2025年04月22日

世界は、整理整頓を待っている

なぜ物語にはテーマが必要なのか、
という理由は、これのような気がする。


汚い部屋が整理整頓されると感動するよね。
これは本来こうであったのか、と。
汚い資料が整理整頓されると感動するよね。
ぐちゃぐちゃの現実は、
このように整理されるのかと。

つまり、人間は、ごちゃごちゃのカオスが、
ある種の秩序になったときに、
感動が発生するということだ。
数学の問題やパズルの問題を解くときも、
同様の快感があると思う。
格闘技や将棋でも「詰み」に持っていくやり方は、
とても気持ちがよいものだ。

その快感が、物語にもあるということだ。
これまで苦労してやってきたこと、
人間関係や事件の解決などが、
最後にはひとつに整理されると、
気持ちよいのである。
なるほど、これらのごちゃごちゃはこのように整理されるのだ、
となると、快感なのだ。

テーマが必要、というのは語弊がある。
必要だからテーマを置きなさい、
それでまとめなさい、ということではない。
テーマで整理される物語は快感だから、
整理されない物語は人気が出ないぜ、
ということに過ぎないのだ。

ある事件が起きて、感情移入して、
行動があって興奮して、七色の感情が刺激されて、
見事な解決をしたとしても、
つまり一見見事な脚本を書いたとしても、
それがテーマを欠き、単なる事件のひとつでした、
でしかないなら、
満足は半分以下になってしまうだろう。
「これはこのような意味があって、
最初からそのために語られていたのだ!」
となるから、パズルを解いたときのような、
部屋が整理整頓されたときのような、
快感があるわけなのだ。

つまり、テーマとは「作者の言いたいこと」なんてちゃんちゃらおかしいものではなくて、
テーマとはオチの快感要素なのだ。
「あー、このテーマに落ちたのかー、見事!」
という芸なんだよ。

それは、どんな感動するシーンとか、泣けるシーンとか、
笑えるギャグシーンとか、わくわくする冒険シーンよりも、
快感として強い、ということだ。
テーマがはっきりと分り、
2時間かけてきたものが、このように整理される、
という、整理整頓の芸術なのだ、
と思うと、
テーマがなぜ必要か、が分る。
つまりテーマは、最後の最後の快感要素なんだよね。


分りやすいものは、「地下鉄のザジ」だろうか。
単純な映画だ。
小学生の女の子が、
いたずらをしまくって、狂騒曲のような状況になってゆく。
ドリフのコントの連続のようなものだ。
それがどんどんエスカレートして、最後は大爆発するような感じ。

それだけで終わったら、単なるから騒ぎで、
単なるドタバタコメディに過ぎないのだが、
主人公のザジは最後に「ひとつ歳を取ったわ」とオチをつけて終わる。
つまり彼女の子供時代は終わり、
大人になってしまったので、
これまでの大騒ぎは二度と戻らない、
貴重な時間であった、と逆転するんだよね。
この「あー!」と思える瞬間こそが、
「テーマに落とされたときの快感」だと思う。

そして、おそらくだけど、
この快感は、物語にしかないのではないか。

とくに映画は2時間でここまでたどり着かないといけない。
演劇やドラマや漫画はもっと長くてよいだろうが、
2時間で結着をつけて、かつテーマに落とすには、
相当の腕がいると考えられる。

むしろ、映画とは、
ガワで客を呼んでおいて、
テーマで落とす快感を提供する、
フルコースだとも考えられる。
映画がなぜおもしろいかというと、このフルコースの楽しみがあるからだと思う。

教科書には、
「テーマを持った話を書きなさい」
「テーマがないとだめです」と、
原理のように書いてある。
しかし、「なぜテーマがないとだめなのか」を解説している人は見たことがない。

なので、解説してみた。
それが無きゃダメという義務じゃないんだ。
そのオチの快感こそが、物語の快感なのである。

ちなみに、「地下鉄のザジ」で、
そのラストシーンがなくて、
単に大爆発して終わって、「だめだこりゃ」で終わったら、
何も心に残らないだろうね。
いたずら違い、大騒ぎ違いにしかならない。
そうじゃなくて、それが大人になること、
という結びつきこそが、テーマに落ちる快感であり、
それがこの映画のアイデンティティだからね。
(この落ちはこの映画でしか見たことが無い。
一回きりの大ネタだろう)


というわけで、テーマに落とせ。
その快感を見せてくれ。
ちょうど2時間で落とす娯楽だと思うとよい。

世界は整理整頓を待っている。
あなたがあなたなりの整理をしてみせてくれ。
posted by おおおかとしひこ at 08:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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