2025年05月18日

そのラストシーンが最適解だったのか(短編「ラストシーン」是枝裕和×iPhone 16 評)

30分の短編映画。
https://m.youtube.com/watch?v=1nP45TNIIKM&pp=0gcJCdgAo7VqN5tD
iPhoneで撮ってるとはいえ、
リリーフランキー出てるし、
カメラマン瀧本幹也だし、
照明ちゃんとしてるしカラコレしっかりしてるし、
万引き家族並の総力戦じゃないですか。
若いキャストと音楽が変わっただけの、
いつもの是枝映画でした。

自主映画にありがちな設定ながら、
ひとつのポイントで、
ギリギリプロの作品に仕上がっている。

その脚本的解説。


自主映画にありがちな特徴。

・自分に近い人を主人公にしている。
 さえなくてモテなくて、底辺のボク。
・そこに若くて行動的なカワイイ女の子が飛び込んできて、
 旅に出ることになる。
・車という密室(今回は観覧車も含む)で、
 ロードムービーに出る。
・目的地が海であることが多い。

・基本的にノスタルジック。
 今回は観覧車、紙のメニュー、パチカメなど。
 そこ未来のiPhoneで撮らないんだとびっくりした。
 そのアイテムの中に「テレビドラマ」が入ったのは、
 少しいまの時代的ですね。

・タイムスリップ、ロボットなど、アメリカ映画の影響が強い。

・基本的に状況に振り回されてる主人公が、
 最後に勇気を一歩踏み出して終わる。
 (「落下する夕方」テンプレと名付けた)

つまりメアリースーの典型だ。
「女子高生と車で海へ行く」
パターンもよくある、
と過去記事で指摘したが、
まさかの鎌倉行きで爆笑しちゃった。

これと拳銃をなぜか拾うパターンもよくある
(「天気の子」が典型)けど、
銃=絶対的な力は、今回はペンであったことよ。

メアリースーの典型のその2は、窓辺系ね。
「窓辺で外を見ながら考える」カットがやたら多いこと。
傷ついたボクちゃんが、
周囲の優しさで自分を取り戻す、
メアリースーにありがちだ。
今回は観覧車の中がそれにあたる。


さて、これらの自主映画臭いポイントばかりの中で、
一つだけプロの技が入ってることで、
「自主映画にはできない、プロの自主映画っぽいもの」
になっていた。

「主演女優と結婚している未来」だ。
セリフを書き換える、成長した一歩を踏み出すと、
その幸福な未来が失われてしまうという、
二律背反が上手だ。

自分の個人的な未来を取るのか、
作品を取るのか。
そしてテレビドラマ界を救うのか。

「ボクの仕事ですから」と、
現場で脚本を書き換えるときが、
「踏み出す一歩」であったのだが、
そこから、
その覚悟をしてでも踏み出す、
という力強さを持ってきたところは、
アマチュアには描けない。

逆境を乗り越えるところがこういったストーリーのキモなのだが、
そこにただ踏み出すだけではない、
力強さを入れたところが脚本的ポイントだね。

観覧車の中で彼女が消える描写は、
どの映画にもないオリジナルで美しかった。

だけどよく考えてみると、
「自分が消えてでもドラマ界を救う」覚悟が彼女にあった、
という設定はだいぶ変だよな。
タイムパラドックスをもっとよく考えるべきだろう。

なので、
ラストシーンの観覧車のオジサンがロボット、
という飛び道具を持ってこないと、
この「?」の感覚を除去できないのよね。
このロボットがなくて、
単に孫(別の世界線の)を見ただけだと、
終わった感じがしない。

なので、「逃げたな」と感じてしまった。



自分ならどうするかなー、
と思いながら見てるがゆえに、
僕なら、彼女が消えた後は、
ラストシーンの撮影の場面にするかな。

その最後のセリフを言い終えて、
主演女優が主人公に「このセリフを言えてよかったです、
よければ今晩ごはんでもどうですか?」と誘ってきて暗転し、
時間飛ばして、
未来の観覧車の前になり、
透明から現れた孫娘の前にじいさんの脚本家が立ってて、
「おばあちゃんはどうだった?」と質問して、
「かわいかった!おじいちゃんの写真も撮ったよ!」
と写真を見せる。
つまり世界線から消えたのではなくて、
未来に戻った体にするわけ。

「観覧車、取り壊すけど新しいのつくるって」
『そうなんです(ロボットおじさん)』
「やった! 世界線変わった!」
で終わればいいんじゃない?って思った。

「ラストシーンを書き換えたら、
また次のラストシーンがやってくる。
僕は僕のラストシーンが来るまで、
何度でも書き換えようと思う」
みたいに終わればテーマに落とせると思うけどね。




たぶん第一稿では、
ラストシーンの撮影で主演女優がデートに誘ったところで終わってて、
「ご都合じゃない?」って言われてたんじゃなかろうか。
だから「ラストシーン」ってタイトルだったのでは。

色々な別解があると思う。
リライトの訓練に最適の課題かもね。
posted by おおおかとしひこ at 08:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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