2024年11月01日

科学と疑問と人生その2

ついでにTwitterから。

> 高校の物理で万有引力を初めて習ったときに、距離の2乗で割ってるのに密着した机と手がどうして引っ付いたままにならないのか、という私の質問に丁寧に答えてくれた先生は生涯の恩師となった。

これも面白いので考えよう。


答えは、
「厳密に距離は0ではないし、
質量が軽すぎて、重力はとても小さいから」だ。

計算してみようか。


---以下計算---

机の板と手で考える。
それぞれの質量は500gとしよう。
1kgもなく、10gでもないので大体あってる。

距離は?

物体の重心位置で考えよう。
手を密着させても1cmくらいが重心距離だろうか?
(ミクロに原子同士の例をあとで考えよう)


これで二つの間の重力を計算する。

F=6.67×10^-11×0.5×0.5÷(1×10^-2)^2

まず重力定数Gの、10^-11の項に驚く。
めっちゃ小さいやん。
宇宙スケールとはこのことか。

 =1.67×10^-8ニュートン

の力が、机と手の間に発生する。

人間の握力、成人男子の平均50kgf=490ニュートンなので、
握力の10ケタ下の力なわけだ。
1/10じゃないよ。そのさらに9ケタ下。
だから人間の感知できる力ではないね。


質問に絞ると、
「距離の二乗で割ってるのに」
というのはとても良い観点だが、
重力定数が11ケタ下の値なので、6ケタ下の距離が必要だね。
紙一枚が6ケタ下なので、その位置に重心同士が来れば、
1ニュートンくらいになる。
それでも握力490ニュートンからは引き剥がせるだろう。

さて、
では、机表面の原子と、手の表面の原子はどうだろう。
紙一枚よりも密着してね?

原子は原子核と電子に分かれる。
密着とはだから電子軌道同士がぶつかるくらいに考えよう。
この距離くらいになると電磁気力同士で反発しそうだが、
今は無視する。

簡単のために、水素原子で考える。
水素原子の電子軌道の半径は、
0.053nm=0.053×10^-6m=5.3×10^-8m
この2倍が距離になる。有効数字2ケタとして、
1.1×10^-7m。

オッいいじゃん、良さそう。-11を打ち消しそう。

ところが水素原子は軽い。

水素の原子量1なので、これをmol数で割ると、
1個あたり、
1×10^-3÷(6.02×10^23)
=0.17×10^-26
=1.7×10^-25

あー、せっかく距離が縮んだのに、
質量がバカ軽ですな。
ウランでも100の2ケタだから、モルの-23ケタがデカすぎ。

というわけで一応計算すると、

F=6.67×10^-11×(1.7×10^-25)^2÷(1.1×10^-7)^2
=5.5×10^-47

うーん途方もない小さい力。これは手で剥がせる。


というわけで、机と手が「重力で」引っ付くことはない。

車でも精々数トン=3ケタkgだが、
今度はデカくなり距離が空くね。
これを原子くらいに圧縮すれば引っ付きそうだが、
その前に核融合しちゃうぜ。

重力は、
我々の日常世界の質量の桁から見て、
無視できるほど小さいのだ。

なのに我々が落ちるのは重力のせいなので、
地球は我々に対して、あまりにもデカい質量を持ってることになる。
これも計算で出せるので、
応用問題としてやってみ。

じゃあ太陽や木星からの重力は僕らの肉体に影響してる?
これも計算できるのでやってみ。


---計算ここまで---



理論に対して、きちんと検証することだ。
今回の重力でいえば、
我々の日常レベルでは、
地球からの重力以外、無視できるほど小さかった。

この検証による実感こそが、
理論を身にまとうことだと僕は考える。



そしてようやく脚本論に戻るのだが、
この話のオチ、生涯の恩師になったことがだいじ。

とことん疑問に答えてくれたら、
感謝が生まれるし、信頼もされるようになる。

いい質問、鋭い質問は、
先生にとってもいいことだと、
先生をやるとわかるようになる。

自分の教え方に問題があるかをチェックできるからね。
ああ、理論を身にまとってない人は、
こういう誤解をするのだ、
という参考事例にもなる。

それは、初見さんが何を思うかを、
想像する力を養う。
posted by おおおかとしひこ at 10:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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