興味深いツイートを見たので、
考えてみよう。
ベテラン脚本家の安倍照雄氏のツイート。
ここで読みやすいように適宜改行する。
---引用ここから---
それは大袈裟ではなく、定義が定理になった瞬間だった。
それは、『何故、散髪をするのに、
散髪屋に入っていくシーンを書くのか』
という問題だった。
脚本を書く方なら経験があおりだろう。
主人公が散髪をする。
その前に主人公が散髪屋に入っていくシーンを書かれたことが。
理髪師から髪を切ってもらっているシーンがあるのだから、
わざわざ散髪屋に入っていくシーンは無意味だとも思う。
けれど我々は時として、
○散髪屋・表
○○が入っていく。
と書いてしまう。
考えられる理由はなくもない。
インドアのシーンが続くと、アウトの場面から入りたくなる。
そうすれば抑揚がつく気がする。でもそれは編集の役割だ。
我々脚本家の仕事ではない気もする。
監督という生き物は動物的で、
感覚やセンスやリズムを大切にするので、
脚本に書かれていなくても表から入るシーンを撮って入れたり、
脚本に書かれている表のシーンを無視して撮らなかったりする。
我々は現場の人間ではない。
青写真を書く中の人だ。
ならば○○が入っていくと書くためにはなんらかの根拠、
ルールが必要だと思う。
その根拠が、10分前に見つかった気がした。
---引用ここまで---
さて、ではこのルールを考えよう。
安倍さん本人が気づいたルールと違ってもいいと思う。
(ちなみに答えは公表されていない)
なぜ「散髪屋、表」のシーンを書くのか?
書くべきときと書かないべきときの違いはなにか?
自分で考えたまえ。
自分はどんなルールでやってるか?
実はどんなルールが隠れてるだろうか?
以下僕なりの答えを考えてみる。
はいシンキングタイム。
では僕なりの回答を。
散髪屋の中で散髪と違うことが起こる時は、
「散髪屋、表」を書く。
散髪屋の中で散髪だけする時は、
散髪屋の中から始めて良い。
つまり、
「1動詞を2シーンにまたがらせない」というルールだ。
○散髪屋、表から入る
○散髪屋内、髪を切ってもらう
は冗長なのだ。
だから単に「髪を切る」だけならどっちかでよいのだ。
なんなら、
○散髪屋、表、髪を切って出てきた○○
だけでも良いわけさ。
事前ではなく事後で表現するパターンだね。
すごい髪型が変わるなら、
入る前の髪型を示して、出てきた後の髪型を示して、
ビフォーアフターを示すパターンもある。
もし、
○散髪屋、表から入る
シーンがあるならば、
「髪を切ろうとしたのだが○○○が起こる」
が次のシーンで起こるはずだ。
つまり表のシーンは前振りだ。
「髪を切ろうとしたのだが」までを表現する。
実際には、散髪屋の中では別のことが起こる。
どんなストーリーかによるけど、
・火事が起こる
・警察が来る
・近所の○○さんが入院したと聞く
・ハゲが見つかる
・金がないことに気づく
・散髪屋だと思ったら宇宙人のアジトだった
など、「髪を切るつもりだったのだが、別のことが起こる」
はずである。
なぜなら、「1シーンで起こる動詞は1つ(以上)」だからだ。
「2シーン(以上)かけて1つの動詞を表現しない」からだ。
もちろん、とても短いカットを積み重ねて、
「髪を切る」を表現するやり方もある。
散髪屋のクルクル回るやつ。散髪屋の看板。
ハサミのアップ。床に落ちる髪。鏡。
そして出来上がった新しい髪型。
などのようなパターンだ。
だがこれは一つのシークエンスなので1シーン扱いだよね。
(撮影上は2場であるが)
これは「髪を切る」という動詞1つを1シーンで表現してるわけだ。
なので、
もし、「散髪屋、表、入っていく」があるならば、
次のシーンの「散髪屋、中」では、
別の動詞があるはずだ。
別の動詞があるとき、
「散髪しようと思ったのだが」の前振りとして、
散髪屋、表のシーンが必要になる。
もちろん、表のシーンをなしにして、
別のシーンで「ちょっと髪切りに行くわ」
とかで前振ってもよい。
もちろん、絵がわり、
ずっと中のシーンが続いたので外が欲しいとか、
ずっと徹夜のシーンが続いたので、
やっとまともな時間に起きれるという意味がほしいときなど、
必要に応じて「散髪屋、表」が採択されることはある。
でもそれは特別な場合として除外することにしよう。
意味的ルールから考えれば、
「1シーン1(以上)動詞」と考えればわかるのではないか。
動詞を音符のひとつと思おう。
1シーンで音符は1種以上弾く楽譜が脚本だと。
同じ音符を続けたら退屈よね、ということだ。
(意図的に、つまならい日常を表現したいなら、
同じ音符をつづけてフラットを表現することもある)
一回その音が鳴ったら、次のシーンは別の音が鳴るものでしょ、
というだけのことだね。
僕の考えは以上。
2025年01月16日
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