2024年10月12日

「火の鳥」でも読んでる気分(漫画「チ。地球の運動について」評)

リアタイで第一話だけて見て、気にはなってて、
今回アニメ化を知って全巻読んでみた。

いやー面白かった。
こんなパターンとはね。
まるで手塚の「火の鳥」「アドルフに告ぐ」
でも読んでる気分で、大変楽しかった。

構成の妙を漫画で味わう醍醐味よ。

以下ネタバレで。


第一話を読んだ時、
「長く持つ話ではない」と感じた。
地動説vs教会の話だとして、
対決ものになるとしても、
そんなにバトル展開は無理だと感じた。

なので、
同時多発的に起こる、
地動説に気づいた人たちの、
同時に起こった並列的な列伝を想像してたんだよね。

まさか、直結の、
「死んで継いでいく話」になるとは思ってなくて、
まずそこに度肝を抜かれた。


二つ勝利ポイントがある。

ひとつは、各編の主人公を、
ハッピーエンドにする必要がないこと。
このことによって、
科学に殉じた者たちの、
不幸だが幸福を描く深さを得られる。

これは永遠の生命を求めるがゆえに不幸になる、
「火の鳥」と似ている構造だ。

宗教とはなにか、
人の不安につけこむC教から離れた時、
人は何を信じればよいのか、
というテーマに切り込めていて大変良かった。

もう一つは、
地動説(の石の箱、ペンダント)を狂言回しにして、
色々な人たちが「継いでいく」というポイントだ。

本を一旦焼いて記憶だけに残したり、
貧民の坊主に刺青したりなどの、
「形を変えてでも継いでいく」
ことがめちゃくちゃ面白くて、
コペルニクスの師匠に繋がったところで終わる、
という構成が憎すぎる。

詳細は伝達されずとも、
天動説には矛盾があり、
地動説の方がシンプルに観察結果を示せるわけだから、
アイデアの核さえ伝われば、
いつか地動説は説として完成するであろう、
という俯瞰的視点を我々に与えてくれるのが、
大変興奮する。


この作者は科学史でも学んだのだろうか。
でも物語としての面白さもあるからなあ。

悪役ノヴァクが執念を持ってずっといるのもいいよね。
「インドへの道」や「レ・ミゼラブル」なんかを思い出す。
これも成功した要因かも知れない。
どんでん返し=宇宙論の異端者を殺したのは俺だけ、
みたいな悪役の自覚で死んでいくのも、
なかなかに皮肉であった。

娘のくだりもとてもいいよね。
解放戦線のボスになっていた、というのもとてもよい。
(できればその後を見たかったなあ)


ラスト、三人とも空を見て死んでいく、
という美しい一致も良かった。


問題は、最終章に集中する。

最初の主人公、
ラファウが何故か生きてて青年になってて、
アルベルトを導いていくアイデアは、
失敗だったのでは、と思う。

ノヴァクの死の時に「幻」として出てきてしまったから、
話が一周したから、
二回使うのはどうかなーって感じだ。
この切れの悪さによって、
最後のアルベルト編がつまらなく感じる。

告解の相手が、おそらくノヴァクから逃げた新人の一人、
というのも「あとしまつ」っぽくて後付けっぽいし、
何もかも付け足し感が強い。

一つボタンが掛け違えていると思うんだよね。
(ひょっとして付け足したのかな?)


アルベルトに地動説の本が繋がるかも、
というのをノヴァクありきで続けておいて、
ついに繋がらない、しかしノヴァクは死ぬ
(ラファウは幻として出てきても良い)、
というバッドエンドに見せておいて、
しかしなんらかの偶然で地動説のアイデアがアルベルトに繋がり、
「?」で終われば、
完璧な一周だったのではないか。


P国のC教というファンタジーパラレルワールドと、
ポーランドと歴史上の実在人物を、
ラファウが繋いだ、などの解釈をネットで見たが、
しゃらくさいと思う。
物語としてきちんとアンカーのアルベルトに渡せばいいじゃん、
とすら思ったね。

「この物語はフィクションです。」なんだからさ。


ここの傷さえなければ、
近年稀に見る完璧な漫画になったのに、
とても勿体無い。

こういうの、どうやって考えるんだろう。
大体プロットは全部書くんだろうなあ。
そうじゃないと矛盾発生するものね。


生涯をより完璧な天動説の完成に注いで、
なおできなかったピャスト卿が、
ものすごく良かった。
この対比こそが、主題を浮き上がらせる、
極端なコントラストというものである。

人の死と継いでいくことを、
こんなにも面白く描けた漫画は、
そうそうないのではないか。
アニメ化は特に興味はないが、
おもしろいのでぜひ読まれたい。
posted by おおおかとしひこ at 15:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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