2024年12月06日

【薙刀式】ローマ字から見たカナ配列

JISカナではなくて、カナ系新配列の話。

ローマ字しか知らない人は、
カナ系新配列が大体どんな感じか分からないと思うので、
ざっと俯瞰しておく。


知っておくべきことは、以下だ。

・打鍵数が半分になるわけではなく、大体75%くらいになる
・カナを一発で出せるのが気持ちよい
・数字段を使わないので、大体レイヤード
・なので、半数のメジャーカナ(出現率7割)
 を一発で出せて、マイナーカナ(3割)を
 レイヤーで打つ感じ


・打鍵数が半分になるわけではなく、大体75%くらいになる

「ローマ字は大体2打必要で、
カナは1打でよいので、
打鍵数が半分になる!」
というのは詐欺ないし間違いだ。

ローマ字の打鍵効率、
すなわち「1カナ出すのに必要な統計的な打鍵数」は、
1・7と言われている。
母音、「い」「う」の出現率が多いので、
1打で済むものも多いから、2よりは少し少なくなるのだ。

また、
JISカナ配列ですら、
打鍵効率は1ではなく、1・2だ。

あれ? 全部1打で打てるんじゃないの?
って誤解しているだろう。
たとえば促音「っ」は、
Zの「つ」をシフトキーを押しながら打つ必要があるので、
2打に数える。
小「ゃ」「ゅ」「ょ」も同様に2打。
もっと大きな要素は、
句読点「、」「。」もシフトキーを押す必要があるので、
2打なんだよね。
あと「を」も「わ」のシフト側なのでこれも2打。
さらにいうと濁音は「゛」のあとづけなので2打、
半濁音の「゜」のあとづけで2打。

なんだかんだ蓄積して、1・2くらい。
なんだよ、1打ってデマじゃん。

ということで、
1・2/1・7=70%
くらいにしかならない。
半分を期待するとそんなでもないんだよね。

これは、JISキーボードには46キーしか単打キーがないからで、
カナ全部には絶妙に足りないからだ。

たしかに清音は46だが、
促音「っ」、句読点「、。」、長音「−」が、
カナには必要だ。
これらが足りなくて「−」を単打面に出すために、
「を」はシフトに落ちている。

しかも46キーすべてブラインドタッチで常用することは、
現実的ではない。
右小指の担当が12キー+BSエンターになり、
ものすごい負荷がかかる。
一日中、たとえば8時間使ったら小指折れるわ。

だから、カナ系新配列は、
3段の30キー範囲にカナを入れようとする。
メジャーカナを30キーに入れ、
マイナーカナをシフト側に入れると、
優秀な配列で打鍵効率は1・3くらいになる。

ということで、
1・3/1・7=75%くらいが、
打鍵数の比較である。

「ローマ字に比べて打鍵数が半分になる」
というのは嘘。
「打鍵数が3/4になる」
というのが現実的な話。

でもそれだけでもだいぶ良くなるよ。
体重が3/4になったらすげえよな。
車や体重が少し軽くなるだけでも加速感は変わる。
それが3/4になったと想像されたい。


・カナを一発で出せるのが気持ちよい

カナ配列の一番いい所はここだ。
俳句を17打で書けるのは、
日本人として気持ちいい。
(というか、それが本来の日本語の仕様だろう)

ローマ字は、
キーボードで日本語を打つための方便だとわかっているが、
そのためにこの気持ちよさを犠牲にしているのだ。
それを犠牲にせずに、
本来の日本語で考える気持ちよさ、
本来の日本語を出力する気持ちよさ、
みたいなものに、カナ配列はとても良い。

手が楽になるというよりは、
当たり前に日本語が書けるようになる、
という感覚になる。

いや、ローマ字しか体験していないならば、
その気持ちよさを想像することは難しいかも知れない。
ためしに、
「あいしてる」とローマ字で書いてみると、
aisiteru
と2打鍵、2打鍵×3のリズムになる。
薙刀式なら、
あいしてる
と5打鍵のリズムだ。
この、手の感覚が重要なのだ。

あえてローマ字で
aistrと打ってみたまえ。この感じに近いね。

日本語を「書いている」「言っている」という感覚になる。
方便としてのローマ字から、
本来の日本語に帰って来た感覚になるんだよね。

それを大げさにいうと、
日本語を取り戻した感覚になる。

外国に旅行に行ったときに、
帰りの飛行機で日本語の新聞を見ると、
ああ、帰って来たなあって思うよね。
そんな感覚。
当たり前に日本語である幸せみたいなこと。

手と日本語が一致するだけで、
こんなに幸せなのか、とびっくりするだろう。


・数字段を使わないので、大体レイヤード

数字段を使うカナ配列もなくもないが、
その場合、
中指最上段→中指下段みたいな、
4段前提の段越え移動が発生することがある。

小指下段→小指最上段とか、
薬指下段→小指最上段とか、
人差し指最上段→中指中段とか、
結構無理だと思うなあ。
3段越えだけじゃなくて、2段越えの運指の発生もパターン数が増える。

ローマ字は、
母音→子音、子音→母音、二重母音の組合せだけを考えればいいが、
カナは比較的どんなカナでも連接するので、
悪運指の発生率が高い。

それを考えると、
よほど指の力がない限り4段を自在に連接させることは難しい。
なので3段30キーに収めることがふつうだ。

ということで、
カナの数が足りないのでレイヤードになる。


・なので、半数のメジャーカナ(出現率7割)
 を一発で出せて、マイナーカナ(3割)を
 レイヤーで打つ感じ

レイヤーを自作キーボードで使っている人は、
感覚としてわかると思う。

出現率6〜7割を単打で打ち、
残りはレイヤーで打つ感じだ。
これで打鍵効率が1・3付近になる計算だね。

また、レイヤーの遷移の方法に、
カナ系新配列は色んな工夫をしていて、
それが配列の個性になる。

レイヤー遷移のことを、
昔から「シフト」と称する。
昔はレイヤーという言葉がなく、
シフトキーによるレイヤー遷移にたとえたわけだ。

通常シフト:
あるキーを押している間だけ、
レイヤーに遷移して、離したら元の単打レイヤーに戻る。
スペースキーをシフトキーがわりにする、
センターシフトがよくあるパターン。
薙刀式、新JISが採用している。

同時シフト:
あるキーと単打キーを同時押し
(たとえば100ミリ秒以内に押したら)
でレイヤーのカナになるもの。
通常シフトはシフトキーを先に押さないといけないが、
同時は順番を気にしなくてよいため、
高速で打てることが特徴。

親指2キーを同時シフトキーにした、
親指シフト、飛鳥配列、シン蜂蜜小梅が有名。
また、市販キーボードでは、
親指キーがいい所にないことが多かったため、
文字領域の中指中段をシフトキーにする派閥も出てきた。
下駄配列、新下駄配列など。
薙刀式は人差し指同時を使う。

前置シフト:
あるキーを押したら、
次に来るキーだけシフトがかかるもの。
何も考えずに打てるので高速化できるが、
いちいちシフトキーを押すため打鍵数は増える。
月配列が有名。

「どのキーをシフトキーにするのか」
「どんなシフトタイプにするのか」
で分岐がたくさんあって、
それがカナ系新配列が沢山ある理由だね。


自作キーボードでは、
レイヤーキーはなんとなく親指付近に落ち着いてきたが、
別にそこにする必要はなくて、
文字領域の下段や、
文字領域の中段にしてもいいんだよね。
そんな感じの試行錯誤を、
2000年前後からやって来たのが、
カナ系新配列の流れだ。

僕は2017年あたりから新配列に入門したので、
リアルタイムでカナ系新配列が盛り上がったのを体験していないが、
「日本語を日本語のままキーボードで打つ」
ことの快感を模索していた人たちが沢山いたことに驚いた。

打鍵数という効率もあるけど、
どう頑張ってもレイヤードならばローマ字の70%が限界だ。

それよりも、カナ1打でずんずん書こうぜ、
指の動きをせわしなくしなくてもいいぜ、
というのがカナ系新配列のいい所だ。

薙刀式の動画は時々qwertyローマ字との比較を上げているが、
カナは指の動きが少ないので、
「ゆっくりしか打っていないのに文字が完成している」
という特徴がある。
それに慣れてしまうと、
「ローマ字とはなんとせわしなく、
無駄な動きを繰り返しているのか」と、
無駄に見えてしまうんだよね。

一瞬ならまあどっちの動きでもそう変わりないけど、
長文を書きたいなら、
その差分の蓄積はとんでもないことになる。

小説を本一冊書きたいなら、
10万字は書かないといけないが、
その途方もない字のぶんだけ、
差分は発生するわけだ。
論文でも1万字程度か。

ちなみにこのブログ記事はだいたい2000文字くらいだけど、
大体毎日更新しているので、
トータル数万字じゃすまない分量を僕は書いている。
それはローマ字じゃ無理。
カナだから書けるわけだ。
調子に乗って数記事書くときもあるから、
2日で論文1本くらい書くことはまれによくあるね。

書きたいことがあふれている人に、
カナ配列をおすすめしたい。

あるいは、長期的に楽したい人にもおすすめだ。
1年、2年、3年たてば、
疲労の蓄積は変わってくる。

僕は、ローマ字の指の動きを見ると、
たいへんだなあ、としか思わない。
あんな国に生まれなくてよかった、
と、戦争している不幸な国を見ているのと同じ感覚になる。
かわいそうに、と憐れむのみだ。

自分個人の出来ることは、戦争を止めることではなく、
こっちの国においでよ、平和だよ、
ということだろうね。


もちろん、
カナを覚えることは大変だ。
指が50以上の文字を打てるようになる訓練が必要だ。
しかし、
僕は薙刀式を覚えるほうが、
qwertyローマ字をまともにブラインドタッチできるようになるより、
簡単だと考えている。
それは、運指が合理的で日本語の流れと指の流れがあっているからだ。

ゆっくり書いててもばんばん進むので、
ガーッと書いてもローマ字より疲れない。
そこが大事なところだね。
そして身体のリズムが気持ちよい。
そこも大事なところだ。

不幸な国に生まれた人を馬鹿にはできまい。
彼らは脱出手段がなかったのだ。

よほど愛するなら残ってもよいが、
ローマ字を愛していなくて、
ローマ字のありかたに疑問を持っている人がいれば、
亡命を選択肢に入れることも考えるべきだろう。
幸い、現実の亡命よりも、
カナに入門するのは簡単だ。



あと、心配することが多い人の為に、
以下のことを。

・英語はどうやって打つの?

IMEオンの時にカナ、オフの時に半角アルファベット。
ローマ字からFなんとかで変換するのはあきらめてください。

・記号はどうやって打つの?

カナの場所以外に記号を入れるか、
レイヤーに入れ込む。
薙刀式編集モードの記号部分(左手部分)には、
よく使う記号類がホームポジション近くに置いてある。

・IMEのオンオフの切り替えが全角半角じゃなあ

僕がかなり批判しているのはそこ。
あんなクソみたいな切り替えを使うべきじゃない。
遠すぎるし、今どっちか分からないのはだめだ。

FG同時でIMEオフ、HJ同時でIMEオン、
という「普段は同時押ししない組合せ」で、
IMEをオンオフする方式を薙刀式では採用している。
もちろん親指の英数カナ方式でもよいが、
レイヤーキーとかでよく使うのでね。

・ショートカットとかはどうするの?

CtrlやWinを押している間だけqwertyに戻す、
という設定を組むことが可能です。

・Vimとかどうするの?

IMEオフにしてから使ってください。
エディットモードに入るときに自動的にIMEオフにするようにしたいが、
出来るかどうかは知らないので調べてね。



カナ系新配列をつかうイメージは大体できたかな。
何かを失うわけではないことが分ったかな。
「日本語を書きながらFなんとかで時々英語を挟む」
ことだけが失われるが、
それは原理的に無理なのであきらめてくれ。

練習時間? まあそれは投資だと思ってくれ。
100時間後には、
快適な空間が待っている。
僕の動画を見れば信用できるだろう。


もしあなたが英語をそんなに使わないならば、
カナ系新配列は、
二つの幸福を呼んで来る。
指が楽になる幸福。
そして、日本語を書いているという感覚の幸福だ。

僕はそれが当たり前になってしまったので、
久しぶりにqwertyとか打つと、
指が不幸になるし、
思考が不幸になる。
そんな呪いさっさと解けばいいのに。
呪いにかかっている人は、そのことに気づけないんだろうなあ。

薙刀式と同速度のqwertyを比較した動画でも見て、
僕の主張を再確認されたい。
https://www.youtube.com/watch?v=6VoD6XJ_YWQ
あるいは、ATCでの大西配列と薙刀式の動きを比較すると、
大西配列のほうが打鍵数が多いので指の動きが速いことがわかる。
スコアは大西配列のほうが大きいため参考程度に。
https://www.youtube.com/watch?v=iKSnUOVDimM
14:00 大西配列
48:45 薙刀式


ローマ字配列カタナ式→カナ配列薙刀式へ移った僕は、
もうローマ字に戻ることはないと思う。
それくらいには一打でカナを打てることは快感だ。
ローマ字が無駄をしてるように見えてしまう。
左右母子分離型のローマ字は動線を左右交互に整理するが、
その代わりアルペジオ運指を捨てているので、
カナ配列がアルペジオを活用できてるのも大きいね。
posted by おおおかとしひこ at 11:21| Comment(2) | TrackBack(0) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
漢直を使ってる身としては、
"「日本語を日本語のままキーボードで打つ」ことの快感"
「日本語のまま」を2つにし分類して、
・話し(音韻。かな入力(さらに音っぽくならカタカナ入力かも?))
・書き(見ため。漢直はこっち。)
のどっちが「快感」なのかの割合とか興味あったり。
(人任せ。といっても調査する人いなさそう。仮に調査するとしてもかな入力の人少なくて、漢直はさらに少ない。)
Posted by kamimura at 2024年12月07日 18:14
>kamimuraさん

基本的には「書くときに脳内発声があるか」
で調査できると思っていて、
読むときに脳内発声のない人が3割程度、
書くときに脳内発声のない人が1割程度、
というものは見ました。(大規模ではなく数十人レベル)

これは発達心理学という学問領域だそうです。
もともとは子供の知能の発達を研究する領域ですが、
「そもそも人によって脳内のステータスが異なる」
が認識され始めたばかり、という感じ。

また、日本語だけが世界で特異な言語で、
世界の言語は言語野を使って言語を認識してるんですが、
日本語は視覚野も使ってることが明らかになっています。
漢字を目で理解するのは日本人ならわかるところ。
こちらは言語学、比較言語学の領域のよう。

というわけで、
我々の興味は学問領域を飛び越えたところにあるので、
誰も調査してないというのが実情です。
どこかの大学の先生に相談しに行くしかないかなー。
Posted by おおおかとしひこ at 2024年12月07日 20:06
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック