大量生産時代は終わり、多品種少量生産になった。
同じものをみんなが買うのではなく、
用途や目的や好みに応じた、バラエティの中から選ぶのだと。
そうすると、「刺さる」という売れ方が出てくるようになる。
つまりピンポイントである。
狭いターゲットの狭い心に、
深く刺さればそれは届く、という考え方だ。
当然浅く広くではない。
狭く深くである。
広く好かれる考え方をやめて、
これがたまらん、猛烈に好き、
というファン相手に商売すれば、
細くとも長く安定した商売ができる、
という考え方だ。
モノを売るときにはひょっとしたら正しいかもしれない。
○○向けといったターゲティング、
セグメント化が行われる。
でもこれは、
「物語を売る」商売としては、
間違っていると思う。
人のコミュニケーション性、可塑性を、
無視した考え方だと思うからだ。
一般に顧客のセグメント化とは、
顧客の好みが固定されたものだと考える。
ギザギザした心であると。
その逆のギザギザの形をしているものが、
ピタリとハマるものであり、
それをそれぞれが探しているのだと考える。
本当はその人にビタで合うようなたった一つのものがあれば、
それがベストであろうが、
それはコストがかかるので、
「ある層に共通した好みや心のありよう」を探して、
そのギザギザにハマる何かを開発しようとする。
モテない男たちには、
オレツエーもの、百合ものがいいという風にだ。
これらを二次界隈では、「性癖」といったりする。
性癖は個人によって異なり、
それにピタリと合うものしか合わない、
そして滅多に変わることがなく安定してそれなら売れる、
という意味で、性癖はいいアナロジーだ。
だけど、これらのセグメント化には、
大事な一点が抜けている。
「人は、かわる」という点だ。
もう少しいうと、
「人は本当に深く感動した時、かわる」ということだ。
古くは宗教体験がそうだろう。
一目惚れも宗教体験みたいなものだ。
アイドルに恋して人生を狂わせる人は一定数いる。男も女も。
もう少し知性のレベルを上げると、
説得や理解によって、人は認識や哲学を変容させる。
いずれも、
「これまで見たことのない新しいもの」に触れたときに起こると思う。
旧知のものはすでに分類済みであるから、
それは性癖どまりであろう。
マーケティングで予測でき、セグメント化可能だろう。
そうではない。
新しいものを与えて、変容させるべきだ。
どうやって?
物語が可能なのは、感情移入によって、である。
感情移入とは共感とは異なるのであった。
共感とは、すでに経験した知ってるものについて、
「わかる」と思うことだ。つまり性癖だね。マーケティングできる。
感情移入とはこれと異なる「わかる」だ。
たとえその人とは遠くとも、「その人の気持ちはわかる」だ。
たとえば困難なシチュエーションに落として、
「自分だったらどうするだろう?」と思わせて、
その人が思う気持ちや行動が、
「誰もがそのシチュエーションに陥ったらそうするだろう」
と思わせると、感情移入に至るのであった。
誰もが、「あれは俺と違うが俺だ」と思えば、
感情移入にいたる。
これは、性癖とは異なるものである。
その性癖を持たない人をも巻き込めるのだ。
だから、
よい物語は、誰が見ても引き込まれるのだ。
Aの人とBの人しか引き込まれない、
性癖による分類ではない、
変容の力があるかないかが物語の力なのだ。
さて、これを間違うと、
物語を性癖、共感でマーケティングしてしまう。
誰々向け、○歳向け、などのようにだ。
そのセグメント化をしてしまうことで、
「それ以外の人を排除している」ことに、
マーケターは気づいていないだろう。
愚かな話だ。
物語の本質を知らないまま、物語を分析している。
その際たる間違いが、「刺さる」なんだろうな、
と思う。
どんな人をも変容させ、
深いところに導き、
そして感動させれば、
全員に刺さるだろうに。
特定の人を選択的に刺す物語は、
むしろ簡単ではないか。
そのクラスタの長を連れてくればいい。
だけど、全ての人を感情移入させる物語をつくるのは、
難しい。
だから、今のマーケターはそれを扱う手段を持たない。
角川映画で「いけちゃんとぼく」をつくったとき、
「私たちはこれを宣伝できる手段を持たない」と、
宣伝部が言った時に、
ああ、この人たちは性癖当て嵌めゲームをしてるだけなのだと理解した。
「通常のマーケの型にハマらないものがきたぞ。
これはクリエイティブな宣伝をしなければ」
と思わない人たちに絶望したものだ。
まあ、その人たちは一生刺さるとか言ってればいい。
物語を小売のようにマーケティングして売るには限界がある。
力のある物語を無視することになるからね。
「ああ、これは売り方をどうしようか、ドキドキしてきたぞ」
と袖をまくる人たちと、
映画を作りたいものだ。
2025年06月09日
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