この映画が面白いのは75分しかないこと。
え、今時90分でもない75分ですって?
だからか、普段見慣れない構成をしていて、
いわゆる三幕構成に従ってないことが、
結構新鮮だった。
90分は分からないけど、
少なくとも75分までなら、非三幕構成でも成立することを証明している。
以下ネタバレで分析。
この話のクライマックスはどこだろう?
4対2で抑えて、
最終回で逆転できるかもしれない、
となったところから、
矢野に出番が回ってくるところまでだ。
試合のそのクライマックスに合わせて、
予防接種打っとけよ、もう一回演劇やろうぜ、
あの努力は無駄じゃねえよな矢野、
久住いい音出してんぞーへと、
彼らのわだかまりが昇華していく。
しょうがないですますな、
人生=送りバントとは限らないし、
努力は裏切らないかもしれないし、
でも格上に勝てるわけないし、
でも最後まで声を出していたいし。
その叫び声がクライマックスとして、
逆算でどこが序盤/中盤かを考えると、
特にないのよな。
順番にそれぞれの事情があるだけだからね。
試合の展開で言うと、
矢野が送りバントをして、
みんな送りバントの意味をわかった、
は一つのターニングポイントだけど、
それは真ん中あたりの気がする。
久住と園田が付き合ってることを知るのも、
大きなターニングポイントだけど、
尺でいうと中盤だろう。
つまりこの話の構成は、
三幕構成ではない。
4人のそれぞれを並行してセットアップして、
少しずつ一丸となって応援していくさまに、
スムーズに流れていく構成をとっている。
あえて序盤と中盤を切り分けるとすると、
ツインテが「お茶買ってくる」と一旦はけて、
男女がツーショットになったところ。
だけどそれからがようやく人物の設定だしねえ。
甲子園来てまで補習とか、
久住vsメガネ、メガネと朝日の英語ペア、
朝日とツインテの演劇全国へ行けなかった話、
園田がいるから野球をやめて矢野の下手さを話す、
などのように、
徐々に、徐々に、
話に巻き込んでいく構造になっている。
で、「久住と園田が付き合ってる」と知って、
メガネが倒れそうになるところを、
大きな事件としている。
ハイ設定しました、
ここから第一ターニングポイントです、
中盤の展開入ります、
というのはなくて、
全員が徐々に事情を語っていく構造だ。
だから主人公が存在しないのが、
この話の面白さよね。
もとは高校演劇部の4人のために、
それぞれが均等に主役になるように書いた話だ。
だから、
「問題を解決する主人公を追う」
という視点がなく、
だから俯瞰的な視点で描かれていて、
でもそれぞれの人物の気持ちにフォーカスして、
そして最後みんな大声を出す、
ように徐々に山になっていく構成を取っている。
お茶買ってくる、
トイレ行く、
メガネが貧血で自販機で飲み物買う、
なんてことで出入りをさせて、
2ショットを作り、
自然に状況設定をしていくのが技だ。
この話が展開を迎えるのは、
「しょうがない」でメガネが怒るところだよね。
そこまではずっと状況設定だ。
展開=あとに引けないポイントと考えると、
そこからがようやくお話になる。
それまでは設定だと思う。
もちろん、久住と園田が付き合ってるほうが先だけど、
それは「新しい事実の判明」にすぎず、
登場人物が後に引けなくなったわけではない。
(久住さんのアクエリアスを断るのは小さな決断だ)
つまり、
尺を測ってないので詳しくは不明だけど、
半分くらい設定にかけて、
半分くらい展開とクライマックスにかけている、
ような体感であった。
これは、序破急構造だ。
序:設定
破:それが壊れて戻れなくなる
急:クライマックスを駆け上がる
の三部構成だと考えられる。
元の演劇は60分(高校演劇大会の規定の上限)で、
全国コンテストで優勝したので、
その後再演時に先生を付け加えて75分にしたのだそうだ。
(先生の声ガラガラになる芝居、演劇だと大変そう)
そのことによって全体が間延びしたかもしれないし、
目先が変わってよりよくなったかもしれない。
(久住は役として存在しなくて、
映画版で初めて足された役だそう。
だから「その後」が台本になかったんだな。
一言つけときゃよかったのに)
いずれにせよ、
知っていたはずの世界が音を立てて崩れ、
わだかまりをぶつけ、
叫ぶに至るまでの構成は変わらないはずなので、
元の脚本も序破急構造であったことは想像に難くない。
三幕構成理論は、
ハリウッドで磨かれた、2時間の映画をどう尺調整するか、
という方法論だ。
75分を三幕構成したら、
一幕19分、二幕37分、三幕19分、
みたいなことになろう。
それはそれぞれが短すぎて、
物足りなくなってしまうと思う。
ラストの社会人後だけで5分はあっただろうし。
主人公は一人ではなく、この四人の群像劇、
ということを想定しても、
三幕構成を取らなかったことは、
このストーリーにとって英断であった。
なんでもかんでも三幕構成、
なんでもかんでもBS2、
という風潮に飽きた時、
こんなものを見て、認識をリフレッシュするのは良いことだ。
三幕構成に従うから名作になるのではない。
名作には三幕構成に従ってるものが「多い」だけのことで、
非三幕構成の名作だって世の中にある。
現場演出はあれでよかったのか、
少し気になるポイントがある。
まあ低予算だからしょうがないんだけど、
吹奏楽部のカットが全晴れで、
4人のシーンがほとんど曇りなのが気になるんだよね。
調べると5日で撮ったらしいから、
しょうがないのはわかるんだけど、
もう少しなんとかならんかったのかねえ。
(後方の電灯がついちゃってるカットもいくつかあって、
あー撮りきれなかったのねーと同情はするが、
観客としては厳しく取りたい)
自販機前の裏側を使ったのは絵的にもよくて、
裏設定的な所へ視点を飛ばせたのはよくて、
でもメガネが「トイレ」と嘘をついて、
久住さんの助けを断るカットで、
後ろに女子便所映すのはやりすぎじゃね?と思った。
とくに映さなくてもいいのにと思っていた。
あと久住さんの芝居ね。
きれいに音出してるのかもしれないけど、
「音出して!」って切れるわりに、
最後の演奏がきれいなほっぺの形なんよな。
もっとメチャクチャ必死になれよって突っ込んでしまう。
train trainはそんなお行儀のいい曲じゃねえだろ。
音が外れても大音量出せよな。
そのへんの、
「足された部分」と思われるところが、
全部雑なのが気になった。
5日しか借りられない(たぶん月〜金)、
という事情もわかるけど、
なんとかなんなかったのかなー。
エキストラの芝居が一定すぎて、
試合展開と一致してない感じも気になった。
主人公の3人の女子は、
野球に詳しくないから、
周りの雰囲気から試合展開を推測してる設定なので、
もうちょっと起伏つけてもいいでしょ。
野球部の補欠で応援に回ってるやつの中で、
一人だけ頑張ってるやつがいて、
お前はちゃんと芝居してるなと思ったけど。
せめて現場で、ガヤを小中大三種類撮っとけば、
ダビングで調整できたものを。
最終回はもっと悲愴なトーンの応援になるでしょ。
わざわざみんな埼玉から来てるんだから。
そのへんの丁寧さが抜けてると思ったな。
まあ、脚本がおもしろいから、
欠点はチャラかもだけど、
この辺が演劇のリアリティラインよりも、
実写のリアリティラインが細かいってことだと思う。
2025年03月15日
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