タイトルは聞いたことあったが、
全く見てなかったので見てみた。
なんだ傑作じゃないか。
なんで知らなかったんだろ。
ひさしぶりに「映画見て良かった」って思える傑作。
というか、「オールユーニードイズキル」って、
ほぼこれのパクリやん、ということに気づく。
ネタバレなしでしばらく進行。
アメリカの冬、
デカいネズミみたいなウッドチャックの行動を見て、
「春がいつ訪れるか」を占う、
地方の伝統的な祭りがある。
(原題のGroundhog Dayはその祭りのこと。
日本語に訳しにくい原題よ。日本名ウッドチャックと、
グラウンドホッグとも異なってるし、
「穴ネズミ祭り」がギリわかるレベル。
しかし映画のタイトルとしては「?」だろう)
3年連続、
そのしょうもない祭りを取材させられている、
気象予報士が主人公。
今年もくだらない祭りのレポーターをさっさと終わらせて早く帰りたい。
だが今年に限って新人美人Pが帯同するので、
ちょっと異なっている。
朝6:00に起きて、しょうもない祭りを取材して作り笑顔をし、
帰るときに吹雪に巻き込まれて田舎町へ引き返す、
で、朝6:00に起きると、
何故か同じ日を繰り返している、という話。
毎度毎度リセットして同じ朝からはじまる。
最初は気が狂いそうになる
(同じレポートをしなければならない、
イヤーな感じの高校の同級生と偶然再会する)が、
このループ世界を楽しむことにして、
そいつを殴ったり、
ゆきずりの女を口説いたりする。
あるループ回で女の情報を聞き出して、
次の回でその女と話を合わせて寝てみたり。
それも飽きてくると、悪さをするようになる。
飲酒運転で暴れて線路を車で走ったり。
どうせリセットされるんだろ?と。
だが何回も何回もやってるうちに飽きてくる。
自殺してもリセット。事故死してもリセット。
この永劫無限地獄で、最も難関があった。
例の美人Pを口説くことだ。
何回も何回もリセットして、
何回も何回も素敵なデートをするが、
何回やっても部屋に連れ込んだところでビンタされておしまい。
次の朝には、昨日の素敵な夜は彼女は知らない。
「オールユーニードイズキル」は、
軍事ものでループアンド攻略をやっていた
(失敗したら死ぬ)が、
この映画は日常もの、ラブストーリーでそれをやる。
基本的にはコメディ調だけど、
この映画のオリジナリティはここからの後半にある。
こうしたループ世界の提示、
攻略してクリアしていく感覚は、
前半でやるべきことで、
後半、この世界をどうやって閉じるかが映画のオリジナリティになる。
「オールユーニードイズキル」のオリジナリティは、
「もう一人ループ者がいたこと」。
この映画はそんな奇手を使わず、
真正面ストレート勝負だ。
そこがすばらしくよくて、それがこの映画を傑作にしている。
そしてその大成功ゆえに、
以後のループものは、奇手を使わざるを得なくなったのだろう。
そのストレート手がネタバレになるので、
ここからはネタバレOKの方のみどうぞ。
もし未見であれば傑作は僕が保証するので、
ネタバレを知らないでラストまで見てほしい。
この映画がこの本質的な良さにも関わらず、
全然語られないのはもったいなさすぎる。
クリスマスの度にオンエアされる映画になってもおかしくないのに。
逆に、
これを明かしたらネタバレになってしまって見る意味がなくなるので、
だからこの作品はなかなか語られないんじゃないかなー。
本質はここからだからね。
死んでもリセット、女を口説いてもリセットなのでむなしい。
だから主人公はこの無限の時間を利用して、
ピアノを習い始める。
音楽教師を探して、毎回毎回少しずつピアノを習うのだ。
ついでに氷彫刻もやりはじめ、
祭りに並ぶ氷像なみに作れるようになってしまう。
無限の時間を使って芸術をマスターしたあとは、
人助けをしはじめる。
ホームレスを助けて感謝されるが、
何度助けてもその人は寿命で今日死ぬしかなかった。
(ここうまい。他の人を助ける動機になる)
木から落ちた子を受け止める、
パンクした車を助ける、
喉に入れ歯を詰まらせた市長を助ける。
同じ町の同じ日で、
助けられる人全員を助け、
ピアノを弾く人生を送るようになる。
その時はじめて彼女に惚れられるようになる。
最初は悪態をつき、くだらねえ早く帰りてえ、
スターには安宿じゃなくていい宿にしろ、
晩飯は一緒に食わねえよ、
なんて言ってたクズ男が、
「いい人になる」という展開が素晴らしい。
悪事を尽くしてきた不良が、
いい大人になる展開だ。
それがうんざりするような繰り返しの毎日から、
自然にそう思えるように誘導されてる、
この脚本が完璧だと思った。
このへんで我々は思うわけさ。
似たような毎日の繰り返しは、
この男と同じじゃないかと。
どう時間を使っても自由なんだから、
どうせならいいことをするように使うべきなのではと。
その結果、彼女を自然に口説けてしまう。
あんなに彼女をループで調査して、
こすい手を使って口説こうとしてたのに、
そんなことは関係なくあまりにも自然にベッドイン。
で、2人で目覚めたらループは終わってたというオチ。
毎朝毎朝1人でベッドで目覚めて、
どんな幸福も朝になったらなかったことになっていたのに、
目覚めたら彼女が隣にいたという、
もっとも幸福なエンディングだ。
完璧じゃんか。
普通ならばそこに教訓のひとつも垂れて、
実は世界はこうであったのだ、なんてことをいいがちなのに、
吹雪が開けた銀一面の美しい風景で、
「ここに家を買って住もう」
とスパッと落とすのがとてもいい読後感だ。
世界の仕組みがわかった。
そんなふうに感じられるお話だ。
世界には色んな可能性がある。
こすいことをやっても一夜限り。
わるいことをやっても一夜限り。
死んでも一夜限り。
一夜限りでしかないとしたら、
いい人であるべきでは?という究極だ。
人生には色んな可能性があるが、
我々は有限しか生きられない。
だからいい人であるべきでは、
という結論がとても心地よい。
前半、悪いことをコメディチックにやりまくったのが効いている。
無限パターンの自分の人生を知ってるからね。
何度も生まれ変わって、悪人の魂が浄化されるみたいな。
それが自然な愛だというオチが、
これまたとびきりのラブストーリーになっている。
「素晴らしき哉、人生!」や、
森絵都の小説「カラフル」を見たあとに近い読後感だ。
(残念ながらアニメ映画版では原作の良さが再現できてないので、
小説版を読むことを強く勧める)
悪いことを描きまくる前半がとても効いている。
そりゃバレずになんでもできるなら、
なんでもやって楽しむよ。
でも出られない日常という牢獄に気づいたら、
せめていい人でありたいという変化。
この大きな変化を描くことが、
この映画の主題だ。
だからネタバレできないから、
「何度も同じ日を繰り返すんだけど、
美人Pだけは口説けないんだよなあ」の、
コメディ調までしか予告に出せない。
毎度ずるい手で口説いてビンタされるまでしかね。
「これは同じ日をループし続ける男が、
悪いことをしまくったのちに善に目覚め、
いい人として人生を繰り返す日常をやろうとする話である」
と本質を語ったら、
ネタバレになっちゃうからね。
つまり全体が、ゆっくりとした大きなどんでん返しなんだよね。
ヘンテコループ世界をモチーフとして、
それは我々の代わり映えしない日常と同じじゃない?
って言ってることは明白だ。
余命幾ばくもないとわかれば人はたいてい善人になろうとする
(「生きる」とか)が、
それをループ世界でやったのがとてもいいアイデア。
どこから着想したのだろう?
終身刑の囚人のインタビューからだろうか?
「もしこの一日を永遠に繰り返したらどうなる?」
からの着想だろうか?
ループ世界から脱出する方法を探すのではなく、
そこで諦めて生きてる孤独感がすばらしかった。
「どうせ明日になったら君はこのことを忘れてるんだ」
という絶対的な孤独感もすばらしかった。
私たちはこんな孤独の中に生きているよなあ、
という感情移入を強くするからだ。
というか、こんなに孤独に感情移入する映画は、
ぼくは初めてだ。
誰もいないところで1人いるとか、
逆に都会の中で誰からも顧みられない1人とか、
そういうのはよくあるけど、
それは孤独をただスケッチしただけだ。
それを表現(別のBを使って、孤独Aを描く)にまで発展させたのが、
この映画の本質かもしれない。
そこまで孤独になり、
誰も自分を理解しないと悟ってから、
ピアノをやりはじめ、彫刻をやりはじめ、
それができる余裕があって、
はじめて人助けをして。
何度か生まれ変わって徳を積むことは、
究極の孤独なんだな、ということがよくわかる。
そこからの、大切な人を見つけることが、
孤独の次の世界へいくこと、
というオチがすごくよい。
あー、今好きな人がいないのが残念だ。
好きな人ができたら、
この映画を一緒に見て笑いたい。
人を幸福にする。
それが映画のやるべきことだ。
こんなに幸福に僕はできるだろうか。
いつかこんな素晴らしい映画をつくりたいという、
いい目標になった。
2時間で語れることを、
究極まで知り尽くしたアメリカ人の、
最高の映画の1本を知ることができた。
コメントで見るきっかけをくれたくらげさんに感謝。
なんで自分が知らなかったのかを考えると、
やっぱ邦題よね。
「恋はデジャブ」なんてダサいタイトル、
見ようと思わないよね。(当時大学生)
男子は同時期、ターミネーター2とか見てたわ。
あと、ビル・マーレイを、
僕はずっとトム・ハンクスだと思ってたことに気づいた。
不機嫌な方がビル・マーレイ、
白痴の方がトム・ハンクスか。
このオジサンどこかで見たことあるなーと調べたら、
ゴーストバスターズの、ダン・エイクロイドのコンビ、
というか主役じゃん。
「外人のおっさん」というカテゴリーの中に入ってたわ。
ロストイントランスレーションで主演男優賞総なめだったそうだが、
あの映画陳腐すぎてエキゾチズム楽しめなかったしなー。
あとはウェス・アンダーソン映画の常連だったそう。
えー、天才マックスの世界からライフアクアティックまで、
あの不機嫌なおやじがビル・マーレイかー。
たぶんBOSSのCMの、
トミー・リー・ジョーンズ(メンインブラックの人)と、
入れ替わってても気づかないかもしれない。
外人のおっさん、俺には区別がつかぬ。
そのへんのヒキの弱さも、
僕が知らなかった理由だろう。
ループ世界?どうやって脱出する?
リモコンを探せばいいんだ!(「タイムマシーンブルース」)
というほどキャッチーな予告もできないしねー。
ある一つの強烈な目的がなく、
むしろ人生の目的を探す映画だからなー。
人生どう生きるか?
まで行くとは思わなかったよ。
これをうまく宣伝することは難しい。
だから僕まで届かなかったんだ。
みろ!くらい強制しないと無理だろうな。
シャワーが毎回水しか出ない、
なんて小ギャグじゃあヒキが弱いよね。
あとウッドチャック祭りじゃヒキが弱すぎる。
(地方のしょうもない伝統祭りとして使われてるから、
もともとヒキの弱いものなんだけどね)
本質とヒキについても、
考えさせられる映画だった。
これは宣伝部を鍛えるいい題材になるのでは。
ちなみに脚本書いた人はハロルド・ライミス。
ゴーストバスターズを書いた人。
ビル・マーレイやダン・エイクロイドとは、
その時からの付き合いなのかー。
おそらくそういうコメディ文脈として公開されたから、
アメリカで認知されやすかったんだな。
こうしたアメリカのコメディの文脈って、
日本であまり知られてないよねー。
2025年07月01日
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