感情移入論。
ミラー細胞というものがある。
人間やほかの動物に備わっているもので、
相手の仕草を見たら、
その感情が沸き上がる、
というものだ。
これはある程度文化的に支配されている。
中指を立てる風習を知らなければ、
怒りや挑戦は伝わらないだろうね。
ある程度表情で伝わるだろうけど。
で、
お芝居を、
「悲しい顔をしてるから、私まで悲しくなる」
と勘違いしてはならない、
という話をしたい。
「悲しい顔をしてるから、
この人は悲しいのだろうと想像する」
までは可能だが、
「私まで悲しくなる」かは保証しない、
ということ。
楽しい顔をしてたら、観客は楽しくなる?
怒りの顔をしてたら、観客は同じく怒る?
そんな簡単にマインドコントロールできるわけないやん。
CMではいまだにこの方法が効果的だと誤解されている。
美味しそうに食べる顔があれば、
その人はそれを食べたくなる、
とマインドコントロールできると、
信じているかのようだ。
自分に置き換えてみればわかるのに、
なぜ置き換えられないのか、
僕はいまだにわからない。
CM見て、うまそうだな、食べてみたいと思うことってある?
実は、「ただ食べるだけ」ではそうは思わないのよ。
「新しい食べる快感」を見ると、
オッと思うんだよね。
日清のカップヌードルは、
あさま山荘事件の生中継で、
寒い時に外でカップヌードルを食べてる機動隊員が映ったときに、
爆発的に売れたという。
それはCMで食べるさまよりも、
新しく見えた。
寒い朝に仕事で現場を離れられず、
それでも暖を取りつつカップヌードルを食うのは、
うまそうだぞ、と思えたのだ。
こういう出会いのものがあれば、
想像力が働く。
自分も体験してみたい、とね。
単なるミラー細胞では、
ここまで食べたいとは思わないのよ。
うまそうに食ってんなー、
悲しそうだなー、
笑ってるなー、
怒ってんなー、
でしかないのだ。
とくに、映像の制作者が信用ならず、
冷めた目で見ていればさらにだ。
つまり、ミラー細胞で反応できるレベルは、
たかが知れている。
にも関わらず、
「泣いてる絵を見せたらみんな泣く」
と勘違いしてる無知が多すぎる。
つまり、
何か感情が昂っている様を見せれば、
その感情になるわけではない。
どんなうまい役者でもそれは無理だ。
「ほんとうにそのような感情に見える」
までしか再現できない。
ではなぜ私たちは映画で泣くのか?
ストーリーによってである。
我々は、ストーリーによって、
その人が泣く理由を知っているのだ。
その人が抱える事情があり、
ずっとこらえてきたのだが、
あることがあり、
こらえきれず泣く。
そういう事情を知ってるからこそ、
我々は泣く芝居で、ほんとうに涙を流すのだ。
モンタージュ理論を理解していれば、
Aのあとに無表情な顔をしても、
Aに対して良好なリアクションをしている、
と感じるのであった。
つまり、リアクションの芝居は、
最悪無表情でもいいんだよ。
Aの「文脈」のほうが大事なんだよ。
つまり、
私たちが映画で泣くのは、
「泣く顔を見たから」ではない。
その事情に親身になり、
感情の爆発に耐えられないから、
映画で泣くのだ。
それが感情移入という行為である。
ミラー細胞で伝わるのは反射レベルだ。
そうではなく、
事情をわかり、都合が見えて、
なおかつどうしようもなく泣けるから、
我々は泣くのだ。
ミラー細胞を促す役者の芝居は、
そのトリガーにすぎない。
だから、
本当らしさや、間や、タイミングが、
重要なのだ。
嘘臭かったり、わざとらしい、
ご都合主義の事情では、我々は鼻白むのみである。
つまらないストーリーでは泣けないわけ。
泣けるのは、極上のストーリーのみだ。
もちろん、
ストーリーの事情を理解し、
親身になってあげるのは、
大きくはミラー細胞のおかげであろう。
それがなかったら、
我々は群れとして生きられないだろう。
仲間を助け、仲間とともに生きる生物は、
皆ミラー細胞が働いている。
だけど、
泣いてる顔があるから泣く、
という短絡ではないことを考えるべきだ。
つまり、
映画で感情が昂るのは、
そのストーリーによるものだ。
その昂る場面に至るまで、
長い時間を過ごしているからこそ、
主人公の昂りに対して、我々も昂るのである。
ざっくりいえば、「情が湧いてる」のだ。
我々書く者は、
だから、
どんなにリアリティがあり、
詳細な場面を書いても、
それは点の感情であり、
情がわくほどの親近性はないことを、
理解することだね。
今日もCMでは、
美味しそうに食べたり飲んだりするカットが、
山ほど流れている。
バカだなあ。
映像の何たるかを知らないど素人め。
まあ、15秒で情がわくのは無理だから、
刹那的になっているのだろう。
だからといってミラー細胞の反応は、
テレビから売り場まで持つまい。
2025年10月07日
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