「ウールマン」というタイトルに疑問を僕は持ちました。
「シープマン」では?と。
まずはGoogle先生に聞くとよいです。
「ウール」で検索すると、
羊の毛を原料とする動物繊維と出てきます。
刈り取ったばかりの毛はウールではなく、
それを精製して糸にした状態のもの、
ないしそれで編んだものがウールということになります。
なのでジャックの着ている、
セーター状にしたものはウール、
だが顔は羊なのでシープ?
という状態です。
「羊マンじゃつまらないからウールマンなら新しいかなあ」
という思いの、裏取りをいましています。
(ひょっとしたら「ウールマン」ありきで、
最初は刈り取った毛の方を着てたのかもしれない。
「ウール」を調べて繊維とわかったので、
セーターを着たことにしたかも?)
顔部分はウールじゃないけど、
まあウールとしても×ではないか、
ということです。
ここで「羊 英語」などと検索してみます。
シープsheep ラムramが出てきます。
シープは羊毛を刈り取るための動物、
そのうちラムramがオス、ユーeweがメス。eweって初めて聞いた。
子羊がlambで、ランプ肉と呼ばれるやつがこれ?
ラム肉とランプ肉は違うのかカタカナ表記でまざった?
で調べると、
肉としての羊はマトンmutton。
小羊肉がラム肉。
獣肉の中で一般にロース(腰部分)がランプ肉rump。
うわー、lrとauが混在する、
日本人の発音じゃ全部同じ「ラム」になるやつやんけ。
なので、マトン、マトンのランプ、ラム、ラムのランプと、
mutton, rump of mutton, lamp, rump of lamp
計4種あることになります。
はじめて知った。
羊のことはよく知らないことだからこそ、
こうやってまずは地固めをするわけです。
「羊の皮をかぶった狼」はa wolf in sheep's clothing
らしいので、
一般に「羊」という概念を示す語としては、
シープが正しい。
ということは「シープマン」が正しくて、
「ウールマン」をやりたければ、
羊のマスクをやめて、
顔までウールでくるまれた、不定形のヒーローになるべきだと思います。
わりと大人向けになるかな。
娘の誕生日にはハードルが高い。
ニュージーランドは公用語が英語98%、
古語のマオリ語が2%。
マオリ語で「羊」はhipi。
hipi manはいまいち響きがよくない。
このへんは、googleと辞書があれば調べることはできます。
そういう習慣をつけましょう。
知識がないならば、そのたびに調べて裏を取ればよいです。
一回羊について調べたので、
今後羊について間違うこともないだろうし、
仮に忘れても、もう一回調べればいいだけです。
ということで、別の名前も考えます。
シープマン 羊マン 羊マスク シープマスク
シープゴッド ヒツジマン
偶蹄王ウールマン シープキング
サンダーシープ
このへんで、動物系のプロレスラーを調べようかな、
などと思います。
タイガーマスク ブラックタイガー ウルティモドラゴン ドラゴンキッド
アニマル ホーク ライノ グリズリー スネーク キングコング
二つ名で、
狂える虎、狂える巨象、鳥人、狂犬、ナチの妖獣、
南海のクロヒョウ、黄金の荒鷲、飛竜、摩天楼の暴走狼、
鷹の爪、黒い猛牛
などなどかー。
シープキッド、ウールキッド、ウルティモシープ
いまいちだなー。
こうやって、現実にあるものと、想像の空間の距離を測ります。
たしかに羊をヒーロー化したものはないので、
想像の余地はある。
狼とか龍に比べて、誰もやっていないのを見つけたのはいいとしても、
そこからまだフィニッシュに行けるほどの何かが足りないわけです。
現実ですら、
狼や龍に形容詞や冠をつけているので、
シープマンだけでは単純すぎてリアリティがないというものです。
想像はこうだけど、現実はどうかな?
というのは、調べものをすると分ります。
羊の被り物をしているプロレスラーくらいいそうなものだし。
で、少し違いますが、
サバトのような儀式で、
ゴート(ヤギ)の被り物をしている例はよく見ます。
ゴートマンのほうがかっこよくね?なんて思ってしまうわけですね。
ゴートマスクとかのほうがかっこいいじゃん、
なんて思うわけ。
牧羊であれば話は成立するわけだから、
ヤギでもいけるのでは?などと想像します。
いやー、毛を刈り取るんだから、やっぱ羊かー、
と思いとどまります。
では「羊 マスク」で画像検索してみましょう。
リアルなマスクからかわいいマスクまでいろいろ出てきます。
中には頭蓋骨のマスクもあり、
なるほど悪魔儀式的なマスクの羊マンもやっぱあるか、
ヤギ以外でもあるんだこういうの、などと知識が増えたりします。
ひつじのショーンのマスクもあるのか。なるほど。
アフリカの羊のマスクもかっこいいなー。これは野性的だな。
で、どっち方向に行くか、迷うわけです。
かっこいい方向か、
間抜けなヒーロー方向か。
B級吹き替え系アクションを目指すのであれば、
マジにならないほうがいいので、後者でしょう。
もともとの「ウールマン」も、
ちょっと間抜けな方向性でつけられていると思います。
ただ、「ウールは間違っているよなー」が若干気になるので、
「サンダーシープ」という頭の悪そうなネーミングを仮採用します。
このようにして、
ヒーローネームひとつ決めるのでも、
ネット検索を縦横無尽に使って、
複数の知識を調べて組み合わせて判断するわけです。
一事が万事こんな感じで調べてください。
15分くらいの内容ならGoogleで十分です。
もっと長いものは専門的な知識が必要になってくるので、
「専門書を調べる」をGoogleや図書館や本屋でやるとよいです。
それを調べて読むだけでも一ヶ月かかることはふつうです。
それも込みで準備なわけですね。
たとえばニュージーランド郊外の街で、
牧羊地帯に車で何分ぐらいか調べたでしょうか?
5分10分で行けるならチェイスの続きは出来そうだけど、
1時間かかるなら冒頭の話は変わってくるでしょう。
最大どれくらい追いかけっこをして冒頭の会話に繋いだかを想像します。
まあ15分が限界なのでは。
観光地としての牧羊地帯ならニュージーランド旅行などを調べるとよいです。
70km、30分、2時間などと出てきました。
時速140kmでも70kmだと30分。
さて、このリアリティを嘘として飲み込むか、
別のリアリティを考えるかです。
マイケルは東北弁
(アメリカの吹き替え映画でテキサス訛りを表現するために、
日本の田舎言葉で吹き替えられるやつ)
で喋るので、田舎の子という立ち位置です。
東京〜福島くらいいかないと無理。
いや、埼玉〜群馬でギリ?
もともとニュージーランド英語を訛りと考えれば、
県境を越える距離でギリですかね。
アルプスの少女ハイジみたいな、
めちゃくちゃ風光明媚でない、
中途半端な田舎ならギリ成立かー、
というリアリティラインです。
となるとアスファルトで舗装はされてるし、
電柱もマンションもある程度の場所でしょう。
絵的には観光地レベルの方が美しいけど、
ここで絵と嘘を取るか、リアリティを取るかの、
二択があるわけです。
絵で嘘をつくならリアリティのあるドラマが必要かな。
全体でB級でまとめるなら、
ロケ地は少しリアル寄りのほうが面白くなりそう。
場所についてのリアリティラインが、
この脚本では曖昧です。
実際にロケ撮影をする前提で書かれてないです。
ニュージーランドは発展してないので、
街から15分でもう羊だらけの可能性もあります。
「ニュージーランド 羊 街から何分」
で検索してみると、
ブレナムという街なら、車で10分で羊に会えるそうです。
オークランド市内からワンツリーヒルまでは車で約20分、
という情報も出てきました。
ここで地図を広げます。
ニュージーランドは北島と南島に分かれています。
首都オークランドは北島。ブレナムは南島。
ブレナムを画像検索するとまあまあの田舎です。
ここでマフィアといざこざがある、
というのはちょっと無理かなー。
もう少し調べればあるかもしれません。
また、なぜFBIが田舎の方の南島にいるのかも、
よくわからないですね。
ということで、
首都オークランドの街の端っこの方でマフィアともめて、
車で20分の距離をかっ飛ばして10分くらいで、
ワンツリーヒル付近までたどり着いた、
とすればまあまあリアリティがあることになります。
もちろん、ブレナムの街をもっと調べて、
マフィアがいそうなところを探してもよいです。
こんな風にして、
地図や検索や写真を駆使すれば、
本屋に行ってニュージーランド観光ガイドや現地地図を見たり、
する必要はなくなります。
ネットがなかった頃は本屋に行くしかなかったことを考えれば、
一時間も検索すれば、
ある程度のリアリティが手に入るわけです。
ただ、「あれはどうなってるんだろう」
という想像力が必要なんですね。
実際Googleマップで写真をよびだして、
そこに立ってみてもいいでしょう。
皆が何を食い、どこで寝てるのかを想像するのもよいです。
オークランドのホテルはどうなんでしょ。
ジャックが泊まってそうな安宿はどんな感じかしら。
ジャックは安いウイスキーやバーボンを飲みそうなので、
「ニュージーランド 酒」で検索すると、
ワインがメインの国だそうです。あとビール。
ジャックダニエルがあったとしても高いでしょう。
「ニュージーのワインは口に合わねえ」
というセリフがどこかにあってもおかしくないです。
「ニュージーではジャックダニエルが通貨がわりになる。
美味いウイスキーがないからだ」
ってセリフもありそうです。
今回はそういうセリフがないですが、
そうしたこともキャラクター造形に一役買います。
もちろん、これが映画化されたら、
ニュージーランドロケをする必要があるため、
実際の街、牧場を見る必要があります。
そこで暮らしている人の感覚を得るには、
そこへ行き、現地の人と話すのが一番です。
まあこの企画のためだけにニュージーランドへ行く必要もないですけど、
脚本や小説には、
そのようなリアリティがあるほうが、
絶対に面白くなります。
たとえば、
「羊の群れが道路を横切り始めたら、
車は止まるべきだ」が、
現地の暗黙のルールだとします。
それを破るやつはよそ者とわかるわけです。
リタやジャックは、チェイスのときに、
羊が横断してきたらどうしますか?
リタはバイクだから牧草地帯に突っ込んでかわすでしょう。
ジャックは思わず止まるかもしれません。
そして、横断の前で止まってる現地人の別のバイクを奪うかもしれません。
こういう風なことをやれば、
羊の国の話であることを前振りできるし、
そこに異邦人としてやってきている、
リタやジャックを描くことができるわけです。
「カリフォルニアの海が懐かしいぜ」
なんてセリフで説明するよりも、
行動に結びつけて設定が可能なのです。
これは、
どれほどニュージーランドのことを知ってるか、
ということで決まります。
別に羊のことを知らなくても、
北海道で放牧してる牛のことや、
奈良の鹿のことを思い出せば、
想像はできるはずです。
とりあえずニュージーランドとあったので、
ニュージーランドで検索しましたが、
別にオーストラリアでも同じことはできるかもしれません。
ヨーロッパではイギリス、スペイン、フランス、
なんかでも牧羊は盛んだそうです。
へえ、イメージはスイスだけど、
スペインロケもいいかもね。
別に札幌ヤクザを捜査に来たFBI捜査官でも、
絵面は面白くなりそうだけどな。
最後はジンギスカンパーティーに呼ばれたけど、
「さすがに遠慮するわ」ってオチもできそうだし。
少し外れた田舎であればこの話はどこでも成立するので、
その中でもニュージーランドがベストか、
という検討がなされていないことがわかります。
リアリティを調べることは、
嘘をつく範囲を決めることです。
全部適当に想像で補うのではなく、
ちょいちょいほんとのことを入れると、
嘘と本当の入り混じりが面白く見えるんですね。
こうやって、世界の解像度をあげてゆくのです。
本当はこういうこと、
ここは嘘。
本当の解像度で嘘をつけば、
それはバレにくいです。
ちなみにヒーローネームくらいググりましょう。
「ウールマン」でググったらキン肉マンにいたわ。
「サンダーシープ」はなかった。
もしこれがものすごい傑作だとしても、
検索してたどりつく半数はキン肉マンに行ってしまう。
ので、被りをチェックすることが、
この時代必須になってしまったことは、
付記しておきます。
「誰でも検索できる時代」ということは、
「自分以上に検索する奴が現れる時代」ということでもあります。
作者が一番検索しとけば、
まあ大体嘘と本当のエリアの解像度がわかります。
ちなみにこの記事の検索は、
すべてiPhoneでやりました。
PCならGoogleマップでニュージーランドの様子をたくさん見ただろうな。
高々スマホでもこれくらいのことは調べられる、
という例をこの記事にしたわけです。
ほんとに調べたの?
って僕が思う時、
これくらいのことがまず脳内にうかびます。
ちなみに、本気で調べるなら、
まず初心者向けのニュージーランド観光ガイドを買います。
簡単な固有名詞を調べるためです。
それでニュージーランドの全体を俯瞰します。
歴史や民族や食べ物や文化を調べられます。
そこから個別に掘るために、
たとえばオークランドだけを調べる、などをやります。
オークランドの他はあるのか、と思ったら、
南島の徹底ガイドなどを調べます。
全体図、個別、など、自分でネットワークをつくりながら調べていくとよいです。
Google検索は点で調べることはできますが、
線をつくるのは自分です。
紙の本は、線を作ってくれて、
すでに整理されてるのがありがたいところ。
次に、作品の方向性について考えます。
2025年05月11日
この記事へのトラックバック
舞台を決めるときにどのように大岡監督が考え、どのように調べるのかが具体的に書いてあり
とても参考になりました。
リアリティある作品を作るためにはどうすればいいのかは
このブログで学ばせてもらっておりますが
こうして具体的な作品と共に、思考プロセスを記述していただけると
より明確に理解が進みます。
ありがとうございます。
続きも楽しみにしています。
こういうのは具体がないと想像すらできないですからねえ。
先輩が横でやってるのを見てればなんとなくわかるんですが、
アナログの本集めがデジタルになって、
見えにくくなりましたねー。
なのでこういう具体は見せておくと良いなと思った次第。
実は最終回で、もっと調べると羊の毛刈り自体では、
ストーリーが成り立たないかもまで分かるんですが、
まあコメディということで。