2025年01月05日

利害の一致

一人では大きな問題を解決することができない。
だから、物語では必ず味方がいるものだ。

じゃあなぜその人は、主人公の味方になるのだろう?
その理由を考えていないと甘えになる。


主人公が好きだから、という感情的な理由になりがちだ。
あるいは同郷だから、同じクラスだから、
同じ会社だから、身内だから、家族だから、日本人だから、
みたいな、日本的な同族主義になってしまう。
これはある種の甘えである。

そうじゃなくて、
理屈で味方になる、協力する、
というものが描けるようになると、
味方の範囲は広がる。

感情的な理由がなくても協力するからだ。
それが、「利害の一致」だ。


その味方の目的はなんだろう。
主人公の目的とまったく同じか、
微妙に違うのだろう。
あるいは、主人公が失敗すると害が及ぶことになるから、
(半ば仕方なく)主人公の成功をサポートすることになるのだろう。

だから、
「協力してやるぜ」という味方になるシーンで、
観客は納得する必要がある。
ああ、この人の利害が一致しているから、
主人公に協力するのだ、
ということを。

もし金が目的とか、単純に勝つことが目的ならば、
敵方に味方するだろうね。
そうじゃなくて、
主人公の目的が叶うことで、
何かしら自分の目的も叶うから、
協力するんだよね。

そこを創作することが、
その味方を創作するということだ、というのが本題だ。

もちろん、利害の一致と、単に同族だから、
好きだから、などの分量比は色々あって良い。
幼い弟は何も考えず兄に従うこともあるし、
犬は懐いているものだし、
逆に仕事関係は嫌いな人でも有利なら組む。
利害関係が一致するから、と公言ながら実は好き、もある。
人間関係は複雑なほうがおもしろいし、
単純な方が強い。

ビジュアルや能力や口癖など、
その魅力的な協力者について考えることはいいだろう。
でも登場人物を定義するのは目的だ。
その目的が主人公と一致するから、
その人物は主人公とともに行動する。


2人協力者がいれば、
また異なる動機があろう。
3人協力者がいれば、
3人とも異なるべきだ。
だから面白いんだよね。

それらをうまく創作できるか、
リアリティがあり、当然だろうと思えるほどの、
まっとうな理由を創作しているか。
それはその協力者の設定ということだ。

なるべく異なるようにしたほうが、
バラエティが出て面白くなる。
そのバラエティを創作できているか、ということだ。

それを創作していないから、
「なんとなく主人公に協力する」という理由になっていて、
「なんとなく主人公が好きだから」という理由になってしまうわけ。
それがメアリースーにつながるんだね。

彼らは他者である。
それぞれに人生があり、それぞれに優先するべき都合がある。
それを曲げて主人公に協力するわけだから、
自分も得することがないといけないわけだ。

利害の一致というのは、そういうことだ。
もちろん、損して得取る、みたいな動機でもいいよ。
給料は下がるが、道義上、信条上、ここは協力するとかね。


ここに感情も絡んでくるから、
人生は面白いのだ。
最初は利害の一致だけで行動していたが、
感情的に好きになってもいいし、
逆に嫌いになってもいいわけ。
そうすると葛藤が起こる。
(葛藤とは他者間で起こるコンフリクトとは異なり、
その人の心の中で複数のことが矛盾をきたすことだ)

たとえば主人公の親友なのに、
属する民族上敵に回る、
「ベンハー」もある。

決断しなければいけない状況に追い込んだら、
その人は行動することになるだろう。
たとえば裏切るとか、たとえば告白するとか。

人間というのは、
理性と感情で行動する生き物だ。
計算づくの時から感情駄々洩れの時まで、
グラデーションがある。
そのどれの状態なのか、きちんと考えることだね。
もちろん、それは一個の状態ではなく、
何かのきっかけで変化していくことになるだろう。

その基礎条件であることの、
「利害が一致する」を、
うまくつくっておけば、
「それが成立する限り味方でいる」状況が生まれる。
「それがなくなると味方から離れる」状況もつくれて、
その時味方に残る理由が必要になる。

「まあ、もう少しこの先が見たくなってな」
というのは燃える瞬間のひとつだよね。
理性と感情は、バラバラに存在してその人の原動力になるからね。
つまり、理性と感情が別の結論をさすようにつくると、
こういう葛藤状況をつくれるということだね。


利害の一致を、複数通りつくろう。
それぞれの事情を別々のキャラクターに背負わせよう。
そうしたら、彼らはそれぞれの理由でそれぞれの行動をすることになる。

仲間って一枚岩じゃなくてよい。
その事情が描ければ描けるほど、
身内で回しているだけのものから脱せられるね。

呉越同舟は常におもしろいのだ。
posted by おおおかとしひこ at 10:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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