2024年11月04日

強盗映画というジャンルをはじめて知った(「オーシャンズ11」評)

ケイパー映画、というジャンルがアメリカではあるらしい。
強盗映画と訳されるそうな。

つまり「オーシャンズ11」みたいな、
計画して盗むタイプの映画だ。
ルパン三世みたいなことか。
ということで、未見だった「オーシャンズ11」を今更みてみた。


真ん中にあるプロットとしては、
「カジノの金庫にある何億を一気に頂く」
というものになる。
当然何重にも防衛網が敷かれていて、
これを突破していくのがメインになる。

つまり、障害である。
障害を突破する、という中盤の基本を、
明確につくれるのが強盗映画のいいところだ。

その防衛のやり方をつくり、
それをどう突破するか、
という頭脳戦がメインプロットになるわけだ。
「絶対攻略無理な金庫」対「絶対盗んでやる知恵」という、
ほこたて的な面白さがあるわけだね。
計画を綿密に立てた上で、
小さなトラブルがあるのもお約束。

そして動機は強い。
なんせ成功すれば何億だ。
それ以上に強い動機はあるまい。
ラスベガスのカジノ、しかもボクシングの試合がある、
一番金庫に金があるときを狙って盗むんだから、
最高に動機は強くなる。

そして危険だ。
当然危険がある。
カジノのオーナー、アンディガルシアがやった役は、
ものすごく冷酷なマフィアだった。
焦点の合っていない、どこを見てるか分からない目が怖い。
バレたら彼に殺されるだけでなく、
一族郎党殺されるという、法の外の存在だ。


障害、動機、危険。
この映画の3要素がそろっているから、
面白くなるに決まっている。

あとはどう面白くできるか、が、
強盗映画をどう作るか、ということなんだなあ、
と思った。
しかも集まった11人は、ひと癖もふた癖もある濃いキャラで、
それぞれ特殊能力がある。
それを寄せ集めたチームの面白さもある。
「今回のヤマ」を「こいつらがどう攻略するか」というゲームを楽しめるわけだね。

演出もスタイリッシュだし、
カジノが舞台だからゴージャスな絵になるし、
どんでん返しも備えて、
当代一流が集まってつくった、
巨額の娯楽作品になっていた。


ところが、批評家の評はよくないようだ。
「単なるポップコーンムービー」という評価をされているらしい。
つまり、娯楽としては面白いが、
あとには何も残らない、
ただのアトラクションい映画に過ぎない、
と評価されているらしいのだ。

じゃあ、何が足りないのだろう?
テーマだと思う。
つまり、人生の何を描いているのか、
そのことによって、人生に新しい見方をつくれるのかとか、
映画ならではの人生の光の当て方、
みたいなことが抜け落ちている、
ということだと思う。

まあ、単なる泥棒がデカイゲームに勝つ、
それだけの話だともいえる。
人間ドラマらしいドラマと言えば、
別れた奥さん(ジュリア・ロバーツ)を、
どう取り戻すか、というところしかなかった。

それが人生の何を描いているのか、
といわれても、ただの設定に過ぎないしなあ、
などと思ってしまう。
見ているときはたしかにおもしろいなあ、
と思って見ているのだが、
見終えたあとに何も残らないということは、
これを見て、俺の人生に何ら教訓を残さない、
ことが大きそうだ。


つまり、どんな娯楽ショーでも、
人生のことを描いていないならば、
映画ではないのだ。
もちろん、日本映画みたいな、
しみったれた文学みたいなことをやっても、
映画ではない。

人生のことを描きつつ、
教訓になるような価値を示して、
なおかつ娯楽ショーとして超一流にならなければならないのだ。

映画って難しいね。


脚本的には見るべきものが多く、
とくに中国雑技団の小柄な男をサーカスに視察しにいく場面は、
出色の出来だった。
たった二言しかセリフがなくて、
しかも「アイツじゃダメだろ」から、
急に「アイツしかいない」に変わるという、
極端な二言であった。
絵で見せて説得する、
アメリカ映画ならではのやり方で、
優秀な脚本だなあ、と思ってみていた。

他にも極力セリフが削られ、
研ぎ澄まされたものだけが残っている感じだったので、
そこが技術的に見るべきところが多いなあと。
初見の人がどこまで知っておくべきか、
綿密に考えてある、技術的に優れた脚本だった。

ただし、人生はない、という感じ。

ソダーバーグは昔からあんまり好きじゃないのだが、
今回も好きになれない感じだったなあ。



強盗映画はテンプレに乗っかるだけで、
映画に必要な面白い要素をてんこもりに出来る、
優れたジャンル映画だと思う。
ただ、ガワにおぼれて、
「映画」になれない危険性があるんだな。

ちなみに「現金(げんなま)に体を張れ」
というキューブリックの初期の映画、
かなり面白いのでおすすめです。
これも強盗映画のテンプレをうまく使っている。
こっちのほうが、テーマが善悪や因果応報に落ちていると思うな。
ラストシーンは必見だね。

posted by おおおかとしひこ at 09:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック