2025年04月12日

目的が、魅力的であるべきだ

ストーリーの目的は何か?
主人公の目的が解決されることだ。
その大目的が、そもそも魅力的なんだっけ?


僕が好きな大目的は、
「スタンドバイミー」の、
「はるか線路沿いにあるという死体を探しに行く」
というものだ。

そもそも懸賞金がつけられていたんだっけ。
警察が探しているんだっけ。
噂で聞いたから、確かめに行こうぜ、ということだったと思う。
少年たちにとって、
金よりも大事なものは、
「死体への興味」だと思う。
死体を見たことが無いと思うんだよね。この年の子らって。
もちろん葬式でジジイババアの死体は見たことがあるだろうが、
それは御遺体という感じだろう。
それよりもふつうに死んだ人を、
見たことがないと思う。
そのような一種残酷な、しかし現実を、
見に行くという目的は、
とても魅力的だと僕は思ったな。

スティーブンキングはホラーの魔術師だということも含めて、
死体という不気味なものを出してきたのは、
とてもいいと思う。


「悪を討つ」というのは、
普遍的だけど、これだけだと弱いと思う。

もっと特徴のある、
キャラのたった悪を討つ話ならば、
魅力的になるかも知れない。
ナウシカの敵は巨神兵だったり王蟲だったりして、
そこが単なる「悪を討つ」話じゃなかったから、
面白かったんだと思う。

「彼女をゲットする」も普遍的だけど、
それだけだと魅力がない。

こういう彼女をゲットするとか、
こういうシチュエーションで彼女をゲットするとか、
そういう新しさ、興味がないと、
単なる彼女ゲットという目的は、
魅力的に聞えない。

他にも、「何かをどこまでかに届ける」とか、
「〇〇から脱出する」とか、
「ライバルを倒す」とか、
「つぶれそうな部活を勝利させる」とか、
よくあるやつはそれだけで引きは弱くなる。

もちろん、見ている間はまあいいんだよ。
どんな目的だろうと、
ある程度感情移入できてれば、
見続けることは出来るだろうからね。


だけど、
「物語を外から見た時」に、
「おもしろそう」と思える目的のほうが、
引きが強いよ、ということを言おうとしている。

「ナチスの秘宝をめぐって戦う」よりも、
「線路沿いにあるという死体を見に行く話」
という方が、
ぞくっとして面白そうだと思うものね。
2本あったら、僕は後者を見るだろう。
「いつもの目的」じゃないほうが、
新しい物語を期待できるからだ。

つまり、大目的というのは、
宣伝や惹句に使われるものであるということ。
あるいは、企画書の第一ページにも書かれることだろう。
ログラインにも表れるだろう。

「悪を正義が倒す」よりも、
「兄がほんとうに人を殺したか分からないので、
確かめに行く話」
とかのほうが面白そうじゃない?
これは「ゆれる」の目的だけど、
引きだけでいうと強かった。
(実際はおもしろくなかったけど)


つまり、二つやらないといけない。
引きが強く、オリジナリティがある、
大目的Xを発明すること。
そして、
大目的Xを解決する古今東西の話で、
もっともおもしろいバージョンをつくること。

実際には、Xがオリジナルであれば、
もっとも面白い話に自動的になっちゃうけどね。
でもそこで油断せず、
練りまくって、次に誰かがXっぽい話をつくったとしても、
元祖は練ってあるなあ、さすがだなあ、
というくらいに面白くなっている必要がある。
そうでないと、
「失敗作」になるからだ。

「ゆれる」は、
「兄がほんとうに人を殺したか、確かめに行く話」
の中で、もっとも面白かったとは言えない。
だから、もっと面白いバージョンはつくれるやろ、
という突っ込みがある以上、傑作にはなりえないのだ。
Xを思いついた話の中では、わりといいXだったけどねえ。

スタンドバイミーの「死体を見にいく」という目的の中では、
どんな話のバージョンでも、
スタンドバイミー以上に面白くならないんじゃないだろうか。
だからスタンドバイミーは傑作なのだ。


さて。
あなたのストーリーの目的Xはなんだろう?
それは聞いたことのないものかな?
聞いたことのあるものかな?

ある企業のショートフィルムで、
「世界中に『ありがとう』を増やす目的の話」
とか言われて、
「おもしろそう」って思うかい?
そんなものにうんざり、というのが普通の感覚だろ?

ある企業のショートフィルムなのに、
「世界中にうんこを増やす目的の話」
と言われたほうが面白そうだと思うにきまってるじゃんね。

見たことがない目的を考えよう。
「好きな子のため息ばかりを集める」
というファンタジーがあってもいいじゃないか。
「この鉄塔がどこから来ているか、
電線を辿っていく」という目的でもいいじゃないか
(「鉄塔武蔵野線」。結末は微妙)。

どんなものでもいいので、
新しい目的Xを発明しよう。
あるいは、逆の「敵の目的」でもいいぞ。
「世界中のうんこをあつめてうんこボールにして、
東京を壊滅させる」という悪の組織の目的があれば、
それを阻止する話はおもしろそうだよね。
(ガッチャマンは毎回ここが凝ってた)
そういうことだ。

大目的Xが新しくないと、
これまでの名作に勝てない。
「似た話ならば〇〇があり、
そっちのほうがよくできている」
と言われておしまいだ。

「AIに芸能人そっくりの顔と声をつくって、
ポルノをつくる」という目的は、
AIが出来た瞬間ディープフェイクとして広まった。
こういうのを、世界に先駆けて考えてもいいんだぞ。

小説家が犯罪に詳しい、と言われるのは、
こういう悪事を毎日考えているからかもしれないね。


まったく聞いたこともない目的X。
どういう経緯でそうなったのか。
それをクリアすることはどういう意味があるのか。
それを考えて、
しかももっとも面白い話にしよう。

それが、新しい物語をつくる、
ということだと僕は思う。
とんでもない発想から、とんでもない物語をつくるのだ。
posted by おおおかとしひこ at 10:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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