2025年03月18日

【薙刀式】どうやってここまで来たか

キーボード沼、配列沼へどうやってはまって、
ここまで来たか。

先日の沼の話が面白かったので、
長々と自分語りをしてみる。


元々はMac使い。
映像屋さんなので。

でも脚本を書くときに、ことえりだと頭が悪すぎて、
脚本書く時だけ会社のWindowsで、
word+MS-IME+メンブレン109キーボードを使っていた。
もちろん、
qwertyローマ字のサイトメソッドであった。

これで不自由を感じてなかったのは、
大した量を書かなかったからだと思う。
Windowsが会社にあったのは、
精算のシステムがMacに対応してなかったため。
だからそのWindowsで脚本書いてたのは、
僕くらいのものだった。

で、会社のデスクトップが廃止されて、
Windowsノートが支給される。Dellかな。
こいつのキーボードが絶望的だったことが、
僕のキーボードへの疑問の始まり。


BSキーが0.75Uだったのよね。



右端が足りなくて、なぜかそのキーで調整してるという。

すんげえ使いにくい。
しかもその左の\キーは1Uで(なんでやねん)、
BS連打するときに誤って\\を連打すると、
MS-IMEの設定でパス入力と認識して、
IMEが自動オフになるオプションがついてた。
(あとで知ってオフにするまで何年もかかった。
パスを知らなかったからだ)

つまり0.75UのBS連打をミスすると、
IMEをオンにし直して、かつ\\\と誤打を消す、
という仕打ちを毎回みじめに受けていた。


これはおかしい。
人の使うシステムではない。


プログラムで動いてるのだから、
BSキーと\を論理的に交換することくらいできるだろ。
ついでに、もっと近い位置にBSキーを持ってこれるだろ。
ついでに、アルファベットの位置も変えられるはずだ。

そう思って、「キーの位置 交換 プログラム」などで最初ググったと思う。
それで窓使いの憂鬱とか、AutoHotKeyでバインド変えてる人の話とか、
keyhacなどを知る。
この時はまだキー配列をいじる、
論理配列界隈があることすら知らなかった。


そのノートPCで書いた原稿は一本しかなかった。
インストール禁止と言われてたので、
自分のWindowsを買おうとSurface 3を近所のコジマで買う。
蓋になる純正キーボードが気に食わなかったので買わずに、
別付で、かつてのデスクトップのような109キーボードと、
モバイル用にパンタグラフの二つを買った。

そうか、備え付けのキーボードではなく、
世の中に売ってるすべてのキーボードは、
このマシンに接続して良いのだ、と知った。
BSキーはもちろんデカかった。

ここで一旦物理キーボードに満足したので、
qwertyローマ字のサイトメソッドをやめて、
ブラインドタッチを練習しようと思う。
で気づくのだ。「一番使うAが小指って変じゃね?」と。

そして右小指のエンターBSも変だと思った。
ついでにカーソルもしょっちゅう変換に使うのに、
これをブラインドタッチで出来るわけがないと思った。
(みんなこれどうしてんだ? いまだにわからん。
カーソルを目で見て使うのはブラインドタッチではないのでは?
そしてブラインドタッチできても遠すぎでは?)


というわけで、
BS、アルファベット、エンター、カーソル、シフトの、
最低限変換から確定までに必要なキーの位置を、
ごく近くに動かそうと思った。
DvorakJが当時最新の配列エミュレータだったので、
それをダウンロード。

真ん中にカーソル、BS、エンターを持ってくる。
とくにBSとエンターは右人差し指で使う前提。

右手に母音(人差し指にAだろ常考)、
左手に子音。

SandS(スペースとシフトを兼ねる)
というアイデアを気に入ってたので、
SandSで濁音化すれば4キーいらんわとなる。
僕は日本語ローマ字を使うつもりだから、
英字はqwertyのまんまでいいやと割り切る。
どうせショートカットも沢山使うし。

パンタグラフのキーはバキッとやると外れることを知ったので、
それをバキバキと入れ替えて配列を考えていた。
印字の合わないやつは紙やすりで削ってマジックで書く。
どうせ2000円のキーボード、
試行錯誤が終わったらもう一個新品を買えばいいと思ってた。

で、できたのが、ローマ字配列カタナ式。
名前の由来は子音でよく使うKTNが左人差し指にあることから。
もちろん、書き手の武器としての意味もある。

ガンガン使い込んでどんどん改良して、
全部でv8くらいまで作ったっけ。

文字配列だけでなく、
エンター、BS、カーソル、シフトアンドスペースこみの、
変換から確定までをカバーする配列であった。

これはいまだに名作だと思っている。
ローマ字特有の打鍵数に我慢ならず、
カナ配列に移行するまでは、
完璧だといまだに思う。



同時に、
「他にもこういうことしてるやつがいるはずだ。
もっといい方法を知ろう」と思い、
「キーボード配列」「論理配列」「新配列」などのキーワードを知り、
2chの「よろしければ配列について教えろ」に辿り着く。
まだTwitter前夜。2chが情報交換のメインだった。

そこで無数のローマ字配列、カナ配列を知る。

名作配列については単独スレッドもあった。
月配列、親指シフト(これだけは聞いたことがあった)、
新JIS、下駄配列、新下駄配列、飛鳥配列、蜂蜜小梅配列(当時)。
さまざまな論客も知る。
それぞれのブログも読み込む。
カナ配列のことは当時はよくわかってなかったけど、
どうやら連接というものがあることはわかった。

当時ローマ字配列、左右分離で、
二重母音と拗音くらいしか、
連接まで考えられてなかったのでは。

でも僕は、一個飛ばしの母音同士、子音同士で、
指がアルペジオになるように、
カタナ式を調整していた。
(左小指薬指、右小指不使用だったので、
使う指が決まってたからもあると思う)


つまり僕は、論理配列が先立ってあった。

このあたりでHHKBを知る。
「キーボード沼のゴールはHHKBなのだから、
最初からHHKBを買えばいいのだ」を信じて、
触ったこともない(展示品がなかった)3.5万円をAmazonで買う。
ちなみにこれが僕のAmazonデビュー。
こんなに通販が揃ってない、
まだAmazonで本を買うくらいにしか思われてない時代の話。

HHKBの感動は当時のブログにも書いたと思う。
軽い、羽の生えたような、田んぼに足の指を突っ込むごとき気持ちよさ、
などなど。

でもエルゴじゃないよね、と思う。
初日にスペースキーの逆付を思いついたし、
キーの高さを変えたくなり、R1〜4でキーの高さが違うことを知り、
カタナ式の範囲で欲しい高さに変えた。
擬似テンティングだったと思う。


そうこうしてるうちに、
「45g重くね?」と気づく。
もっと軽くてもよくね?と。
で静電容量無接点かつ35gのNiZを買い、これでエンドゲームと思われた。

そして35gでも打鍵数が多いと辛いとわかり、
カナ配列も触ってみようと、
下駄配列、親指シフト、飛鳥配列(最終版と中興版)、
新下駄配列、新JIS、JISカナを触る。
Vortex Core赤軸(45g)+下駄配列でエンドゲームにしても良かった。
Magic Force(35g)+飛鳥配列でエンドゲームにしても良かった。

この時、
「カナ配列だと脳内発声がない、
ローマ字配列だと脳内発声がある、
手書きは脳内発声がない」ことに気づく。

なんだ、手書きに対して、キーボードがいまいちだったのは、
脳内発声があったからだ、ないカナ配列を使うべきだ、
と自覚した。

で、ある日銭湯で「ある」「ない」「する」のアルペジオを思いつき、
カナ配列薙刀式が爆誕する。



そこで転機がやってくる。
似たようなことを考えてる人がいるはずだ、
と単独参加したHHKBミートアップで、
自作キーボードを触ってしまったのだ。

(「30gのHHKBは出ないんですか?」と公式に質問したのは僕だ。
「出ません」と明言され、僕はHHKBを捨てる覚悟をした)

サリチル酸さんをはじめとする、
初期のコアメンバーが乗り込んでいた。
「バネを変えれば30gになるよ」「15gまで軽く出来るよ」と知る。
まだ遊舎工房はない。
通販のみで半田付け必須はちょっと無理。やったことなかったし。

僕が初めて自キイベントに参加したのは、
「忘年キー」。
サリチル酸さんが、待ってる時間僕に話しかけて来てくれたことを覚えてる。
単なる陽キャヲタクかと思いきや、
あの人あらゆるイベントで、新顔の人に必ず話しかけてるんだよね。
そういう徳を積まなきゃな、と、密かにサリチル酸さんを尊敬している。

薙刀式を発表してびあっこさんとEucalyn配列の話をしたことを覚えている。
親指に削ったヒノキを貼ったNiZを持ち込んだ。
すでにAliExpressで無刻印OEMキーキャップを買って、
高さの異なるキーキャップでテンティングしてた。
ゆかりさんがLime40の試作を持ってきてて、
3Dキーボードを初めて触った。

ここでMiniAxeに出会ってしまう。
36キー、薙刀式にぴったりの少なさ、
格子配列でついにロウスタッガードとおさらばできる、
左右分割大歓迎。
これを作りたい。
「大人は道具に金をかけて時間を買うのだ」と言われて、
散財への道に入る。


翌新年、遊舎工房オープン2日目に行く。
(初日はマニアで溢れるから初心者の僕は遠慮したのだ)
そこにあったchocのテスター、12g〜60gまで変えたやつを、
僕はずっと触ってた。20gのスイッチが欲しいと思う。
まだあのスペース内にはんだブースがあった時だ。
僕はそこで半田付けを初めて肉眼で見た。
これをやるのだとしばらく観察する。
YouTubeより生を見るのが一番ですよ。

で、
練習用のmeishiとMiniAxeを買い、
以降はずぶずぶ。



3DキーキャップのためにBlenderを始めて、
同時にスイッチ沼にはまる。
ケースも木工でつくったり、3Dプリントでつくったり。
打鍵姿勢も大事だろと色んなギアをつくっては次を考えている。

Zeal PC Pearlioのウムピエの衝撃は忘れられないね。
あそこから打鍵感沼にいる。
軽いバネだとどうしても打鍵感が安っぽい。
「底に真鍮ブロックを敷く」という技法を思いついて以来、
真鍮の響きが好きになり、
それを色々工夫中。


論理配列の薙刀式は、
粛々とバージョンアップを重ねる。

もともと小説を書き出すためにカタナ式を作った。
だけど江戸川乱歩賞の10万字を書くには、
HHKB+カタナ式ではきつかった。
第二章から薙刀式で書いたことを覚えている。
(惜しくも三次通過どまりでした)

小説チャレンジはしばらくやってたけど、
やっぱ脚本が本業だな、
小説と脚本はちゃうわ、などと思い直して、
今は城戸賞チャレンジをやりながら、
仕事の脚本は別にやってる感じかな。



カタナ式も薙刀式も、
アルペジオで動線を整理することや、
機能キーが文字配列中にあり、機能と文字は等価であることや、
編集モードを持ち、ホームポジションを崩さないまま、
ショートカットや編集ができることは、
同じ設計思想の元にいる。

だからカタナと薙刀のような、武器繋がりにネーミングしてる。
短い範囲で強い刀と、長い範囲で強い薙刀、
みたいなことだね。




あのクソみたいな0.75UのBSキーがなければ、
僕はまだシコシコとqwertyローマ字を打って、
生産性がクソだったかもしれない。

あの牢獄から独力で脱出できたのは、
ひとえに怒りだろう。

「これが最善の文房具なわけがない」
「頭のいいやつが作った道具ではない」
と思うから、
「頭のいい俺がつくってやんよ」と作ったのだ。
(僕のIQなんて135くらいのメンサ境界レベルだと思う。
大西さんには全然届かないすよ)


あとは僕の膨大な表現の経験だけが、
薙刀式+自作キーボードの根拠だ。
絵描きが自分で筆や絵の具をつくるのと同じだね。

僕の文章活動に足る道具がないから、
自分で作るしかなかった、
というのが最大の動機。


薙刀式の右人差し指ホームは「あ」という、
第一のカナである。これは意味的なこだわり。
最初の音は最初の指であるべきだという哲学だ。

書くこととペアになるように、
一つ上のキー(qwertyのU位置)にBSがある。
書くことと消すことは表現の基本だという、
哲学がここに込められている。

ペンと消しゴムを、右手人差し指で使えるようにしたことが、
僕の道具の基本だと考える。


端っこの0.75UのBSキーは、もうどこにもいない。
posted by おおおかとしひこ at 16:30| Comment(6) | TrackBack(0) | カタナ式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
> (「30gのHHKBは出ないんですか?」と公式に質問したのは僕だ。
「出ません」と明言され、僕はHHKBを捨てる覚悟をした)

翌年「考え直しちゃくれませんか」をやって同じ道を辿ったのが僕ですね。そうか、あれは大岡さんだったのか
Posted by ラクダエン at 2025年03月18日 18:09
>ラクダエンさん

似た気ちがいがいる笑
部品としてはシリコンシート一個変えるだけじゃんねえ。
安定したファームが難しいとEC自作してた人が言ってたような。
Posted by おおおかとしひこ at 2025年03月18日 18:30
自作にたどり着いたのが少し羨ましかったり。
私は自作にたどり着く前に、いろいろあってkinesisにたどり着いて、自作界隈少し覗いてみたらkinesisのようなお椀型はあまりみかけないという。
もちろん「自作」っていうくらいだから出来るんだろうけど大変そう。
(なので、一般的なJISキーボードでもk-code(漢直)を使えるようにしつつ、今持ってるのが壊れない、親指シフトキーボードみたいにkinesisの販売が終わらないことを願うのみという…)
Posted by kamimura at 2025年03月18日 22:03
「30gのHHKBは出ないんですか?」→「出ません」
「考え直しちゃくれませんか」→「出ません」

Professional後継には分割型、高剛性アルミフレーム、押下圧30gの採用を期待していたので残念です。
Posted by Madanai at 2025年03月18日 22:15
>kamimuraさん

お椀型は初期にはたくさんありましたよ。
colosseum 60などが名作です。
ただしオール空中配線の、
工作的には化け物クラスなので、
平面PCB中心の自キからは外れた位置にありました。
フレキ基板が気軽に印刷できなかったことも大きいですね。
僕はお椀型(凹)は間違いだと思っていて、
逆の凸型をここ一年位使っています。
Posted by おおおかとしひこ at 2025年03月18日 22:34
>Madanaiさん

リアルフォース(30、45とも)に鉄板が入ってるのは、
静電誘導の精度を上げるためのパーツだ、
と聞いたことがあるので、
モビリティと相性が悪いという話は聞いたことあります。
まあ、今や東プレスイッチより気持ちいいスイッチを毎日触ってるので、
HHKBに優位点が見出せないです。
Posted by おおおかとしひこ at 2025年03月18日 22:37
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