キーボード配列をめぐる議論の中で、
前提にした方がいいこと。
現行のqwertyが打ちにくく、
ロウスタッガードが打ちにくいのは明らかだが、
「じゃあ打ちやすいとは何?」が、
分かってないのだよ。
まず物理配列。
斜めにずれてるロウスタッガードは、
頭がおかしい。
しかも1/4ズレと1/2ズレという不規則ズレが、
打ちやすいはずがない。
じゃあどういうのが打ちやすいの?
1/4ズレずつのロウスタッガード?
右ズレのロウスタッガード?
右ズレと左ズレの対称型にズレてるロウスタッガード
(シンメトリスタッガード)?
格子配列?
縦ズレのコラムスタッガード?
放射状?
Willow配列、Lotus配列みたいに曲線?
Uzuみたいに格子配列だけど回転?
19ピッチが正解?
狭ピッチがいいの?
等間隔ピッチであるべき?
キーの大きさは全部同じ? 異なるとしたらどう?
そもそも平面でいいんだっけ?
曲面にならべる?
左右は分割する?一体型?
テントする?チルトは?
凹型?凸型?サドル?
キーキャップは凹型?凸型?プロファイルは?
もう、「なにが打ちやすいのか」が、
わかってないのだ。
自作キーボードは、
この物理配列の「打ちやすいもの」を、
追求するジャンルだ。
3Dプリンタや金属切削や木工や電子工作などを結集して、
「打ちやすい形」をみんな追求している。
平面が楽だけど、立体も少数派ながらやってる。
だけど、
もう7〜8年経つけど決まってない。
そして、その法則もわかっていない。
指の形はそれぞれ違う。関節も幾何学的についてなくて有機的だ。
器用度も耐久性も敏捷性も違う。
左右差もある。
そして個人差がぜんぜんあるはず。
この前提と、最適なキーボードの形の関係は、
何一つわかっていない。
大規模調査をして、
「こういうタイプの人は、
こういう理由でこういうのが打ちやすく、
こういうのが打ちにくいです!」と、
明らかにしてほしいのだが、
そんな研究者はいない。
まだ、自分が打ちやすいキーボードを、
プレゼンしている状態だ。
論理配列はどうか。
A小指、FJホーム、TY伸ばしなどがあり、
運指が飛び飛びになる、非合理なqwertyローマ字は、
打ちにくいのは明らかである。
じゃあ「打ちやすい」とは何か?は、
いくつかの仮説が提出されている。
・ヒートマップ
文字には統計的頻度がある。
指には得意不得意があり、
その得意不得意に頻度を合わせれば良い。
これは最も合理性があるように見える方法論だ。
しかし、指の個人差を見逃している。
ある配列は小指使用を8%と見積もるが、
薙刀式は2%だ。これは小指はめっちゃ弱いと評価している。
このように、
「指の得意不得意」「押しやすいキー押しにくいキー」の、
評価ベースがそもそも配列によって大きく異なる。
僕はたとえホーム段であっても「小指は押しにくい指」と評価している。
また、文字というのは連続するものなので、
2連続運指が2連続文字と対応した時、
打ちやすい、打ちにくいが発生する。
もちろん3、4連続…もある。
これらをきちんと議論しているのは、
新下駄配列、飛鳥配列、薙刀式だけのような気がする。
(新下駄配列は100万字2gram統計から2連接設計。
飛鳥は膨大な評価打鍵から、カンで日本語の連接をつくった。
薙刀式は「繋ぎの語」を打ちやすくして、
2連接を打つ指の速度900パターンを測定して、
打ちやすい/にくいの根拠にしている)
また、
打ちやすい連接があることは、
打ちにくい連接を発生させることだ。
統計論的にいえば、それらを出現頻度と一致させればよいが、
マイナーな言葉ばかり使う分野など、
一般統計とは異なる文脈で使うと、
とたんに打ちにくくなる。
どの程度統計に従うか?も、
設計の塩梅になってしまう。
・打鍵範囲
ブラインドタッチ可能な範囲は、
片手5キー×3段、計30キーである、
というのが標準的解釈。
だが小指外も入れたろ、4段目も入れたろ、
という場合もあるし、
QPTYは打ちづらいから30以下にするべき派もある。
親指も活用しようぜ派もあれば、使わない派もある。
親指は何キーあるべきかにも派閥がある。
これは平面的な話だが、
立体の範囲もある。
レイヤーだ。
あるキーに一つの文字しか対応しないのを一階建としよう。
何かのレイヤーキーをオンにすると、
別の文字が出るように定めると、
キーを二階建てにできる。
レイヤー(層)である。
たとえばカナは50文字あるから、
30キーには全部入らない。
レイヤーを使えば、30文字は1階、20文字は2階になる。
2階にあげる文字はマイナー頻度であるべきだろう。
だがそれがどの文字が適切かについて、
打ちやすさ、打ちにくさがヒートマップである以上、
等価な2階席ではないのだ。
また、2階建まででよいのか、3階建は打ちやすいか、
4、5…とやった場合、
何階建が打ちやすい/打ちにくいか、
という問題がある。
アルファベット26文字、
カナ50字、
漢字2000字を、
どのように配置するかは、
ヒートマップと打鍵範囲の変数があって、
何が適切(打ちやすい)かの、
答えが出ない。
・文字をどう分類するか
日本語は一見規則的な文字を使うように見えて、
例外も多い。
清音だけで見てもヤ行は二つ足りなかったり、
ワ行に歪みがある。
撥音ん、促音っ、拗音、小書き、長音など例外がある。
濁音、半濁音がある。
ヴという外来音専用のカナがある。
ディ、ファ、トゥ、チェ、ヴュなど、
外来音を音写した外来音表記がある。
これらをどのように入力するのが「打ちやすい」のか、
決まっていない。
たとえば濁音は、「゛」あとづけがいいのか、
何かと同時押しするのがいいのか。
拗音は構成文字をn打鍵するのがいいのか、
同時押しで一発で出すのがいいのか。
(たとえば濁音拗音、半濁音拗音は手間がかかるわりに、
発音は1モーラと、音と手がバラバラになる)
外来音はマイナーとしてあきらめるか。
どれを優先してどれを打ちにくくすると、
「もっとも打ちやすくなるか」は、
まだ定まっていない。
ちなみにカナ50音というのはあくまで清音で、
1音に発音する1モーラ音(しょ、ぴゅ、ティ、フェ、クヮなども1モーラ)は、
薙刀式では157音と数えている。
30キーに比べておおすぎるやろ。
とくに外来音は、
薙刀式ではスィやキェは含んでないが、
シン蜂蜜小梅配列では含んでたりなど、
異同がはげしい。
これらのたくさんのカナを、
どのような範囲に、どのようなヒートマップで、
並べるべきか、
どれが「打ちやすい」のか、
定まっていない。
もともと、
たくさんの要素のトレードオフを、
バランスする感覚だ。
どのバランスのチューニングがいいかは、
使う人の感覚にも関わってくる。
カナを例に出したが、
ローマ字でも同様だし、
漢字に関しては「打ちやすさ」の研究がないのではないか。
共通することは、
ロウスタッガードは打ちにくい。
qwertyローマ字は打ちにくい。
だが「打ちやすい」は千差万別なのだ。
「最も打ちやすい」は、
どのような理論で決まるのか、
まだわかっていない。
「打ちにくいから打ちやすくしよう」
という無邪気な動機に対して、
答える側は大変な労力がかかる。
そしてそれらを比較して議論する
(双方を同程度打てる必要がある)ことも、
大変難しい。
物理配列は打てばわかるというのも半分で、
異なる論理配列で、
打ちやすい物理、打ちにくい物理もあるんよなー。
薙刀式の推奨は軽め押下圧(30g程度)、
できれば左右分割格子配列。
こんな風に、物理と論理のあわせで推奨があると、
今後議論が進むかもしれない。
これまで論理配列は、
自作キーボードがなかったゆえに、
伝統的ロウスタッガードの範囲内でしかいじれなかった。
自作キーボードによって、
物理配列から設計し直すことができて、
TRONを超えられる可能性が出てきたのだ。
僕個人のTRONキーボードを触った感想は、
自分の自作キーボードのほうが使いやすいと感じたな。
この感想が、
個人によって変わるのか、
ある傾向があるのかも、わかっていない。
つまり、「打ちやすさなんもわからん」
というのが現状なのだ。
だから、
「○○は打ちにくく、○○は打ちやすい、
なぜなら○○○○だからだ」
という理屈による分析を蓄積しないと、
単なる感想集めになってしまって、
奥底にある原則を、炙り出せないと思うのだ。
さて5/4の天下一キーボードわいわい会で、
打ちやすいキーボードを探そう。
それは何故打ちやすいのか?
その理屈を発見しに行くのだ。
2025年04月05日
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