ケイパー映画、というジャンルがアメリカではあるらしい。
強盗映画と訳されるそうな。
つまり「オーシャンズ11」みたいな、
計画して盗むタイプの映画だ。
ルパン三世みたいなことか。
ということで、未見だった「オーシャンズ11」を今更みてみた。
真ん中にあるプロットとしては、
「カジノの金庫にある何億を一気に頂く」
というものになる。
当然何重にも防衛網が敷かれていて、
これを突破していくのがメインになる。
つまり、障害である。
障害を突破する、という中盤の基本を、
明確につくれるのが強盗映画のいいところだ。
その防衛のやり方をつくり、
それをどう突破するか、
という頭脳戦がメインプロットになるわけだ。
「絶対攻略無理な金庫」対「絶対盗んでやる知恵」という、
ほこたて的な面白さがあるわけだね。
計画を綿密に立てた上で、
小さなトラブルがあるのもお約束。
そして動機は強い。
なんせ成功すれば何億だ。
それ以上に強い動機はあるまい。
ラスベガスのカジノ、しかもボクシングの試合がある、
一番金庫に金があるときを狙って盗むんだから、
最高に動機は強くなる。
そして危険だ。
当然危険がある。
カジノのオーナー、アンディガルシアがやった役は、
ものすごく冷酷なマフィアだった。
焦点の合っていない、どこを見てるか分からない目が怖い。
バレたら彼に殺されるだけでなく、
一族郎党殺されるという、法の外の存在だ。
障害、動機、危険。
この映画の3要素がそろっているから、
面白くなるに決まっている。
あとはどう面白くできるか、が、
強盗映画をどう作るか、ということなんだなあ、
と思った。
しかも集まった11人は、ひと癖もふた癖もある濃いキャラで、
それぞれ特殊能力がある。
それを寄せ集めたチームの面白さもある。
「今回のヤマ」を「こいつらがどう攻略するか」というゲームを楽しめるわけだね。
演出もスタイリッシュだし、
カジノが舞台だからゴージャスな絵になるし、
どんでん返しも備えて、
当代一流が集まってつくった、
巨額の娯楽作品になっていた。
ところが、批評家の評はよくないようだ。
「単なるポップコーンムービー」という評価をされているらしい。
つまり、娯楽としては面白いが、
あとには何も残らない、
ただのアトラクションい映画に過ぎない、
と評価されているらしいのだ。
じゃあ、何が足りないのだろう?
テーマだと思う。
つまり、人生の何を描いているのか、
そのことによって、人生に新しい見方をつくれるのかとか、
映画ならではの人生の光の当て方、
みたいなことが抜け落ちている、
ということだと思う。
まあ、単なる泥棒がデカイゲームに勝つ、
それだけの話だともいえる。
人間ドラマらしいドラマと言えば、
別れた奥さん(ジュリア・ロバーツ)を、
どう取り戻すか、というところしかなかった。
それが人生の何を描いているのか、
といわれても、ただの設定に過ぎないしなあ、
などと思ってしまう。
見ているときはたしかにおもしろいなあ、
と思って見ているのだが、
見終えたあとに何も残らないということは、
これを見て、俺の人生に何ら教訓を残さない、
ことが大きそうだ。
つまり、どんな娯楽ショーでも、
人生のことを描いていないならば、
映画ではないのだ。
もちろん、日本映画みたいな、
しみったれた文学みたいなことをやっても、
映画ではない。
人生のことを描きつつ、
教訓になるような価値を示して、
なおかつ娯楽ショーとして超一流にならなければならないのだ。
映画って難しいね。
脚本的には見るべきものが多く、
とくに中国雑技団の小柄な男をサーカスに視察しにいく場面は、
出色の出来だった。
たった二言しかセリフがなくて、
しかも「アイツじゃダメだろ」から、
急に「アイツしかいない」に変わるという、
極端な二言であった。
絵で見せて説得する、
アメリカ映画ならではのやり方で、
優秀な脚本だなあ、と思ってみていた。
他にも極力セリフが削られ、
研ぎ澄まされたものだけが残っている感じだったので、
そこが技術的に見るべきところが多いなあと。
初見の人がどこまで知っておくべきか、
綿密に考えてある、技術的に優れた脚本だった。
ただし、人生はない、という感じ。
ソダーバーグは昔からあんまり好きじゃないのだが、
今回も好きになれない感じだったなあ。
強盗映画はテンプレに乗っかるだけで、
映画に必要な面白い要素をてんこもりに出来る、
優れたジャンル映画だと思う。
ただ、ガワにおぼれて、
「映画」になれない危険性があるんだな。
ちなみに「現金(げんなま)に体を張れ」
というキューブリックの初期の映画、
かなり面白いのでおすすめです。
これも強盗映画のテンプレをうまく使っている。
こっちのほうが、テーマが善悪や因果応報に落ちていると思うな。
ラストシーンは必見だね。
2024年11月04日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック