンツが埋まってしまって、
新しい成功がそれを抜けられないのが、
現在の閉塞感を産んでて、
さらに成功した上の人たちがポロポロと死に始めて、
下の世代が育ってない、
というのが現在地点で、
その先上が外資に買われて日本からいなくなり、
下の世代は成功体験がない無草地帯、
みたいなのが未来像かもしれない。


僕はデジタルのアンドゥの感覚のせいだと思っている。
人生取り返しのつかないことばかりの時は、
もっと失敗率が高かった。
だから成功に価値があった。
取り返しがつかないこと、今は殆どないように思えている。
実際は違うのに思っているというズレが、
問題なのではと考えている。

ということで、
みんな中出しして多産多死しろ。



脚本的にいうと、
何本も何本も書くことだね。

僕が新人のころは、
CMの企画打ち合わせには新案10本必ず出せ、
などと言われたものだ。
つまんなくて良くて、1〜2本あたりがあれば良い、
という感覚だった。
今無難な3本くらいしか出ないから、
ヒット率が低いんよな。
無難な3本、攻めた3本、訳のわかんないの3本、
知的な1本、それくらいを毎回出せることだ。
そうしたら何かがスパークする。
考え慣れてるってことは、
そういうのを出し慣れてるってこと。
ここから、1〜2本行けそうなのが出てくる、
というのが僕の肌感覚だけど。

それくらいの多産多死を、いつもやってみることだね。
posted by おおおかとしひこ at 07:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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