2025年05月17日

【脚本添削SP2025】8(終) 解説

赤ペン解説.pdf
書き込み型解説です。参考にしてください。
(なお鉄仮面を鉄下面と誤変換しています。痛恨。
前の完成原稿はそれを直してあります)


今回の添削スペシャルでは、
最終原稿というよりも、
原稿を書く前のことについて、より詳しく書いてみました。

下調べをするときに、
何に気を付けるべきかを特に書きました。

下調べをする目的は二つあります。

一つ目は、「間違っていないのかを確認すること」。
あるいは、解像度を上げることです。
そもそも「ウールマン」はキン肉マンで使われてるし、
ニュージーランドはどうなっているのかも調べるわけです。
ニュージーで良く無かったらスペインのシナリオもあり得ました。

もっと大事な二番目は、
「リアルを知ることでより発想を豊かにすること」です。
たとえば今回サンダーシープを発想するときに、
「古代マオリ族に伝わる羊の神がいて、
その神が現れるときは雷を伴う」みたいな、
適当な神話をでっちあげることも考えました。民明書房的に。

で、実際マオリ族に伝わる伝説を調べると、
羊の神はいないっぽかったので、
FBI側に雷の伝説があるということにして、
仮面をかぶる理由とひっかけたわけです。

あるいは、冒頭のチェイスで、
羊の群れが道路を渡っているときのリアクションで、
それぞれの立場を示すこともできたわけです。

こんな風にして、そこで起こりそうなこと、
リアリティがありそうなことを利用して、
ストーリーを紡いでいくわけですね。

もちろん、自分の中でイメージしたことの実現も大事ですが、
それがあまりにも現実と遊離してたり、
現実離れしすぎている場合は、
「現実にあるものを利用する」のがいいと思います。
そのために現実を知って、
それをベースにアイデアをまた考えればいいのです。


とどのつまり、
下調べとは、「使えそうなものはないのか」を探す行為でもあるわけです。

調べものというと単に正解を探すことをイメージするかもしれないですが、
「何か使えるやつある?」という取材でもあるわけですね。
下調べは、その現実の世界を良く知り、
よりよくもっといいネタがみつかる所を知るためにある、
といっても過言ではないでしょう。

今回特に調べていないですが、
オークランドの地理とか特定の場所とか、
南島を舞台にしたら、とか、
色々調べるとさらにニュージーランドに詳しくなるかもしれないですね。
物書きは物知りであるわけですが、
たいてい「過去に書こうとして調べたネタ」
について詳しく知っているだけで、
すべてにおいて物知りなわけではないですよ。

今回はマトンやラムやランプの違いも調べられたので、
これからマトンとワインを合わせてみて、
「ジャックやリタはこんな飯を食ったのかー」
と想像するのもいいことです。
ラムのグリルはサイゼリヤにあったので、
2000円もあればデザートまで行けそう。
立派なレストランで数万円払えば、
ボスが食ってる飯を楽しめるかもしれないですね。


実際にニュージーランドに行ってれば、
また別のネタを探せたかもしれません。
取材旅行、シナハン(シナリオハンティング)ともいいます。
千と千尋の神隠しで、
宮崎駿やアニメーターが台湾の温泉宿に取材したことは有名です。
そこで得たビジュアルが、宿のビジュアルやストーリーに生かされるわけです。
ネットで得られる、誰でも知ってる情報よりも、
現地だけが知ってる情報のほうが貴重です。

今回は15分なので取材はネットで十分でしょうが、
いつか大作を書くときが来るので、
そういう時は取材に現地まで行ってみることをおすすめします。

もちろん、僕だって想像で書いたわけです。
ニュージーランドならでは、
というのはたいして入ってないでしょう。
羊祭りとか北海道の牧場でやってるイベントっぽいし。笑

だけど、
舞台よりも人間のほうが大事なことは、
どんな物語でも同じです。
人間と背景の関係です。
しかし背景の解像度が上がって来ると、
人間関係の解像度も上がって来るのではないでしょうか。


で、ちなみに羊の毛刈りの実際も調べてみました。
「羊 毛刈り」でYouTube検索すると、
いくつかの動画がでてきます。たとえばこれ。
https://m.youtube.com/watch?v=gWesuc0bmWk&t=1s&pp=2AEBkAIB
二人がかりで一頭10分はかかりそう。
一頭3kgかー。
これを群れ、たとえば30頭だとかなり大変そう。
さらに90kgもある毛を精製して人形をつくるのは、
一日でできるのか?レベル。

YouTubeは第二のGoogleといわれるくらい、
検索には便利なので、
やり方や動画を調べるのは有効ですね。

面白かったからそのまま乗っかったけど、
リアルには難しそうだなー。
コメディだからヨシ、にする手もあるので、
だとするとサンダーシープは、
もっとコメディ的な活躍にした方がいいかも?
まあこれくらい羊と殺しの落差があった方がいい説もあります。





最後に。
れおさんの作風について質問があったので答えておきます。

一言でいうと、少年漫画風という感じでしょうか。
前向きで明るい主人公を描くのが得意では、と思います。
良く言えばポジティブで善性のある世界観ということです。

しかし世界の半分は、
ネガティブで悲惨で悲しくて理不尽でつらくてずるくて悪であります。
だから、世界の半分を描いていないなあというのが感想です。
とりわけヒーローものを応募してくることが多かったため、
善性の反対側である悪側に、
ネガティブな部分がなかったことのように存在しているのが気になりました。

そういう悪や悲しいことは現実によくあるから、
創作ではそれをせめて外すのだ、
というやなせたかしのような世界もあり得ます。
世界は悪や悲しいことがメインなのに、なお人はもがくのだ、
という地獄で戦うベルセルクのような世界観もあり得ます。
どちらも分かった上で、
自分はこれをやるのだ、というほど覚悟があるようには見えないです。
世界の半分を無視しているというか、なかったことになっている気がします。

アンパンマンは、自らを食べさせることで他人を助ける、
という唯一無二のヒーローです。
それは戦争で食えなかったことの反動、
という覚悟をもって描かれていますが、
そうした「世界の悲しい半分を背負いながらも善性を描く」
という風にはなっていないですよね。

たとえば「デスノート」を経てない少年漫画、
「デビルマン」を経てない少年漫画のように思えました。
少なくともこの2大傑作は読んだ上で、
自分の作風はこれで良いのかを検討するべきです。
青年漫画でいえば「闇金ウシジマくん」「九条の大罪」がありますね。

映画はもっとグロいのが多いです。
「レクイエムフォードリーム」みたいな最悪な映画は、
一応見ておくべきです。「ミスト」も嫌な終りだったなあ。
他にもバッドエンド映画はたくさんあるので、
適宜検索して処方してみてください。

これらが世の中にあるというのに、
自分は何を突き詰めるかを考えてください。

また、作風というのは自分で決めるものではなく、
書いてるうちに出てくるものです。
逆にいうとパターンにハマってるともいえます。
なので、一度自分の作風を崩す、
という実験もやってみたほうがいいかなあ。

ダークファンタジーをやる、
ラブストーリーをやる(女性キャラが魅力的だったことがないので)、
学園部活ものをやる、
子供だけが出てくるものをやる、
老人だけが出てくるものをやる、
女だけの話をやる、
などなど、15分以下でよいので、
一度やってみるとよいです。
そうすると、まったく別のものを、
自分の世界に取り込めるようになると思います。

自分の世界を純粋にするのではなく、
自分の世界を雑多に豊かにして、それから純粋に練り上げていくとよいです。
今の状態はまだ材料が一つな感じがする。
世界はもっと玉石混淆で、もっと多様で、もっと方向性がバラバラで。
それを煮込んでひとつの方向へまとめ上げていく、
ということをやってみたほうが、
今後の世界の広がりの練習になると思います。

たとえば僕は全然違うものを書いてみたくて、
「百の恋はざわめく」という100本の恋愛小説を書いてみました。
老若男女、被らない登場人物100パターンでの恋愛を書く、
というのは修行としてやってみるのもいいかもしれません。
100はしんどいから10でいいけど。

毎回異なるものを出す、という訓練は、
没に対して素早く次を出す訓練にもなります。
押してもダメなら引いてみな、ができるようになります。

そうすると、世界に対して異質なキャラクターが登場したり、
世界に対して異質な条件やムードをつくれて、
それらがアウフヘーベンするまでのお話を書けるでしょう。


そうそう、れおさんの話の登場人物は、
「同じ人間たち」という感じがしました。
異なる人間同士が色々あってそのうち一つの方向を向く、
という人間の群れの醍醐味を書けてないと思います。

あるパターンまでは出来るけど、
「新しいパターンだな」まで到達するには、
そうした「違う者」を世界に入れられる訓練が大事かなと。




ということで今回はおしまいです。
おつかれさまでした。

もちろん、異なる人が添削をやれば、また全然異なる作品になると思います。
今回の「サンダーシープ」もあくまで一例で絶対ではないです。
でも「あるものを見てどう思うか」は大体同じだと思うんです。
みんな同じ名作を見て、同じ駄作を見てるからですね。

では通常運転に戻ります。


これまでの脚本添削スペシャルは、
http://oookaworks.seesaa.net/article/436584535.html
にあります。そのうち今回のぶんもアーカイブ化します。
(追記)今回のぶん収録済み。
posted by おおおかとしひこ at 05:38| Comment(4) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お疲れ様です。

今回の添削SPでは、下調べの重要さが理解できた気がします。
特にファンタジーやSFと違って現代ものは
より現地のことやその職業のことを調べるのが大事なんだなと。
(もちろんファンタジーもSFも現実世界の取材をしておくことは大いに大事ではありますが)


取材して使えそうな素材をより多く知っておくのが
作品の良さに直結するということが
わかりやすく説明されていたように感じました。


応募者のれおさん含め、今年の添削SPお疲れさまでした。
Posted by kyky at 2025年05月17日 22:45
>kykyさん

そもそも調べ物をする理由は、
嘘をつくためです。
本当を知ってる人から嘘じゃん、と言われたら、
嘘の魔法が解けてしまうので。
本当を知ってる人でも、
「それはありそうな気がする」と思われたら、
全員を魔法にかけられるわけです。

ファンタジーやSFはより嘘を本当らしく見せる必要があります。
AIがSFに出てきたら、
なぜこのAIはハルシネーションを起こさないのか、
うまく設定できなければもうリアリティがないですよね。
ハルシネーション防止回路ができたからだとしたらどのような原理か、
みんな気になってしょうがないもんね。
Posted by おおおかとしひこ at 2025年05月18日 01:35
今年も脚本添削スペシャルの開催ありがとうございました!!

下調べについて弱い点、作風が一貫しすぎていて他の世界を見られていない・考えられていない、同じような思想のキャラクターばかり……など、グサリとくるご指摘ばかりでした!
己の弱点から逃げずにしっかりと挑んでみようと思います💪
今年も大変勉強させて頂きました!!
精進致します!!!

脚本術のブログ更新も毎日の楽しみです😊
本当にありがとうございました!!
Posted by 自称弟子のれお at 2025年05月18日 19:25
>自称弟子のれおさん

今年も楽しんでいただけたようで幸いです。
この公開スパーリングは、
次に出てくる人の見取り稽古になっているはずです。
Posted by おおおかとしひこ at 2025年05月18日 19:53
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