2025年07月02日

自分より10歳年下に人生のコツを教えるとしたら

何を教える?
テーマのつくり方について。


ストーリーづくりの初心者は、
「テーマ」というと、難しいことを選びがちになる。
人生とは、愛とは、世界平和はどのようにしてできるのか、
差別をなくす方法はないのか、いじめがなくなる方法は。
などのようにだ。

それは「答えを持たない問い」であることがとても多い。

なぜなら、自分でも答えを持っていないものに関心があり、
何かをしたい、というときに、
その関心をテーマに選ぶ、ということは無意識の流れとしては理解できる。
モテるためには、というテーマを思春期が書きたいのと同じだ。


さて。
ストーリーというのは、答えを出さなければテーマにならない。
なぜなら、「○○とは○○だ」が結論だからだ。
ストーリーとは、その答えにたどりつくまでの道筋のことをいう。

「人生とは」では答えを持たない。
「人生とはくそ袋のようなものである」でもいいし、
「人生とは多少生きる価値があるものだ」でもよい。

答えを物語の中で出すことが、テーマを決めるということだ。
(答えのない物語は物語ではない。モヤモヤしておわりだ。
僕がよくあげるその例が、
「マルホランドドライブ」と「ゾディアック」だ。
これを見てすっきりした―という人は頭がおかしい)


で、「人生とは」で始まる答えは、
共通のものはないと思う。
「人生とは〇〇である」という主張は、
どこまで行っても個人の主張であり、
全人類に共通する答えになるわけではない。

だから、プロの書くストーリーには「人生とは」はない。
解けない問い、答えのない問いは、
テーマにならないのだ。

だから、
テーマとして選ぶべきは、
「答えがあり、その答えが比較的妥当なもの」に限る。

前にもあげたが「人生とは一杯のビールである」は、
誰もがうなづくテーマになると思う。
「仕事あけのビールはうまい。
仕事をして誰かに感謝されて、
その報酬として飲むうまいビールは、
人生の喜びそのものである」
という風な物語は、みんな共感するだろう。
共感しない人にも、
このように感情を誘導することは可能だろう。
(感情移入は共感しない人にもさせることができる)

で、
そんなテーマをうまく見つけることが、
物語のテーマになるんだけど、
そうそういい塩梅のテーマを見つけることは、
初心者には難しい。

だから「10歳年下に人生のコツを教えるとしたら」
というのは書きやすいものになるんじゃないか、
と思ったのだ。

たとえば、
「やらない後悔よりやって後悔したほうが納得する」とか、
「私と仕事とどっちが大事なのと言われたら、
抱きしめて、お前だよ、寂しくさせてごめんねといえ」とか。
「若いときは遊びまくれ。その時にまなんだことは大きい」とか。

なんでもいいんだ。
あなたが人生の真実だと思ってることを、
短い格言のようにしてよい。
別にあなたがほんとうだと思っていないことでもいいよ。

作者の信条と物語のテーマは矛盾しててもよい。
キリスト教でも仏教の話は書ける。
物語とは嘘なのだから。


それは、絶対的な真実ではないだろうが、
その文脈があれば、たしかに真実かもしれない、
というレベルのものでよい。

物語は科学のように絶対的真実を明らかにするものではない。
もっと相対的な真実だと思うし、
そもそも明らかにするのではなくて、
その答えをその物語で証明するにすぎない。


僕の好きな大先輩、城戸さんの話をしよう。

先輩の木村さんが一年目に、
当時二年目の城戸さんに、
「木村、お前撮影現場で一番大事なことは何か知ってるか?」
と聞かれて、めちゃくちゃ考えたのだそうだ。

金の流れか、スタッフのやりたいことをどうやって実現するか、
あるいはメジャーなものをつくることか、
逆に芸術の鋭い刃をメジャーのふりした中に潜ませることか。
で、考えても答えが出なかったので、「なんですか」と聞くと、
「軍手だよ」と教えてくれたのだそうだ。
「軍手?」と聞くと、「だってないと手が痛くなるだろ」と、
ドヤ顔で言ったらしい。

城戸さんは阿呆で有名で、いろいろバカな失敗をやらかしている人なんだけど、
木村さんはこのとき「この人はとても大事なことを教えようとしている。
軍手は何の象徴で、手は何の象徴か、考えなければ」と思ったらしい。
城戸さんは、マジで手が痛くなるから、軍手をもっとけよ、
ということだけを教えたかったらしい。

つまり、難しく考えすぎてもいけないということだ。
二年目の先輩が、一年目に教えられることなんて、
せいぜいその程度、というのが城戸さんの面白いところで、
たぶん最後まで軍手が一番大事だと思っているような人なので、
僕は愛すべき人だと思っている。

城戸さんほどではないが、
これくらい力を抜いて、
テーマというのは考えるべきだと思っている。

なぜならば、
我々の書くものは、
相対性理論ではなくて、
「すべての人が楽しむ娯楽」だからだ。

だから、10歳くらい年下の若者に、
人生のコツを教えるとしたら何がいいかなあ、
と考えると、
難しすぎないが、本質的なテーマが出てくるのでは、
とおもったんだよね。

ただ、「人生には軍手が大事である」というのは、
1〜2分で終わってしまうような気がする。
2時間かけてする話ではない。

だから、
「2時間かけて話すべき、
人生で大事なことを、10歳年下に話すとしたら」
ということを考えるといいと思う。

もちろん、2時間みっちりの説教じゃなくて、
笑ったり泣いたり怒ったりハラハラしたり、
感情をフルに働かせる、とても面白い話としてだ。

だから、たぶん1〜2行で、
まとまるコツみたいなことが、
テーマになると思う。
そしてそれは答えが必要なもので、
それを知ると、
人生を生きることが少し楽になったり、
安心したりできるようなものであるべきだと思う。
(ハッピーエンド)

「老後に2000万ためとかないと大変なことになるぞ」
みたいな脅しや、
「人はいずれ死ぬ」みたいな悪いことは、
金を払って見る娯楽としては心地よいものではない。
だから、人生がよくなるものを、答えとして選ぶべきだとは思う。


だから、10歳年下の後輩に、
人生のコツをいくつか教えてやる、
という態度だと、
ちょうどいい何かが出やすいんじゃないか、
と思ったわけ。

年上の先輩に、
俺人生というのはこういうものだと思うんですよ、
と話すと、わざと難しく言おうとしてしまうだろう。
そうじゃなくて、年下だと、
なるべく簡単に、エッセンスだけに凝縮すると思うんだよね。

だから、10歳年下を想定してみたわけだ。

20歳の人は10歳に語り掛けるように。
40歳の人は30歳に語り掛けるように。
人生のコツは、なんだろう?


慣れたら、5歳年下、20歳年下、などに、
割り振りを変えてみるといいよ。


差別をなくすには、とか、難しいことが書けるわけがない。
「人生は一杯のビールだ」くらいのストーリーを書きなはれ。

最近書いた「最終章を先に描け!」は、
「殴り合って名作をつくる時代は終わった」が反テーマ(アンチテーゼ)だから、
「どんな時代も、殴り合って名作をつくるのはたのしい」を、
証明したことにもなるかもしれない。


人生のコツはなんだろう。
なんでもいいんだよ。
自分が思っていること、そのへんで言われていること、
誰もが認めること、一見違うけど実はほんとうなこと。

いろんなものを集めたり、書き出してみよう。
その中にあなたが書ける話があるかもしれないし、ないかもしれない。
ないなら、集めにいこう。
年上の先輩と飲みに行き、
「人生のコツってなんですか」
って聞いたら、いっぱい語ってくれるだろう。笑
posted by おおおかとしひこ at 08:11| Comment(2) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
テーマの決め方の一つの考え方としてとても参考になりました。
なるほどー。こう考えると出てきやすそうですね…
Posted by kyky at 2025年07月08日 11:49
>kykyさん

学校教育では、
先生が喜びそうなテーマ、親が喜びそうなテーマを、
選ばされていて、
つまりは年上用になってるなーと気づいたんですよ。
だから大上段に構えてしまうなーと。

一方ネットでの発言や、普段しゃべることって、
自分と似た人や好みの人にしか言ってない。

なので、広く、可能な範囲ってどこかなー、
などと考えてこの記事を書いた次第。
Posted by おおおかとしひこ at 2025年07月08日 13:09
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