2025年05月20日

主人公は平均的であるべきか

なるべくヘンテコな仲間や敵をつくるには、
どこかでニュートラルな人を入れるとよい。
ボケに対するツッコミと同じで、
ニュートラルな位置が分かってはじめて、
尖っている、変な場所が分るからだ。

さて。そのニュートラルを、主人公にするべきか?
という問題がある。


少年漫画では、比較的ニュートラルな、
尖っていない丸いキャラクターを主人公に据える伝統がある。

周囲の特殊な世界に対して、
読者側のニュートラルな目線を確保しやすいから、
と言えるだろう。
だけどそのことによって、
主人公そのものに魅力がないという問題が発生する。
これは少年漫画の宿痾なのではないかと思う。

ちなみにこれは能以来の伝統ではないかと思っている。
能の面はわざと空白にすることによって、
観客の投影をうながす。
そのとき、面自体に特徴がありすぎると、
投影しにくいという問題が起こるだろう。
だから、投影されるべきものは、
なるべく素直なものがよく、
ニュートラルであるほどノイズがないであろう。

この伝統を意識しているかどうかは知らないが、
少年漫画の主人公はニュートラルな視点で、
読者の普段を投影しやすくなっていると感じる。


ところが、平均的な能力しかないと、
主人公である必要条件、
問題を解決するだけの能力が足りないことになる。

少年漫画の場合は、「誰よりも成長するキャラ」として、
たいていぐんぐん成長していき、最後には最強になる。
これは、少年期の成長の実感と相まって、
少年読者には受け入れられやすい形になっていると言える。
とくに長期連載前提の少年漫画では、
「読者と一緒に成長する」という感覚を得られやすいだろう。


で、映画だ。

2時間しかない。
一緒に成長するには時間が足りない。
だから、「問題解決をできるだけの能力がある人」が、
主人公に選ばれる。

つまり、「平均的な人物は主人公に選ばれない」
ことを覚えておくとよい。

平均的な能力では解決に足りないほどの、
特殊な事件が起こるものだからだ。
もし平均的な人物でも解決できるならば、
それは平凡な事件だということだ。
(おばあさんが道に迷っているとか、
バイトで5万円貯める、とかだ)

映画で起こる事件は特別である。
古今東西で起こった事件よりもさらに奇妙で、
独特の事件が起こるべきだ。
なぜなら、そのほうが面白そうだからだ。
だから、それを解決する主人公は特別な力がある必要がある。

じゃあ、ニュートラルな視点はどこにあるのか。
主人公が特殊だったら、観客の投影は難しくならないのか。
そのときに必要なのが、ワトソン役だ。
ごく普通の視点で、物語を見る、体験する、随伴する人がいると、
ニュートラル、常識ではここ、というのが分りやすくなるわけ。

ワトソン役はレギュラーである必要はない。
そのへんにいるエキストラでもいいわけだ。
爆発事故が起こったとき、
周囲の人はふつうの反応(逃げ惑う)をするだろうが、
主人公だけは爆心地へ走り、連鎖爆発を止める、
などのように、
ニュートラル、常識の範囲の判断は、周囲の人々でも可能である。

エキストラ以上の、端役でもよい。
主人公の行動を止めようとして、「そいつは無茶だ」なんてリアクションする人は、
ニュートラルな視点をもっている、ワトソン役ということだね。
もちろん、ケンシロウの脇にいるバットや、
バットマンの脇にいるロビンのような随伴キャラクターをつくってもよい。

そもそも同じ人がずっとワトソン役をする必要もない。
時にリアクションする人を変えても良い。
また、主人公自身が、
別の人の行動や価値に対して、
「そんなばかな」「それは異常だ」とワトソン役に回っても良い。
あるいは、自分自身を判断しても良い。
「ふつうならこんなことやる奴はいないよな」とね。


こんな風にして、
主人公は平均的ではなく、
「周囲が平均的」なのである。
特別な人を描くには、周囲を平均にすればよい。
そうすると、突出が描けるわけだ。

だけど、主人公はスーパーヒーローであっては面白くない。
どこが弱点があるべきだ。
弱点の存在によって、スーパーヒーローじゃない、
人間的な存在になる。
〇が突出していても、×が苦手、
などの凸凹を、人間として描けばよいわけだ。


主人公が平均的なことが多い少年漫画。
主人公が特殊で凸凹していることが多い映画。
漫画の実写化がうまくいかない理由は、
こういう差異に気付けているか、
ということも影響していると思う。

オレ、フツーの高校生。から始まる映画はほとんどないのだ。
posted by おおおかとしひこ at 07:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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